決勝と準備
続いて、決勝戦。ルールは、十五点先取、早押しアンドボード。問題の答えがわかったらボタンを押し、押した、押していないに拘わらずボードに答えを書く。押したチームが合っていれば三点、押さなかったチームが合っていれば一点、押したチームが間違えればマイナス一点、押さなかったチームが間違えてもプラスマイナスゼロ。参加チームは、「緋空トゥンボ」、「パープルクラス」、「ムーンアテナ」。さっきから、緊張で体の震えが止まらない。
「じゃあそろそろ始めるぞー」
「はぁい」
「決勝戦第一問。主に黒褐色の真性と、橙赤色の亜の2種類がある、脊椎動物では、大半が皮膚の表皮最下層の基底層や毛髪の毛母などにあるメラノサイトで/生成され、一部は網膜色素上皮細胞で生成される色素は何?」
押したのは謎太君。
「正解は、メラニン」
全チーム正解。「緋空トゥンボ」三点、「パープルクラス」「ムーンアテナ」各一点。
「第二問。火を神/聖視することから拝火教とも呼ばれる、聖典を『アヴェスター』とする世界最古の一神教は何?」
押したのは日文。
「正解は、ゾロアスター教」
全チーム正解。
「緋空トゥンボ」「パープルクラス」各四点、「ムーンアテナ」二点。
「第三問。元は中国の武将・韓/信を指した名である、別称を十三么九と言い、その名の通り么九牌13種すべて、すなわち老頭牌6種と字牌7種を1枚ずつ揃え、そのうちのどれか1種を雀頭とした麻雀の和了形は何?」
押したのは僕。
「正解は、国士無双」
正解したのは「ムーンアテナ」と「緋空トゥンボ」。「ムーンアテナ」「緋空トゥンボ」各五点、「パープルクラス」四点。
「第四問。一本なら『一/目惚れ』、三本なら『告白』、七本なら『密かな愛』、十一本なら『最愛』、五十本なら『恒久』、九十九本なら『永遠の愛』が花言葉とされている花は何?」
押したのは謎太君。
「正解は、薔薇」
全チーム正解。「緋空トゥンボ」八点、「ムーンアテナ」六点、「パープルクラス」五点。どうでもいいかもしれないが、薔薇三本の花言葉が「告白」だったのは初知りだ。さらにどうでもいいかもしれないことを重ねるが、まだ読んだことのない、湊かなえさんの『告白』を、今度読んでみようとも思った。
「第五問。第15代ローマ皇帝で、ネルウァ=アントニヌス朝の第4/代皇帝であり、学問や芸術・文化の保護に熱心で多くの劇場や神殿を建設し、学者達の報酬を引き上げさせたのは誰?」
押したのは僕。
「正解は、ピウス。お、アテナ、すげえな」
「ムーンアテナ」のみが正解。「ムーンアテナ」九点、「緋空トゥンボ」八点、「パープルクラス」五点。
「五賢帝は全員覚えてます」
「いいねぇ。じゃあ、第六問。リーガ・エスパニョーラ・FCバルセロナ所属のサッカーアルゼンチン代表/のフォワード選手で、ディエゴ・マラドーナの5人抜きドリブルを再現したことから、マラドーナ2世と呼ばれているのは誰?」
押したのは村詩。
「正解は、メッシ」
全チーム正解。「ムーンアテナ」十点、「緋空トゥンボ」九点、「パープルクラス」八点。
「お、いい試合になってきたな。じゃあ、第七問。東京ディズニーシーのテーマポートの一つであるミステリアスアイランドの二つのアトラクションとは、セ/ンター・オブ・ジ・アースと何?」
押したのは僕。実は、東京ディズニーリゾート通である僕は、「東京ディズニーシー」という言葉が出た時にしっかりボタンを押す準備をしていた。
「正解は、海底二万マイル」
全チーム正解。「ムーンアテナ」十三点、「緋空トゥンボ」十点、「パープルクラス」九点。
