筆頭相談役・ココちゃん
それは、カフェ・ローワンでの出来事だった。
お昼の時間帯、ルシルの使い魔・ココは中庭で休憩していた。ベラの使い魔・ピーちゃんと枝で寄り添って、さえずり合う。
ふと、ココの体に影が落ちた。
ココは顔を上げて、少し驚いた。目の前に立っていたのは、レナードだった。
「実は……」
レナードは真面目な表情で、ココの姿をじっと見つめる。
「君に相談がある」
「え。ぼ、僕……?」
ココは目を丸くして、翼で自分を指さした。
レナードがココに声をかけてくるのは稀だ。ココも自分からは話しかけたりしない。今、ルシルは店の中で食事中だ。
――ルシルがいない時を狙って、わざわざココに声をかけてくるとは、何の用なのだろうか?
レナードは木の横に佇む。
「ルシルが最近、気になっている物や、欲しがっている物はないだろうか」
ココは羽ばたいて、レナードの肩の上に乗る。そして、翼を羽ばたかせた。
「それって、事前調査? ルシルにプレゼントでもするの?」
「ああ。ルシルが喜びそうなものはいくつか思いつくんだが……。一番は、魔導書だろう」
「うんうん、そうだね」
「だが、本人に探りをいれてみたが、目ぼしい本はすでに自分で持っていそうだった」
「うんうん」
「アクセサリーや服には興味がなさそうだ」
「まあね~」
「魔導具なら欲しがるだろうが……。これも興味がありそうな物は、すでに入手済みの可能性が高い」
「あー。ルシルのお給料の使い道は、ほとんどが食事か、魔法関連だから」
「やはりな」
レナードは静かに息を吐いて、ココの姿を横目で捉えた。
「そこで、君の知恵を借りたい」
「へへ……あの英雄様がね~。僕の力を借りたいなんてね」
ココは気分を良くして、胸毛をもふもふと膨らませる。
「いいよ! 僕が知っているとっておきの情報、教えてあげる」
「助かる」
「ルシルが欲しいのはねえ、石だよ!」
「……石?」
「箒に埋めこむ用の魔法石さ。最近、無理な飛行をしたせいで、少し欠けちゃったみたいで」
「ああ……なるほど」
レナードは覚えがあるのか、目を細めた。
魔導士が使用する箒は、一般的な掃除用の品とは異なっている。穂の中央に魔法石を設置することで、風の流れを制御しやすくしているのだ。ルシルの箒には、赤い魔法石が使われている。
先日、ジークとの対決の際、ルシルは箒を酷使していた。その際、魔法石がわずかに欠けてしまったのだ。飛行には問題がないが、空気抵抗が大きくなるため、箒の制御が難しくなる。
「有力な情報をありがとう」
レナードはほほ笑むと、感謝するようにココの胸毛を撫でた。
そして、大きな果物を枝に置いてくれる。
「わー!」
ココは目を輝かせ、その果物に飛びついた。
◇
その日の夜のこと。
ココはルシルと共に、カフェ・ローワンを訪れていた。ルシルはベラとお茶をしながら話をしていたが、今日は疲れていたのか、途中からうとうととし始める。
そして、とうとうソファで横になって眠ってしまった。
いつもであれば、ベラはすぐにルシルを叩き起こして、家に帰らせるのだが……今日はちがっていた。
ルシルの体にそっと毛布をかける。
そして、ベラはカップを持って、ココとそばへとやって来た。
「ココちゃん、お話してもいいかしら?」
「ん、なに?」
ココは体全体をくいっと傾ける。
「ルシルについて教えてほしくて……。ルシルって辛い食べ物が好きでしょ? 最近、特にはまっている料理とかってない?」
「お料理? ……なに? 君が作ってあげるの?」
「まあ、そんなところね」
ベラはうっすらとほほ笑む。ココはテーブルの上で、翼をパタパタとさせながら答えた。
「それならねえ、チキンティッカだよ! 熟れすぎた木苺よりも鮮烈で、真っ赤なやつ」
「え、真っ赤って……?」
チキンティッカとは、ヨーグルトとスパイスに漬けこんだ鶏肉のことだ。繁華街ではよく屋台で、串に刺した物が売られている。普通のチキンティッカなら、茶色か、ほんのりと赤い物が多いのだが……。
「騎士団のそばに、たまに来ている屋台さ。辛さを調節できるんだけど、ルシルはいつも、いっちばん辛いやつを頼んでる」
「……相変わらず、雑な食生活しているのね。この子は」
ベラは呆れたように目を細めて、ルシルの姿を見る。ルシルはすっかり安心しているのか、緩み切った寝顔をさらしていた。……元悪女とは思えないほどの、だらしのない口元だ。
「とにかく真っ赤になるほど、辛いやつがいいってことよね?」
「うん!」
「そう……味見するのが大変そうだけど。やってみるわ。ありがとう、ココちゃん」
ベラはココの前に、ナッツを置いてくれた。
「わー!」
ココは目を輝かせ、そのナッツに飛びついた。
◇
そして、その次の日のこと。
ココの前に現れたのはジークだった。
普段、ルシルが騎士団の本部で働いている時、ココは暇していることが多い。たいていはルシルの机で昼寝しているか、屋上で風に当たっているかだ。今日は屋上で過ごしていた。
