勝利と諦観
放課後。一緒に帰ろうと言ってくれた友人の誘いを心を痛めながら断り、僕は教室に残った。同じく、教室に残っていた風花も、少し心を痛めているようだったが、僕ら以外の最後の一人が教室を出ると、何かを決心したように、こちらを向いた。
「あのね、天。私………天のことが好きです。だから、もし、良ければ………つ、付き合ってください!」
僕は、心を打たれて、暫く何も言えなかった。そして、頭が思考という武器を取り戻す前に、妙に落ち着いた声で、僕は言ったのだ。
「僕も、風花のことが好きだ。また、よろしく!」
「うん!」
その後、彼女に抱きつかれた僕は、取り戻しかけていた思考回路をショートさせかけた。
風花は今日、クラブがあるそうなので、先に教室を出て行った。
僕も、声に置いていかれた気を落ち着かせ、少し後に、教室を出た。廊下に、煌輝がいた。
「風花、幸せにしろよ」
「もちろん。僕は、彼女も君も、悲しませない」
「そう、それがお前だ。青澤天だ。期末テストも、頼りにしてるぜ。もちろん、俺はお前に勝つけどな!」
「ああ!」
拳を思い切り突き合わせ、大分痛かったが、ここは我慢。この最高のクラスで、次は何が起きるのだろう。
拳を思い切り突き合わせ、めちゃくちゃ痛かったが、ここは我慢。あいつなら、天なら、風花を幸せにできると確信している。
さて、今日はサッカー部の練習をサボり、川辺で新技の練習だ。チャリを漕いで、15分で河川敷に着いた。
「スカーレットゾーン!」
魂の炎が、だんだん外側に出てくる感覚。それは服や肌を燃やすことなく、胸や腕、それから脚に実体化する。だが、これでは松明にも劣る。もっと、大きな火を。
体育祭から数日後の放課後。アドバンスクラスの教室で、アドバンスクラス総員がクラブにも行かずに集まっている。
「皆、期末テストは二週間後である。今から対策をしておかねば、中間テストのような、僕以外全滅するという事態になりかねん。わからぬことは、国語、社会なら僕か緋空に、数学、理科なら数野か砂田に、英語なら姫路か速水に聞け」
これは勉強会。これから、週に一度開くことにするつもりだ。ここから皆を強化すれば、アドバンスクラスは一人も犠牲者を出さず、圧倒的強さをスタンダードクラスに見せつけることができる。
「青澤天。僕は貴様には負けない」
『代わってくれ。俺にリベンジさせてくれ』
誰かが音無き声で言った。
俺は、誰だ?いや、俺は、確かに智楯槍都だ。なら、俺の体を動かしているこいつは、誰なんだ?こいつが本当の俺?そんなことはないと信じたい。
「なあ、誰だか知らないが、代わってくれ。青澤天や織田綾音に、リベンジしたいんだ。お前じゃなく、俺に、リベンジさせてくれ!」
この声は、届いただろうか。もしかして、前に聞こえていた音のない声は、こいつの声だったのか?きっとそうだ。どんなタイミングで、入れ替わるのだろうか。わかるまではまた、眼を閉じていよう。
いよいよ暑さも真っ盛りになってきた、今日この頃。
「あっぢぃー」
と、潮。
「それなー」
こちらは、昇輝。練習中は、体育館はサウナを通り越して、蒸し地獄だ。
「でもな、ほれ」
潮がタオルを持つ。すると、乾燥タオルはみるみるうちに濡れタオルになった。
「すげえー!」
「あー、いと涼し」
「急に古典!?」
やっぱり僕はツッコミに回ってしまう。
「よし、じゃあ、今からゲームで」
キャプテンの神鳥 翔飛先輩だ。ホルスの能力を持つらしい。見たことはないが。
「翔飛、久しぶりに能力戦やろーぜー」
副キャプテンの花川 鷲一先輩が、翔飛先輩に能力戦を申し込んだ。鷲一先輩は、トトの能力を持つらしい。少し、覗いてみることにした。
