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創世の竜と漆黒のみこと  作者: 木瓜zombie
10/10

1 Fact is stranger than fiction (8)

遅れました汗

机の端に積んであった書類の山が一瞬で部屋の隅々にまで飛び散り、本棚がガタガタと音を立ててぶつかり合った。


「ミコト様ッ!」


風圧……というより全身に打撃を食らったかのように、息ができない。


苦しい……けど、


相手の次の行動が予測できなかった事は……それだけ気を抜いてしまっていたのだが、魔法という特殊能力があるこの世界の事を踏まえた上でも対応出来なければ。


まだまだ未熟者だと叱られるに違いない。


と、呑気にそんなことを考えていると嵐のごとく吹き荒れる風の中を平然とこちらに走ってくるアレク。

彼だけ異空間にいるかのように見える。


ああ、そうかアレクは防御魔法を身に纏ってるから平気なんやな。


壁にぶつかるギリギリの所で私の身体を見事にキャッチした。


見かけは小学四、五年生ほどの体格しか無いにも関わらずたいした包容力である。


「ミコト様、お怪我はありませんか?もう大丈夫です」


どこが大丈夫やねん!と突っ込みそうになったが、なるほど彼の言うとおりアレクの身体に触れているだけで風が跳ね返っていくらしい。


風によって巻き上げられた小物や障害物も飛んでこない。


「こんな事なら……無理にでもミコト様にも魔法をかけておくべきでした」


突然のことに対応出来なかったことが、それはそれは口惜しそうに唇を噛むアレク。


前言撤回、アレクが一緒に入ってきてくれて良かった。

私一人だった場合、もう少し派手にやられていたか、もしくは私の方が危害を加えてしまっていた可能性がある。

私がもっとしっかりしていれば良かったのに、という後悔も先に立たない。

やはりこの世界の事をしっかり理解する必要がある。


と、なると王子が先ほど言っていた図書館に行くことが定石、というか最善なのだろうけれどもこの状態では、王子を置いてずらかる、などという事も出来ない。

王子が発動させた魔法の事も気になる。

アレクのように呪文を唱えていなかったことに加え、あの速さである。


そして肝心なのは、王子の目に浮かんでいた白い魔法陣。

私の右手に出現する者とよく似ている。


「あのさアレク、あの王子の魔法って……」


「恐らく、反射の一種かと思われます。彼が初めて発動した魔法でしょう。“激しい感情”に反応して現れる類のものです」


「……王子が初めて?っていうか感情に伴って魔法が発動するって……どういうこと?」


呪文を唱える他に魔法が発動する条件があるという事だろうか。

この世界に来てから魔法を何度も誤作動させてしまっているが、アレクの言う通りだとすると、あれらはすべて私の感情に反応して発動していたという事になる。


セレスト曰く……具現化数値が高いらしいが、そうなると想像する事と感情とが複雑に絡み合っているのかもしれない。


「申し訳有りません。今は詳しく説明する時間はありません。一刻も早く彼の暴走を止めなければ!」


「……うん。わかった。で、具体的に何をすれば良いんやろ」


「彼は我を失っています……ミコト様に触れていたことが相当ショックだったのかと思われます」


「あ、あぁ……そうやな」


オブラートとか、そんなもん無いよな。緊急事態やもんな。


語尾を伸ばすどころか話し方が少々辛辣になってきている友人、アレク。

切羽詰まるとはこの事だ。


まあその原因は私なんやけど。


「……ですからミコト様がセラフィナイト王子に抱擁を」


「は?抱擁?」


真剣な表情で何を言い出すんや、アレク!


