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創世の竜と漆黒のみこと  作者: 木瓜zombie
9/10

1 Fact is stranger than fiction (7)

広い廊下を長年訓練してきた忍者のごとく走る。


抜き足、差し足、忍び足……と大袈裟にならずとも、それこそ本当に長年の経験で身体に染み付いて道場で普段からしている通りすり足で移動していると、それに気づいたのかアレクが興味津々でこちらを凝視していた。


「ミコト様、ミコト様」


「ん?どうしたん?アレク」


「ミコト様、身体を五ミリメートルほど浮かせて歩くのはどの様になさっているのですかぁ?そんな魔法陣は見たことがありませんが……」


「え?魔法陣……?ゲッ!」


右手の甲に、森で何度も災難を起こし、そして隊長との戦闘の際に初めて私の意志で出てきた魔法陣が、ゆっくりと回転している。


時には大きな壺の裏に隠れ、また時にはアレクが魔法で異空間を創り出し、その中に入って息を殺したりと、着実に前進していた。


その間、まさか自分でも無意識のうちに魔法を使っていたとは……反射とは本当に恐ろしいものである。


道場の教えでは、足の裏に紙が一枚あるイメージで歩くように……言われてきたが、これが両足同時に実際に出来る日が来るとは。


某人気番組の猫型ロボットになった気分だ。


「……セレストが言ってたんやけど、無意識的に魔法が発動してしまうらしくて、説明するのは難しいかもしれん」


この魔法にはもちろん呪文もない。

他のひとが再現できるものかもわからない。


本人(わたし)も分かっていないのだから。


「無意識ですって……?そんなことが出来るわけ……」


深刻な表情に変わったアレク。


……これ言ったらあかんやつやったんかな。

でも誤魔化す方法も無いし……。


そもそも、これから一緒にいると思われる大切な友人に嘘はつきたくない。


一人ハラハラしていると、しばらくの後、自己解決したのか何か決意した表情になった。


「ご安心ください、ミコト様。いざという時は僕が(他のひとの)盾になりますから。ミコト様を(牢屋に入れられないように)お護りするのも僕の使命ですからぁ〜」


「う、うん?ありがとうアレク。私もアレクのこと守るからな!」


「……へっ?…………ふふふ。はい、ありがとうございますぅ」


笑顔のまま、満足気に隣を歩くダークエルフはとても無防備に見えた。


私のこと、ちょっとは認めてくれたんやな。




荘厳な雰囲気が漂う深いカーミン色大扉の手前の物陰で立ち止まった。


彼が言うには、あの扉の向こうに王子がいるらしい。


「じゃあ早速、いこうか」


意気揚々歩き出した私を凄い力で引き戻すアレク。


「お待ちください、ミコト様。魔法がかけられていると言っているでしょう?ミコト様の身に何かあってからでは遅い」


語尾を伸ばしていないことから、相当真剣モードのようだ。


「でも行ってみんと分からんし……」


「駄目です!だめったらだめ!僕が先に行きます」


それでもなお歩き出そうとした私の腰に両腕を回し、ぎゅっとしがみついているアレクに、「分かった」と渋々同意する。


「何も無ければお呼びいたしますので」


アレクの背中を見ながら、なにか引っかかる思いがした。


王子の部屋の前だというのに護衛の人間が一人もいない。

それどころか使用人(ファタ)さえこの辺りにはうろついていないのだ。


それほど強力な魔法で防御されているのだろうか。


真っ直ぐ前を見据え、大扉に手を掛けたアレクが突然固まった。


その横顔が険しい表情に変わった。


「アレク!」


居ても立っても居られずにすぐさまアレクのもとに向かった。


「ミコト様!出てきちゃだめです」


「やっぱりなんかあったんやな」


「大したことではございません。ただ……」


「ただ……?」


苦虫を踏み潰したような顔をしているアレクを見つめていると、突然アナウンスが流れ出した。



「僕の部屋に入るつもりなら、合言葉を言ってね」



「合言葉……?」


アレクが困っていたのは、どうやらこのことらしい。


「なんや、心配して損したわ」


「ミコト様……」


「アレクになんかあったんかと思って……防御魔法の他に何か仕掛けられてるかも、と思って飛んで来たのに……合言葉って」


「……っ!お気づきだったのですか?」


「仮にも王子の部屋やし、なんかあるとは思ってたけど。これじゃただのインターフォンみたいなもんやな」


「いんたーほん?」


知らない単語だったのか、首をかしげるアレク。


「こんな風に……例えば玄関の前に来た人に、主人は家の中にいるまま受け答え出来る機械のことやで。この王子の部屋と似てるなって思って」


「ミコト様の国はそのように高度な文明が発達しているのですねぇ〜。服はそんななのに……」


「いや、これは稽古する時に着るだけやから普通の人はもっとキラキラしててオシャレな格好してる……もんやから」


なんか言ってて悲しくなってきた。


「へぇ、そうなんですかぁ〜。じゃあミコト様も普段は可愛らしい格好をなさっているんですねぇ。安心しましたぁ」


断じてそんなことはないが、あえて返事はしないでおこう。


「合言葉はー?もしかして分からないのー?」


依然、合言葉を要求してくる扉に、半信半疑で……いや、これしかないと決心する。


「アレク、一旦ここは私に任せて」


「ミコト様の仰せのままに」


「合言葉は……」


「合言葉はー?」


多分これや!


