表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

産まれまして異世界!?

以前に肥前文俊さんの企画「書き出し祭り」にて提出した作品になります。

せっかく書いたものなので公開しておきます。

「う……ん……」


 何もない真っ暗な場所で、一人の少女が目を覚ます。


「あれ……? 真っ暗……ここ、何処だろう……」


 目覚めたばかりでぼんやりとしながら少女が自分の周囲をペタペタと触る。


「狭いな……」


 少女は、すっぽりと包むような大きさの硬い何かに包まれている事に気がついた。普通ならば、突然そんな場所へと来てしまったらパニックになるだろう状況だったが、そんなことはなく。


「なんだろう、すごく落ち着く……」


 まるで、母の温もりに包まれているかのような安心感を感じながら少女が目を閉じる。瞬間、脳裏に自分の手が青空へと伸ばされている映像がフラッシュバックする。


「そうだ……私は……! ふぐっ!?」


 はっとなり、今狭い場所にいることを忘れ、勢いよく立ち上がろうとした彼女、小林咲良(さくら)がゴンっという重い音をたて、天井らしき部分で頭頂部を強打した。


「お……おぉぉぉ……」


 あまりの痛みに咲良が身悶える。


「いったあ……いい音したなぁもう……」


 そんなことを呟きながら咲良が頭を擦っていると、ふいに真っ暗に閉ざされていたカツカツという音と共に小さな世界に亀裂が入った。


「何? 光が……」


 カツカツ、カツカツと音が鳴る度にその亀裂が広がっていく。その世界に閉ざされていた咲良は、その光へと手を伸ばす。すると、その光が差し込む亀裂の部分が、先程までの硬い感触と違い、脆くなっていることに気がついた。


「なんだろう、脆くなってる? なら……えいっ!」


 咲良が両手を光の亀裂へと突き出す。すると、パキッという小気味のいい音をたてながら咲良の両手が外へと飛び出した。


「眩しい……外に出られそうかも。とりあえず他の場所も……よっと!」


 咲良が自分の周囲に走る亀裂を次々と叩いていく。そして、周囲がボロボロになったのを見た咲良は。


「これなら上を持ち上げたらいけるかも!」


 咲良が天井を支えるように手を突き、力を入れながら立ち上がると、天井はあっさりと持ち上がる。


「やった! ……え?」


 そこで、咲良は見た。 


「拝啓、お母さんとお父さん。それから、柴犬のポチ。学校の帰りに階段から落ちたと思ったら……ひぅ……」


 咲良の何十倍も大きい生き物がポカリと口を開いて咲良を見下ろしているのを。


「目の前にでっかいドラゴンがいました……」


 咲良、涙目になりながら再び天井を元の位置に戻ししゃがみこむ。


「ぐるぅ!?」


 ドラゴンからも「ちょっと!?」とでも言いたげな鳴き声がしたが、今の咲良の耳には入らなかった。


「何があったんだっけ……うぅ……」


 そんなことを考えながら、涙目の咲良はこれまでの事を振り返るのだった。




 それは、咲良の高校二年生の夏休みの直前の事。


「夏休みは遊ぶぞー!」

「咲良さっきからそればっかりだね」

「だって夏休みだよ!?」

「ふふ、まぁ気持ちはわからなくはないけど」


 憂鬱なテスト期間をなんとか乗り越え、夏休みを迎える嬉しさで踊り出しそうな咲良。そんな咲良を、友人であり幼馴染みの、遠藤翔子(しょうこ)は、昔から相変わらずな咲良を見て笑う。


「でも咲良、宿題はちゃんとやってね?」

「うぐっ……ぜ、善処します……あーテストも宿題もない世界に行きたーい!!」

「はぁ……」


 悲しく叫ぶ咲良を見ながら、これは今年も夏休みの終わりに泣きつかれるんだろうな、と心の中で呟きながら溜め息を吐く。しかし、この翔子の予想は外れることとなるのだが、今はそんなことなど知る由もないのだった。

 咲良と翔子が、帰り道の陸橋の階段を上る途中、妊婦であろうお腹の大きな女性とすれ違おうとしたとき、何かが破裂するような音に続き激しいブレーキ音が響いた。


「きゃっ!?」

「な、何!?」


 直後、轟音が響き、咲良達の立っていた陸橋が激しく揺れた。その瞬間、咲良は見た。自分の少し上の段に立っていた女性がバランスを崩しかけているのを。


「危ない!」


 咲良にためらいなどなかった。気付いたらその女性へと向け手を突き出していた。階段の下へと傾きかけていた女性は、咲良に押され階段の上の段に尻餅をつく。


「あ……」


 世界がスローモーションになる。咲良は自分の体が後ろへと倒れていくのを感じていた。女性を守った右手は、今はただ力なく蒼い空へと伸ばされている。咲良が最期に見たのは、そんな光景だった。そして、頭に激しい衝撃が走ると同時に彼女の意識は途絶えた。


