・婚約破棄
8ヶ月ぶりになろうに帰ってきました。
はじめまして、おひさしぶりです。これからガンガン投稿してゆきますので応援して下さい。
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前略、不自由だった頃のあたしへ。
あなたはこれから魔界にさらわれます。名門ブランウィード公爵家の長女の立場から一転、魔界に連れ去られてパン屋さんを経営することになります。
そのお店には毎朝のように行列ができるようになります。あなたのパンが沢山のお客さんやお友達の笑顔になります。こんなに素敵なお店をくれた魔界の宰相様に、足を向けては眠れなくなってしまうでしょう。
あなたは元々は農家の娘。突然大貴族の長女として生きなくてはならなくなって困り果てていました。聖女の癒しの力が目覚めてしまったがあまりに、王子様と婚約までさせられて今のあなたはさぞ大変な思いをしていることでしょう。
だけど大丈夫。今夜その夜会にあなたの人生の分岐点が訪れます。そこであなたは二人の男性と運命的な出会いを果たすでしょう。
片方は勇者様。もう片方は身分を隠した魔界の宰相様です。あなたがするべきことは己の差し伸べられた手を握り返して、なすがままに助けを受け入れることだけです。
たったそれだけであなたは本当の人生を手に入れることが出来るでしょう。
将来が約束されている代わりに、政治の道具として殿方に振り回されることになる人生から、パンをコネコネするだけでハッピーになれる今が手にはいるのです!
さあ勇気を出して握り返しましょう。勇者キュルクレイン。宰相ロベール。その二人こそがあなたの白馬と黒馬の王子様なのです!
コネコネ!
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「コムギ・ブランウィード!! 貴方との婚約関係はこの夜会をもって破談とする!!」
「へ……っ?」
その晩、あたしは婚約者のコルネル第二王子様に婚約の破棄を言い渡された。
すごい剣幕のコルネル王子のかたわらには、あたしの一つ下の妹にあたるアムリス・ブランウィートがくっついていた。あたしたちの父親である公爵様と同じブロンドを長く伸ばした、正真正銘のお姫様だった。
あたしはアムリスちゃんに嫌われていた。あたしが公爵様に引き取られた時に、アムリスちゃんの婚約者にあたるコルネル第二王子様の、新しい婚約者にすげ替えられてしまったから。
そして引き取られてから5年後の今――
「ごめんなさい、コムギお姉様。わたくしがお姉様の不貞に気付いてしまったばかりに、こんなことに……」
アムリスちゃんは傷心の王子様に寄り添い、なんでかわからないけど嬉しそうにあたしに笑っている。
「賎民の女は賎民の男がお似合いのようだ! ヤツを連れてこい!」
「あ、あのぉ~……話の腰を折ってすみません……。『ふてい』って、なんですか~……?」
「浮気のことですわよ、無知で無教養で空気の読めないおバカなお姉様」
「あ、そうなんだ~! ありがとう、アムリスちゃんっ!」
「はぁ……ご自分の立場をもう少し理解された方がよろしいですわよ、お姉様」
あたしは首をかしげて辺りを見回した。季節は晩春。コルネル王子様の庭園で開かれたその夜会には、美味しいご飯と偉い人たちでいっぱいだった。
そこにどういうわけか、お屋敷で庭師をしているランパードお兄さんが兵士さんたちに連れてこられた。
王子様はお兄さんを見て忌々しげに言った。
「アムリスに聞いて尋問したところ、この者が君と不貞を働いていると自白した」
「えーーっっ?! あ、あたしとランパードお兄さんが……っ!? えっえっ、あの、知らないんですけどそんなのーっ!?」
ランパードお兄さんは髪が長くて少し影があってカッコイイ人だ。庭仕事をしたがるあたしにいつだって親切にしてくれた。
「しらばっくれても無駄ですわ。この庭師が証言した以上は、お姉様が否定したところで無駄無駄無駄ですのよ」
「申し訳ございません、かくなる上はどのような罪も受け入れます……」
「えーっ、えーっ、ええええーーっっ?!! 誤解だって言って下さいよ、ランパードお兄さんっ!?」
ランパードお兄さんは顔を上げなかった。
もしかして貴族様の世界では、異性の人と話をするだけで『ふてい』ってことになるのかな……?
「コムギ・ブランウィード、従って貴女との婚約を破棄させていただく。よもや反論はあるまいな?」
「あ、はいっ!! 婚約の破棄は全然OKですっ、いっぱいしちゃって下さいっ!!」
別にそこに不満はないので元気に即答で答えた!