「『ムーンアテナ』、次押して答えたら勝ちだぞ。じゃあ、第八問。別名を『檣頭/電光』という、悪天候時などに起こる、尖った物体の先端で静電気などがコロナ放電を発生させ、青白い発光現象を引き起こして船のマストの先端が発光する現象を何という?」
「緋空トゥンボ」のみが正解。「緋空トゥンボ」「ムーンアテナ」各十三点、「パープルクラス」九点。
「すっごい良い勝負だ。じゃあ、第九問。『3以上の自然/数 n について、xⁿ + yⁿ = zⁿ となる自然数の組 は存在しない』という定理は何?」
押したのは━━━謎太君だった。
「正解は、フェルマーの最終定理」
全チーム正解。「緋空トゥンボ」十六点、「ムーンアテナ」十四点、「パープルクラス」十点。
「負けちゃったかぁ」
「いいとこまで行ったんだけどなぁ。悔しいな、天」
「だね、光」
「あっぶねー。超怖かった。やるな、光と天」
「体験来ただけなのに優勝しちまったんだが」
「これを機に、是非入部を!」
「考えときます」
かくして、クイズ研究部部内戦六月の陣は幕を閉じたのだった。
その後一週間は、何も無く過ぎた。その何も無いような日常も、僕は好きだ。
そして、実力テストが始まった。最初の数学は、問題なく空欄を作って終わった。続いて英語は、焦りながらもポリシーは守った。最後は国語で、何とか最後まで走りきった。いや、ペンを走らせきった。詳しい内容は、あまり覚えていない。
翌日。体育祭の種目の担当決めだ。ピンククラスは、滞りなく全て決め終えた。僕は「コロッセウム」、風花は「コロッセウム」のサポーターと100m走、大河君は100m走、焔君と鉄君は、他の二人と共に、800mリレーに出場する。みんなで頑張ろうと、意思疎通した。
体育祭まで五日。焔君に、名前で呼べと言われた。僕は、自分のことも名前で呼んで欲しいと言った。
体育祭まで四日。部活で、久しぶりの能力戦をした。相手は夕辺だった。スカイアロウ(超高弾道クリア)やイブニングロゼ(途中までスマッシュの速さで、急に沈むカット)が強かったが、何とか十一点先取の試合を、十一対八で勝つことができた。
体育祭まで三日。実力テストの結果が返ってきた。英語145点、数学144点、国語143点だった。ゼウスとワタツミの能力が、実力テスト仕様になった。
体育祭まで二日。「コロッセウム」出場者の情報が入ってきた。クリムゾンクラスは、光。スカイブルークラスは、心。パープルクラスは、天野君。ネイビークラスは、伊達君。ビリジャンクラスは、昇輝。アドバンスクラスは、智楯君。サポーターは、クリムゾンクラス織田さん、スカイブルークラス堅田君、パープルクラス日文、ネイビークラス片倉さん、アドバンスクラスLayer、ビリジャンクラスは僕の知らない人だった。いよいよだなぁ。緊張してきた。
そして体育祭前日。総練習だ。「コロッセウム」についての説明を受ける。コロッセウムは、ある課題が課され、その課題を早くクリアしたクラスから高い得点が貰える。僕はあまり運動が得意な方ではないから、ここで貢献できるかもしれないというのは嬉しいところだ。使っていい得点は、実力テストのもののみ。得点ランキングは、智楯君、僕、光、心、伊達君、昇輝、天野君の順だ。課題は当日発表らしく、僕らの総練習は説明のみで終わった。その後、クラブがないので、100m走の総練習を見学した。
「あ、天!コロッセウムは終わったの?」
「うん。クラブないし暇だから見に来た。調子はどう?」
「うーん、どうだろ。今日良くても明日ダメなら意味ないしね。もちろんその逆ならいいけど」
「そっか。でも、風花なら、『いつも通り』で大丈夫そうだけど」
「ほんと?嬉しい!じゃあ、今日はもう終わりだから、明日は『いつも通り』でいくね!」