「開けぇッ!ゴマァ!!!!」


掛かり稽古で相手を投げた時と同じくらい気合を入れ、叫んだ。


廊下に声が響き渡った。


しかしなんの音沙汰(アナウンス)もない。


「ミコト様……もしかしてぇ、間違ってたんじゃないですかぁ〜ふふ。うっかりさんですねぇ〜」


「いやぁ、うっかり八兵衛……じゃないっ!そんな……ドアを開けるときの合言葉って言ったらこれやと思ったんやけどな……」


安直といえば確かにそうだが……ああもう、だんだん不安になってきた。


「ミコト様、僕の後ろへお下がりください。こんな事もあろうかと移動中に僕自身に防御魔法(アミナ・エンプロソフィラキエ)を施しておきました」


瞬時に私を庇う体制をとるアレク。


それにしても彼の有能さには驚くばかりだ。

自己評価が低すぎるのではなかろうか。


私に言わせれば、もう大絶賛して……。


「うん、すごく良いね。今まで聞いた中で一番気持ちがこもってるよ。トップスコアだね。気に入った」


「そうそう、アレクは凄い……ん?今の声は?」


ガチャッと音を立ててひとりでに扉が開き、中へ入れと言わんばかりだ。


「ミコト様、おめでとうございますぅ。ミコト様の妙妙たる知恵のおかげで無事に入れるみたいですよぉ〜」


「え……ほんまに?やったー!やった!アレク!」


「やりましたねぇ!ミコト様」


小躍りしつつハイタッチを交わし、開いた扉の中へと進もうとした。


しかし何かが動いている気配を感じ、歩みを止める。


ドアの中にも壁のようなものがあり、それが邪魔で前に進めない。

よく見るとそれはたくさんの本が中に詰め込まれている。

そしてその一見壁のように見える本棚たちは慌てているように右へ右へと流れていく。


目の前で本棚が高速移動しているのだ。


部屋の右側に均等に並び、そして動かなくなった。


目の前に空が見える。


どうやら全面が透明なガラスばりのようだ。


広くなった部屋の奥で、逆光になっている人影。

その周囲をパタパタと紙が飛び交っている。


「あの、王子様、こんにちは。お邪魔してます。」


「ああ、君たちだったんだね。凄いね。合言葉を当てるなんて。もしかして君は……その、秘密基地作り隊シリーズ……いや、なんでもない」


「そんな風に言われると気になります」


「へ?あ、いや……すまないが気にしないでくれ。そ、それでここに来た要件は?」


一国の王子が、たかだか女一人にビクビクしているとは少し情けない気もするが、それなりの理由があるのだろう。


手が震え、額から汗が流れ落ちている。


それを見ていることさえいたたまれない。


「王子様、先ほどは本当にすみませんでした」


「は?」


「ミコト様!一体何をなさるんです!」


私は二人の目の前で、膝を折った。


所謂、土下座である。


「この国でお世話になるにも関わらず、事もあろうに、出会い頭でデンドリックアゲート王国ののセラフィナイト・アーバス・デンドリック王子を欺いた挙句、王子を驚かせてしまったこと、本当に申し訳ございませんでした」