「ラブオール、プレイ!」
サーブは翔飛先輩。上手いが、変わった点は無いように見えた。しかし、違った。
「おわっ!」
シャトルをとった鷲一先輩のラケットが、跳ね飛ばされた。
「タービュランスサーブ」
「ワン、ラブ、神鳥」
「やっぱ、先輩は違うな」
横で見ていた潮も言う。そう、サーブからして、違うのだ。
次の翔飛先輩のサーブも、タービュランスサーブだった。しかし、一ポイント前と違ったのは、鷲一先輩がそれを返したことだ。
「イーグルロブ!」
高く上がったロブは、獲物を見つけた鷲のような勢いで、急降下した。しかし、翔飛先輩はその弾道を、ずっと前から見据えていた。
「フェニックスライズ!」
僕の、ル・ヴォル・ブレケラヴノスを超える高翔だった。
「スマッシュ・オブ・リヴァイヴ!」
「トゥー、ラブ、神鳥」
スマッシュは、僕の雷霆スマッシュの比ではなかった。それにしても、あんな速いシャトルを、どうやってスイートスポットに当てたのだろうか。
「フェニックスアイだよ」
僕の心を読んだように、蛇野 恭牙先輩が言ってくれた。
「翔飛の眼、最初は黒だったけど、今は深緑色だよね?」
「ああ、そうですね」
「それが証拠だ。今、翔飛は、鷲一のショットの五打先までを視ることが出来ている。だが、鷲一にも同じような能力があるんだ。ただし………」
「オーバー、ワン、トゥー」
「ただし、何ですか?」
「ただし、鷲一の眼、アナラシスアイは、三打先までしか視ることが出来ない。だが、鷲一は鷲一で、瞬間の判断がトトの能力で最大限に引き出されている」
「なるほど。勝負は互角というところですか」
「ああ」
鷲一先輩のサーブ。
「イーグルサーブ!」
的確なコントロールで手前のラインギリギリに。しかし、その手を読めている翔飛先輩はしっかり返す。バックハンドでの、強力なプッシュだ。
「エターナルレイピア!」
クロスに急角度で。しかし、鷲一先輩はそれを返す。でも、僕が言うのもなんだけど、甘かった。もう一度エターナルレイピアを打たれて、シャトルはコートに着いた。
「オーバー、スリー、ワン」
能力戦だけをやっているわけにもいかないという理由で、ファイブポイントマッチのこのゲーム。もっと見たかったけど、自分の試合の番が来たので、見ることはできなかった。
最初は潮とのファイブポイントマッチだった。結果は、一対五。潮も高校から始めたのに、もうこんなに差が生まれている。どうすればもっと上手くなれるんだろう。まだ、僕は諦めない。まだ二年あるんだから。次もファイブポイントマッチだった。相手は、ネイビークラスの神山 雪薙君。彼は、本当は一部リーグだけど、今日は特別に対戦してもらった。雪薙君は、本気でやってるわけじゃないのに、ついに僕は零対五で負けてしまった。その後も何回かゲームをしたが、結局一回も勝てなかった。これは僕の持論だが、僕はバドミントン部で邪魔者なのではないかと最近思う。弱いくせに、五月蝿いし。だから、早く邪魔者から抜け出す為に、とにかく練習を頑張ろうと思っている。邪魔者だからといって、クラブを辞めようとは思わない。諦めたら、終わりだ。翔飛先輩と鷲一先輩の試合は、翔飛先輩の勝利で終わったそうだ。練習が終わり、家に帰って、宿題や入浴をして、ベッドへ。そのとき、ある言葉を思い出した。僕はそれを呟く。
「Winners never quit, quitters never win」
勝つ者は諦めない。諦めない者は勝つ。バトミントンのウェアに書いてあった文字だ。しっかりと心に刻み込み、僕は眠りについた。