「そのような顔をなさらずとも、まだ話は終わってません。前者、あるいは急所を殴って彼を気絶させるのです」


「えっ……そんな事したら……それこそ首をはねられかねへんのちゃう?」


「ですから……!僕だって不本意ですけど、ミコト様が抱擁をして下さい。恐らくそれで気絶するはずです。それが一瞬で彼を止める方法だと思います」


「でも……それも十分無礼」


「ミコト様!このまま誰かに見つかれば大事になりかねません。王子のためでもあるのですよ」


仕方ない。

これも何かの定めかも知れん。

腹をくくれ、私。


この世界に来て初めての事だらけやったけど、異性に抱擁をする機会がこのタイミングで巡ってこようとは。


ハグ……特に男女でする抱擁とは好き合っている者同士のものだと記憶している。


中学に上がった頃だったろうか、そういうシーンを放課後に見かける事もあった。

羨ましいとは正直思わなかった。


まあ、武の道に精通する者として色恋にうつつを抜かすようでは話にならないという事もあり、年齢イコール彼氏いない歴を着実に築き上げてきたわけだが。


突然のハグ……。

それもほとんど一見さんに……。

バックドロップを決める訳でもないし、そもそも力の入れ加減はどうすれば良いのだろうか。

ここにきてそんな事に悩むとは我ながら、嘲笑してしまう。


おばあちゃんが生きていた頃は……よく抱きしめてもらってたっけ。


でも今回はそれとは別やもんな。

どうすればええんやろ。


いくら見目麗しいイケメンだからとはいえ、流石に気がひけるが、アレクがそこまで言うなら、やってやろうと思った矢先、ふとアレクとの会話を思い出し踏みとどまる。


「……ちょっと待って、アレクって変身魔法(アラアギ)?得意なんじゃなかったっけ」


「……はい。そうです……ってまさか」


一、二歩後ずさりしたアレクの両肩をがっしり掴み、しっかりとアイコンタクトをとる。

深緑の双眼が揺らめいているが、御構い無しに、一ミリたりとも逸らさない。


「アレク、私がセラ王子と抱き合うのは嫌って言ってくれてたよな?」


「だっ!抱き……僕はそんな破廉恥な事は申しておりません!」


「……ん?そうやっけ?でも、私の言いたい事、分かってくれるよな?」


「それは……命令ですか?」


「……アレク、友達の切なる願いでもあるし、そもそも言い出しっぺが手本を示すと言うのはよくある事やと思うんやけど、アレクはどう思う?」


「分かりましたよぉ〜!!やります!やらせていただきますよぉッ!」


半泣きしながらも、同意を得ることができ一安心だ。

もちろん心苦しくない訳では、断じてない。


今にも倒れそうにフラついている王子に見えないようアレクが持っていたアイテム……魔法道具らしいが、一見するとただの輪っかのようにも見える物ーーで、異空間に一時避難する。