すると、ココの前にジークがやって来た。
ココがくいっと首を傾げていると、ジークは手すりに背中を預けて、ふうと息を吐く。
「……疲れたなあ」
「さぼり?」
「はは、見逃してくれよ? レナードにバレたら、静かにキレられるから」
ジークは明るく笑って、ココの体をつついた。
「なあ……聞いてもいいかな?」
「僕に?」
「そう。ココ大先生様の知見を借りたい」
大げさな言い草だが、ジークの愛嬌が合わさると、何だかいい響きに聞こえるのだった。ココは気分を良くして、胸を張った。
「ふふん、いいよ。何でも聞いて」
「ルシルがさ。最近、欲しい物って、何かないか?」
「んー?」
ココは首を傾げる。
「それ、昨日、レナードにも聞かれたよ」
「え!? そ、そうか……。なんて答えた?」
「それはねえ」
「あ、いや、やっぱいい! どう考えても二番煎じだ……。じゃあ、ルシルが食べたい物! 料理で気に入っているものが何か、教えてくれ」
「それはねえ、昨日、ベラに聞かれた」
「ぐう、二番煎じ……!」
ジークは悔しそうに拳を握る。
「完全に出遅れたな……。どうしよう」
ココは片方の翼をジークに差し出す。「ちょうだい」をするようなポーズで。
「情報提供料。レナードは果物で、ベラはナッツをくれたよ」
「え?」
「もっとすごいものくれるなら、とっておきの情報、教えてあげる」
「ぐう……! この使い魔、ちゃっかりしてるな……」
ジークは困ったように呻いてから、言った。
「わかった。君が食べたいと言ったものを用意する。これから3日間、連続で!」
「わー!」
ココは目を輝かせ、ジークの肩に飛びついた。
「あのねえ、ルシルが欲しいのは琥珀糖だよ」
ジークは意外そうに目を見開く。
「え? でも、ルシルって、甘いものが苦手なんだろ?」
「琥珀糖はなんだか、食べているうちに気に入ったみたいだよ。色が綺麗なのもいいって。でも、外国のお菓子なんでしょ? このへんじゃ手に入らないって困ってた」
「……そっか」
ジークは思い出に浸るように目を伏せる。
「……琥珀糖は、アンジェリカの好物でもある。俺なら、どこで買えるのかも知ってる」
目をつぶって、ふうと息を吐き出す。
屋上を風が通り抜け、ココの白い毛を揺らした。
ジークはココの顔を見て、明るい笑顔を見せる。
「ありがとな。ココ大先生様、頼りになる」
優しく翼を撫でられて、ココはその気持ちよさに目を細めた。
◆
それから数日が経った。
ルシルはカフェ・ローワンに呼び出されていた。
ココを肩に乗せ、ルシルは箒でローワンに向かう。
扉を開けると、店の中は真っ暗だった。人の気配もしない。
「あれ? ベラ……?」
ルシルは首を傾げながら、中へと入っていく。
中央の辺りまで来た時、突然、明かりがパッと灯った。
ぱん……!
周囲からクラッカーの音が鳴り響く。
「おめでとう~!」
ルシルは目を丸くして、足を止める。そんな彼女の頭上に、クラッカーの紙吹雪が降りかかった。
「ルシル、おめでとう」
ベラがカウンターの奥から現れる。彼女が持っている皿には、真っ赤に染まったチキンティッカが盛られていた。
「おめでとう。ルシル」
店の奥にいたレナードが、小さな箱を持って現れる。
「誕生日、おめでとう!」
柱の陰からは、ジークが。
彼はリボンを結んだ瓶を手に持っている。その中には宝石のように輝く琥珀糖が入っていた。
「おめでとう~!」
パーティ帽子をかぶったマリサが、ソファの影から現れる。彼女の手には、手作りらしいお花の工作が握られている。
「え……みんな……」
ルシルが呆然としていると、ベラがニコニコとほほ笑んだ。
「サプライズパーティよ。……驚いた?」
「ええ……とても」
ルシルは胸に手を当てて、ほっと息を吐く。
そして、皆の顔を見渡した。
優しくほほ笑む、レナードとベラ。
元気に笑う、ジークとマリサ。
皆の顔を見ながら……ルシルは内心で、苦笑いしていた。
(うちの使い魔はお喋りってこと……みんなに教えておいた方がよかったかなあ?)
まったくもう……、という気持ちをこめて、ルシルは肩にいた使い魔をつつく。
皆がココに相談して、好物やら欲しい物やらを調べてくれたことは、知っている。お喋りなココがすべて教えてくれた。
――それでも。
(サプライズがあることを知っていても……それでも)
胸が詰まって、ルシルは何も言えなくなった。
誕生日をお祝いしてもらえることが、こんなに嬉しいなんて知らなかった。
ルシルは皆の笑顔に囲まれながら、そっと目の端をぬぐった。
本日より、闇魔女2巻が発売となりました!
またもや、えいひ先生にとても素晴らしいイラストを描いていただきました。
ジークがとても可愛く、かっこいいです!
また、このお話の第三部を2月頃に更新する予定と記載していましたが、
今年の秋ごろの予定に変更とさせてください。
年内には必ず更新するので、お待ちいただけると嬉しいです!