「ミコト様……」


部屋全体を埋め尽くしている真紅の絨毯のみを視界に入れながら、謝罪をしていると後ろにいたはずのアレクが、私よりも前に出たのがわかった。


なんとアレクも見様見真似で膝を折り、土下座をしたのだ。


「アレク!」


「主であるミコト様の罪は従者である僕の罪でもあります。ミコト様、どうか僕にも背負わせてください。アナタの友人として」


「アレク……」


「本当に、申し訳ございませんでした」


それこそ出会ったばかりの友人にこんなことをさせてしまうとは本当に情けない。


入ってくるのは私だけにしておけばよかった。


後悔先に立たず、二重に迷惑をかけてしまった、と悔やんでいると王子の靴が目の前にやってきた。


「……頼むから、二人とも頭を上げてくれないか?そんな事をされたら俺の立場がなくなるよ」


「王子……」


「では、その海のように広い御心でミコト様をお許しくださるのですか?」


「許すも何も、悪いのはこちらだ。出会い頭に情けない姿を晒してしまって驚かせたね。申し訳なかった」


そう言って王子は勢いよく土下座をした。


え……何この状況。


部屋に入って数分で土下座トライアングルが完成してしまった。


「王子、ほんまにやめてください。私、今度こそ近衛兵に殺されます」


「まず君が立ち上がってくれ」


「いや、王子が」


「ミコト様、提案があるんですけどぉ〜……お二人が同時に立ち上がってはいかがですかぁ〜」


「僕がせーのって言いますからぁ」といつの間にか一人立ち上がっているアレクが真横にやってきた。


「わかった、アレク。頼むで。王子もいいですね?」


「もちろんだよ」


「行きますよ!せーのっ」


即座に反応するのは私の悪い癖なのかもしれない。

うそでもゆっくりと立ち上がらなければならない瞬間がここにあった。


ばっと立ち上がると未だに土下座をしたままの王子が目に入る。


やってしまった。


「ひっ!王子……やめてくださいよっ」


「良かったですねぇ〜ミコト様、許してもらえて」


「アレク!そんなこと言ってる場合じゃないったら!誰かに見られたらヤバいってば」


この状態は本当にまずい。

あの小隊長でなくとも、この城にいる人なら誰でも飛びかかってきそうだ。


アレクは例外だが……。


アレクになんとかしろと言いつつ、王子を横目にチラッと見ると小刻みに震えていた。


私が同じ空間にいるばっかりに、もう体調が限界に達しているのかもしれない。


「王子様、とりあえず医者とか呼んできた方が良いですよね、どうしよう!アレクこのお城に王子付きのお医者さんとかいる?いるよな」


「ミコト様、落ち着いてくださいよぉ〜」


「でも王子が!」


「ブッ!!!!!くっ!!!!あはははははははは」


その声に驚いて振り向くと、ヒーヒー言いながらお腹を抱え、もう片方の手で絨毯をバシバシ叩いている。


「……?」


「医者は大丈夫みたいですよぉ〜」


「なんなの!君……急にきて土下座したと思ったら……あははははは!そんなに焦らなくても誰も君を取って食べたりしないよ!」


「……王子様?」


「はぁ……苦しい。笑い死んでしまうよ」


落ち着いたのか、王子はようやくゆっくりと立ち上がった。


「本気で心配したのに……」


「ごめんね、君の動揺の仕方が尋常じゃないから……面白くて」


マリンブルー色の瞳に涙を浮かべながら、こちらをまっすぐに見つめる。


王子と初めてまともにアイコンタクトが出来た。


一時はどうなることかと思ったが大胆な行動がとれたのはアレクがいてくれたおかげかもしれない。