とは言っても、輪を大きくしてそれをくぐると姿が見えなくなり、その場から気配が消えるそうだ。

しかし輪っかに入っている側からは何の障壁もなく普通にしているのと変わらないので、「これでほんまに隠れてんの?!」と疑いたくなるほどだ。

ついでに、防音室でもあるらしい。


ほんまにすごいなこの輪っか。


私としては、何ていうか……大きいシャボン玉に入っている気分やな。


急に二人が消えれば王子が気づくかと思ったが、心ここに在らずというふうに虚ろな表情のまま何やらブツブツと話している。


ごめんなセラ王子。

早く何とかしないと。


「では、行きます。口調までは真似できないかも知れませんが……」


「そんなんええって、関西弁って難しいらしいし」


「分かりました。変身魔法(アラアギ)発動(ギクネスタヒ)せよ!アマウチ ミコトの姿を示せ!」


両腕に帯のような光を巻きつけ、アレクが呪文を詠唱した。



***




「セラフィナイト様!!ごめんなさいですわ!ワタクシのせいでまたこんな事になってしまって」


コツコツと音を立てながら高いヒールの靴を履きこなし、ドレスの裾を少し上げている少女。


「嫌だ……来ないでくれ。嫌だ……やめて……こんなはずじゃなかったのに……」


きらびやかなドレスをその身に纏い、淑女の鑑と言わんばかりに、か弱く、儚く、そして美しく瞳にうっすら涙の幕を張り、ゆっくりと近づいていく“アレク”。

その姿はまさしく可憐な花のように、立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は何とやらだ。


あれは本当に私なのか?否、別人だ、と言わざるを得ない。


当の私はというと、輪っかを足に引っ掛けながら円から出ないようにアレクの隣に並んで歩いている。


「アレク、ファイト!」


エールを送りながらも複雑な気分だ。

顔は確かに私なのだが、何故か後光がさして見える。


「うるさい!こっちへ来るなァ!……それ以上近寄るな!!俺に触れるな!!」


怒気を発しながら、喚き散らし始めた王子にアレクが一瞬ひるんだ。


これは本気(マジ)でヤバイな。


「セラフィナイト様……」


「……女なんてみんな同じだ……汚らわしい……ハァ、ハァ……俺の眼の前から即刻消えろ!女なんて見たく無い!!」


次の瞬間、アレクの姿はなくなっていた。


ドンッという鈍い音が聞こえ、振り返ると壁にぶつかった衝撃で、地面にうつ伏せになっているアレク、本人がいた。


衝撃で魔法が解かれたのか、元の姿だ。


先ほどまで壁にかかっていた装飾品も近くに落ちている。

金属質だったはずのその先には赤いものが付着している。

眼を凝らすまでもなく、どろっとした液体の正体は、血。


後頭部に直撃したのか、アレクはピクリとも動かない。


なんで……なんでこんなことに?


それは勿論、私が身代わりを頼んだから。


私のせいで……友達(アレク)が。


気付けば円から飛び出しアレクを抱き起こしていた。

幸い装飾品が突き刺さるなどはしていなかったため頭部の切り傷は浅いが、それでも頭から出血しているのだ、何かで傷口を抑える必要がある。


清潔な布……ハンカチの一つでもあれば。

道着を着たままの私ではそのような物を持ち合わせているはずもなく、魔法を使って出せるのかもわからない。


清潔……ではないけど無いよりマシか。


幸い稽古はしていないので、希望的推測ではあるが……それほど汚くはないだろう。

道着の下に着ていた白いティーシャツを裂き、細長い包帯状にした物の一枚は折りたたみ、それを先に傷口に当てる。

もう一枚を頭に巻きつけ、固結びをする。


応急処置だが無いよりは……マシやんな。うん。大事。


ついでに道着をクッション代わりに頭の下に置いてやる。

頭部が出血しているので、心臓よりも高い位置にした方がいいという判断からだ。


まあエルフの心臓が何処にあるのか分からないが、(血も赤いことなので)ほぼ人と同じだと祈ろう。


と、いうことから上は下着一丁という格好になってしまったが、夏には水着になるのだからと自分に言い聞かせ、奮い立つ。


遂に私が王子と対峙することとなった。


もうこれ以上他の人を傷つけられない。


傷つけさせへん。


「セラ王子、私はここや」


その声に反応し、王子の視線がまっすぐこちらを射抜いた。

威圧感たっぷりだが、そんなことは御構い無しにズンズンと距離を詰める。


今回は意図的にアレクを狙ったのか、瞳に魔法陣は見られない。


「来るなと言っているのが聞こえなかったのか?よほど痛い目にあいたいようだな」


まだ言うてんのか。さすがの私も堪忍袋の緒が切れますわ。


何をうじうじと自分の事で他人に迷惑をかけとんねん。


どんだけこの国で偉いんか知らんけど、とんだ恥知らずもいいとこやな。


ーーと沸々とわき上がる思いも押し殺し、私を殺す。

これは私の思い。

私情で人に手をあげることは、絶対にできない。してはならない。

あくまで、他のために、公のために力を使わねばならない。

今回は、アレクと、この国の全ての女性を代表して。


すうっと息を吸い込み、右手をぎゅっと握りしめる。


「……そんなこと言う王子に王になる資格なんかあるか!世の中半分は女なんやぞ!目ぇ覚ませ!!」


振り上げた平手が王子の左頬にし、彼の体が真横に飛んだ。


「……ハッ……ハァ、ハァ……俺をぶったのか?この俺を……」


「そうや、セラが……その口からこれ以上下品な台詞を吐かへんように……その口はそんなこと言うためにあるんじゃ無いやろ」


「王子としてこの国を治めていくために……国民たちに夢と希望を与えるためにある口やろう!よう知らんけど!」


「ミコト様、そこは言い切ってくださいよぉ〜」


私が言い切ると途端に、いかにも場違いな飄々とした声が響く。


ナイスツッコミである。


「意識が戻ったんやな」


語尾を伸ばす余裕が有るのだから大丈夫だろう。


振り返らずに返事をした。


その場で膝をつき、座り込んでいるセラの……ビンタをお見舞いした腫れ上がった頬に右手を添える。


視線は、両眼を見つめたまま、逸らすことはしない。


「何を……」


「何があったかなんて知らんし聞きたくも無いけど、この世の全ての女性をそんな風に見るのは良く無い事やってことは断言できる。そんなことしたって何の解決にもならへんやろ」