だけどあたしまた間違えちゃったみたい。ザワザワしていた会場の空気が冷たく凍り付いた。
「こ、この女……っっ、我を愚弄するかっ!!?」
「ええええーーっっ!? じゃあどうすればいいんですかぁーっ!?」
あたし、コルネル王子様がちょっと苦手。彼は口を開けば不平ばかり。いつもイライラとしていて関わり難い。
それにまだ結婚なんて気が早いし、できればもっと普通の人がいい。
「何言ってるのよっ、少しは悔しがりなさいよっっ!!」
「えぇーっ!?」
「お姉様に奪い取られたコルネル様をせっかくわたくしが取り返したのにっ、何をのん気な顔をしているのよっ!!」
「だって、王子様と結婚したいなんてあたし、一言も――あっっ?!!」
また言葉を間違えたみたい。コルネル王子様が恐い顔をして迫ってきて、それから――すごい力であたしを突き飛ばした。
あたしは芝生を転げ回り、あとちょっとで野外テーブルにぶつかって料理を頭からかぶるところだった。
「あ、どうも……えっと、ナイスキャッチです……!」
赤い髪の少し気難しそうなメガネのお兄さんがとっさにテーブルを支えて、大事な料理を守ってくれた。できればあたしの方を受け止めてほしかったけど、それは贅沢だ。
「見苦しい……」
「すみません……」
「君に言ったのではない」
不快そうにその人は王子殿下とアムリスちゃんを流し目で見た。
干渉する気はなさそうだけど、同情してくれる人がいて嬉しかった。というよりも、誰もこの騒ぎに加わりたがる人なんていなかった。みんなが遠巻きに見て見ぬ振りを始めていた。
「君、大丈夫か?」
そう思っていたのだけど、あたしに手を差し伸べてくれる人がいた。
「あ、すみません、全然大丈夫です!」
「怪我は?」
「ないですっ、あたし元農家の娘ですからっ、こんなの慣れっこですっ!」
それは勇者キュルクレインと呼ばれる特別な人だった。貴族の方々の名前を覚えられないあたしにも、この人は簡単に覚えられた。
だって勇者様は貴族様顔負けの綺麗な顔をしているけど、すごく農家に向いていそうなたくましい身体付きをしていたから!
彼の手を借りてあたしは元気に立ち上がった!
「勇者よ、余計な干渉は遠慮していただこう」
「そうよ、浮気をしていた女をかばうなんて、貴方の立場に響くのではなくて?」
勇者様は神様に選ばれた特別な人だ。聖痕が現れて国に認められた人だけ勇者を名乗ることができる。
「ただ手を差し伸べただけなのに大げさですね」
注目が勇者様に集まって申し訳ない気持ちになった。
「大げさなものかっ、私は裏切られたのだぞっ!!」
「そうよっ、悪いのはコムギお姉様よっ!」
助け起こしてくれて嬉しかったけど、こんないい人を巻き込んだらダメだ。あたしは勇者様と怒る二人の間に割って入った。
「あ、あのぉ~、これ以上はあたしに関わらない方が――」
「王子殿下、先ほどの貴方がしたことは端から見ればただの暴力です。会場の皆さんも皆さんだ、どうしてこの女性の言い分を聞いてあげないのです?」
勇者キュルクレイン様がそう問いかけると、夜会の来場者たちは好き勝手言うのを止めて黙り込んでしまった。
あたしなら挙動不審になってしまうほどのプレッシャーが集まっても、勇者様はただただ真面目そのものだった。
「う、うるさいっ、勇者は引っ込んでなさいよっ!!」
「そ、そうですよ~っ、あたしなんて見捨てて引っ込んで下さいよぉ~っ!?」
「できません」
ま、真面目だ、この人……。
勇者様は間に立つあたしをすり抜けて、守ると言わんばかりにあたしを背中側においた。
「……この人は自分自身の危機なのに、まだ俺の立場を案じてくれています。そんな人が婚約者を裏切るとは思えません」
「貴様の意見など聞いていないっっ!!」
あたしは勇者様のやさしさと公平さに感動した。信じてくれるのが嬉しくて目元が熱くなった。
それから涙を隠して目線を上げると、夜会の風向きが少し変わっていることに気付いた。
「これまで交流されてきた皆さんだって、コムギさんの人柄を知っているでしょう? この人は嘘なんて吐けませんよ、感情がそのまま顔に出る人みたいですから」
勇者様とは軽く挨拶をする程度の関係だった。それなのにあたしのことをよく知っていて驚いた。
こうなったら差し伸べてくれた手を突っぱねることなんてできない。あたしはこの人に助けてもらおうと決めた。
「あたし、浮気なんてしてませんっ!! してませんけどっ、婚約の破棄なら全然OKですっっ!!」
本日7話、翌日3話、翌々日3話。
以降1日1話更新で長くゆっくり公開してゆきます。