「……あれ?」


 ふと咲良の目が開かれる。そこは、どこまでも真っ白な空間だった。


「初めまして、小林咲良さん」


 そんな男の声と共に、咲良の目の前に光の球が現れる。


「えっ!?」

「驚かせてしまいましたね。今回あなたをここにお呼びしたのは、あなたに謝罪と感謝をしなければならないからです」

「どういうことですか?」

「まず最初になのですが、あなたは命を落としました」

「やっぱり……そうなんですか……?」

「……はい」

「私……死んじゃったのか……あ、あの女の人はどうなりました?」

「彼女はあなたのお陰で無事です。そして、彼女のお腹の中の命もまたあなたに救われました」

「そっか……よかった……」


 死んでしまった悔しさ、家族や友達にもう会えないという寂しさ。そして、二つの命を救えて良かったという安堵が混ざり合い、咲良の頬を涙が伝う。

 それからしばらく、心を落ち着けた咲良が光の球へと話しかける。


「ところで、私はこれからどうなるんですか?」

「それもこれから説明しますね。まず、あなたが救ってくれた新たな命なのですが、実は別の世界から転生してきた者だったのです」

「……はい?」


 咲良は、突拍子もない話についていけずにキョトンとしてしまう。


「信じ難い話でしょうが、事実なのです」

「なんか、まるで漫画か何かの話みたい……」

「すみません、話を続けますね」

「あ、はい」


 それから、咲良は色々と説明を受けた。あの事故は、トラックのタイヤがパンクし、コントロールを失い陸橋に衝突したことで起きた事故だったこと。咲良の前にいる光の球にはその事故から女性を守ることができなかったこと。そして、咲良が救ったのは、以前いた世界を命懸けで守った者だったこと。

 咲良がそれらを聞き終わった後。光の球は咲良へと一つの提案をしてきた。


「転生……ですか……」

「はい、あなたが救ってくださった彼の魂もそれを望んでいます。今なら繋がりがある彼が守った世界へと向かうことができます。どうしますか?」

「私は……」


 悩んだ咲良が決断したのは――




「転生するとは言ったけど……これは聞いてないよー!」


 あまりにも予想外の状況に絶叫する咲良。


「えっと……これでいいかしら? 聞こえる?」

「ひゃい!?」


 突然聞こえてきた女性の声に咲良が可愛らしい声を上げる。


「だ、誰ですか……?」

「とりあえずタマゴから出てきてもらってもいいかしら?」

「タマゴ?」

「あなたが被ってるそれよ」

「これタマゴたったんだ……」


 咲良が恐る恐るといった様子でタマゴの殻を持ち上げる。そこには、ルビーのように美しい目を見開いて咲良を見つめる深紅のドラゴンがいた。


「驚いたわ……本当に人の身体……やっぱりあのお告げは本当だったのね……怯えないで、私はあなたを食べたりはしないから」

「あなたは……」

「私はフラーメル。あなたの母親よ」

「………………はい?」


 深紅のドラゴン、フラーメルの衝撃の発言に気の抜けた言葉を返すのがやっとの咲良。咲良が自分の周囲を見ると、まだ割れていない状態のタマゴがいくつかあった。その何れも咲良が出てきたタマゴと同じ物のようだった。


「あなたは私のタマゴから産まれたんだもの。それなら私はあなたを娘として歓迎するわ。ふふ、その髪と目の色は私に似たのかしらね。」

「え? そういえば髪が伸びてる」


 以前の咲良の髪は肩ほどで揃えられていたのだが、今の咲良の髪は目の前のフラーメルの鱗のように鮮やかな深紅のロングヘアーになっていた。


「髪なんて染めたことなかったけど……綺麗……」


 そして、自分の身体を見下ろした咲良は、自分が一糸纏わぬ姿であることに気付く。


「服は仕方ないよね。というか身体も縮んでる、っていうか子どもになってる……あはは、本当に生まれ変わったんだな……」

「わからないこともたくさんあるでしょうけど、ゆっくり知っていけばいいわ。私が教えて上げるわ」


 こうして、小林咲良として命を落とした少女は、深紅のドラゴン、フラーメルの娘として二度目の人生を歩むこととなるのだった。




感想やご意見、誤字脱字の報告等ございましたらよろしくお願いします。

そのうち続き書いてみたいなぁ、なんて思ってます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