「お前なんかに!何が分かる……」


「分からへんわ。聞いてもないのに分かるわけ無いやろ……でも、まぁ、これから知っていきたいとは思う。ほっとけへんからな」


「分からない……君はどうして俺に構う。俺がこの国の王子だからか?見返りが欲しいのか……?」


「何しょうもないこと言うてんねん。王子が、超苦しそうやからに決まってるやろ」


このまま放置しておけば呼吸困難になるかも知れない。

他の人にも被害が及ぶかもしれない。


あらゆる可能性を考えざるをえないが、何より王子が心配というのが一番の理由だろうか。


混乱している上、魔法を暴走させて癇癪を起こしているとなると、それこそ魔法云々は関係なく精神的に辛いやろうし。


「それに王子がいいひんかったら第三図書館まで行けへんしな」


「は?」


素っ頓狂な声を上げる王子。


一瞬面食らったような、不思議な顔をした後、今度こそ正気に戻ったらしいセラ王子は、ようやく元の穏やかな表情に戻った。


「……ああ、そうだね。そうだった。君たちともっと話していたかったんだった……ありがとう」



頬に触れていた私の手をゆっくりと下ろし素早く立ち上がると、王子はいそいそと着ていた服を脱ぎ始めた。


「その……これ、着てくれるかな。男の物で嫌かもしれないけど目のやり場が無くてね。君の従者も近寄りがたくしている事だし」


顔を手で覆って顔を背ける王子から服を受け取り、すぐに羽織らせてもらった。

水着があるんだから、とはいえ、この国でもそうとは限らない。

確かにはしたない格好だったな。


申し訳ない。


次にアレクに近寄ると、「すまなかった」と謝罪をし、城の医師を呼ぶ手配をする旨を伝えたのだが、


「エルフは人に比べると治癒力が高いので大丈夫ですよぉ〜!ミコト様の手当てで十分ですぅ」


「そ、そうなのかい?」


穏便に済ませようと彼なりに考えたのだろう。オロオロしている王子をよそに、(彼の言ったことが事実かどうかは定かでは無いが)丁重にお断りしていた。


後は主に王子の魔法で、色々なものが破壊され汚部屋と化した書斎を片付けねばならないのだが……。


ていうかこの部屋で起こったいっさいがっさいを包み隠してしまった方が良いのでは。


セラ王子は国の権力者やから滅多のことでは処罰されたりしいひんのやろうけど、こちとら部外者……やねんから。


「セラ、この部屋どうするん……ってちょおお?!」


横にいるものだ思って話しかけると既にそこにはおらず、大きな赤紫色の扉を開けてとっとと出て行こうとしている。


「アレクが負傷してしまったガラクタは危険だから廃棄しておいたよ。他には何も問題無いから早いとこ図書館へ行こう」


問題大有りやわ!


飛び散ったままの書類(プリント)と、失敗したドミノのように倒れた本棚はそのままである。


それにアレクの頭もそのままやし……いや、私が心配するのも余計アレクの負担になるかもしれんから口には出さへんけど。


「ミコト様、早く行きましょう」


王子の服の袖をクイっと引っ張るアレクは可愛らしい笑顔を浮かべている。


整理整頓ができないという事は心・技・体が未熟な証拠だ、という説教を何回聞いたから分からないが、(指導対象者常習犯であった)流石の私もこれは酷いのではないかと思うが。


ここに一人残るわけにもいかず、取り敢えず王子についていくことにした。


進行の都合上、簡易設定になりますが近々出そうと思います

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