「……でも、なんともなくて良かったです王子様。これからお世話になります。天中(あまうち) (みこと)です。よろしければミコトとお呼びください」


「俺はデンドリックアゲートのセラフィナイト・アーバス・デンドリック。どうか気軽にセラと呼んでくれ、ミコト」


「王子を呼び捨てですか?そんなこと……恐れ多くて無理です」


「そこをなんとか、だよ。見たところ歳も近いようだし、あのセレストが連れてきたんだ。敬語も使わなくて結構。余計な気を使うことはない。それでも……嫌かい?」


「ミコト様、ここはお言葉に甘えた方が良いと思いますよぉ〜。」


アレクが王子の後押しをするというまさかの展開に私は頷くしかなくなった。



仕方ない、名前を呼ぶ練習でもするか。



「セラ……」


「っな、んだい?」


「呼んでみただけ」


「は?なんだって?」


目を点にしているセラに今度は私が堪えきれなくなる。


「なにその顔!あひゃひゃひゃ!はーおもしろ」


「ふふふ、ミコト様の笑い方怖いですぅ。でも確かにあんな王子の顔は初めて見ましたぁ、ふふ」


「ミコト、アレク…とやら……二人して俺のことをからかってるのかい?」


「「めっそうもない」ですぅ」


見事にハモってしまい、微妙な空気が流れる。

いまいち説得力に欠けるシチュエーションだ。


「あ、ミコト様、あんまり長居して王子のお仕事の邪魔をしてはいけませんよぉ〜。そろそろお暇しましょう」


どこまでも有能な友人、兼従者のアレクが助け舟を出してくれた。


「あっ、そうやな。それじゃセラ、お邪魔しました〜」


「待て!話はまだ終わってないっ」


お辞儀をしてくるりと来た道に戻ろうとした私の腕を掴み、絶対離さんぞ、という勢いでセラが握りしめる。


「なに?別に話すことも無いのに……」


あっアカン、この言い方はちょっとまずいかな……逆上させてしまうんちゃうかな。


言ってしまってから内心ヒヤヒヤして唾を飲み込んだが、


「えっ?あ……いや……この後用事が無いなら、えっと……そうだ!第三図書館に行くから付き合ってくれないかな?」


「第三図書館?」


もはや怒ってはいないようで、ほっと胸をなで下ろす。


「うん、まだ行ったこと無いよね?」


「そりゃ、もちろん……でも仕事は?」


「ミコトは気にしなくてもいいよ、必要最低限のことは終わらせたから」


その言葉は嘘では無いようで、パタパタとせわしなく飛び回っていた紙ーーおそらく書類はもう一つも宙に浮いてはいない。


「……ミコト様、僕もぜひ行ってみたいですぅ」


アレクが、ちら、とセラを伺いながら小声で言った。


「アレクも行ったこと無いんや。本かぁ……」


第三図書館という事は、第一、第二、もしくはそれ以上の図書館がこの城の中にあるのかもしれない。

それだけの書籍があるならば、元の世界へ帰る手がかりが一つくらいは見つかるかもしれない。


「ではセラ王子のご好意に甘えて、お供させていただきます。ですから……そろそろ手を離していただけませんか?」


頼みごとをする側なので、できるだけ失礼の無いように、と思い丁寧に言ったのだが。


「ゥワァッ!!」


驚愕した表情で勢いよく振り払われた。

その瞳には怪しく光る白い輪が浮き上がっていた。


あれは……まさか。


次の瞬間、猛烈な速さで吹き込む風に身体全体を圧迫され、足元をすくわれた。

お読みくださりありがとうございます(⌒▽⌒)


今回はひとまず早めに投稿できて良かったです

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