「僕はコロッセウム、初めての経験だけど、頑張るよ」
「ねぇ、今日一緒に帰らない?」
「いいよ」
彼女のこの申し出は、『いつも通り』を地球から見たオリオン座とすると、地球から見た蠍座だった。つまり、正反対。
風花が着替えてから(もちろん僕は更衣室の外で待っていた)、僕らは歩いて帰った。
「体育祭終わったら、来月は期末テストとコーラス大会かぁ。天、音楽得意?」
「得意な方だとは思う」
「芸術の選択も音楽?」
「いや、楽そうだったから書道にした」
「え、音楽にすればよかったじゃん。てか、私、音楽だから、天がいないのわかったはずなのに、メンバーちゃんと覚えてなかったなぁ」
「最近、書道にしたこと後悔してるよ」
「そうなんだ。でも、変えられないしねぇ。そうだ!天、ここで歌ってみようよ!コーラス大会もあるし」
「そう言えば最近歌ってなかったなぁ。いいよ。何を歌うの?」
「うーん、これとかはどう?」
彼女がスマホの画面を見せる。曲名を日本語に直すと、『平和の象徴』というあの曲だ。
「いいよ」
「じゃあ、曲かけまーす」
近所迷惑にはならないだろうか。しかし、大した爆音ではなかったので、不安は取り除かれた。最初に僕が歌った。
「♪」
「お、上手いねぇ」
と言いつつ、風花は歌い出す。
「♪」
風花も上手いじゃん。だが、言葉には出さず、今は歌唱に集中する。フレーズ毎に交代しながら、歌っていく。僕は音を外さないように、リズムを保てるように、努力しながら必死に。風花は、流れるように、綺麗な声で涼しげに。
『♪━━━転がってくストーリーを』
「風花も上手いじゃん」
ようやく声に出す。風花はここで音楽を止めた。
「ねぇ、あなたたち」
僕らは呼びかけられて、振り向く。
「お、弦歌ちゃんじゃん」
声の主は、ピンククラスの美辻 弦歌だった。彼女もまた、幼馴染だが、彼女とは事情によりあまり会話していなかった。
「ごめんね、途中から勝手に聴いてて。あの、すごく上手いから、二人とも、もし良かったら、バンドやってみない?」
「え、バンド!?すごく興味ある!」
「僕も」
「でもね、まだメンバーが揃ってなくて。二人は参加してくれる?」
『もちろん!』
「たぶん、二人のうちのどっちかがヴォーカルで、もう一人が楽器なんだけど、私がギターだから、ギターとベースとドラムが必要なんだ」
「キーボードとかはないの?」
「キーボードは『ここ』がやってくれるから」
「ここ」、つまり心のことだ。
「それなら、ベースとドラムに当てがある」
「ほんと!?ちょっと声かけてみてくれない?」
「わかった」
「ありがと」
「じゃあ、それはあとでしてもらうとして、今から、バンド結成記念で歌を歌おうよ!」
「風花、歌うの好きだね。まぁ、いいけど」
「いいよ、風花ちゃん!」
「じゃあ、これ歌おっか」
再び風花はスマホの画面を見せる。この曲は、日本語に直すと、確か『偽善者』だ。
『いいね!』
音楽を流して、風花は歌い出す。
「♪」
やっぱり風花は上手い。おっと、次は僕だ。風花のアイコンタクトがそれを訴えかける。
「♪」
そして、弦歌。
「♪」
弦歌もすごく上手かった。
風花が曲を切る。なぜなら、もう駅に着きそうだからだ。
「いやー、弦歌ちゃんも上手いね!」
「そうでもないよ、二人の方が上手いと思う」
「僕、楽器に回るよ」
「え、なんで?遠慮しなくていいんだよ?」
「いや、楽器の方をやってみたいなと思って」
「そうなんだ。じゃあ、私ヴォーカルでいいかな?」
「もちろん!ありがと、二人とも!」
「じゃあねー」
『バイバイ!』
風花はこのまま歩いて帰る。僕と弦歌は同じ電車に乗る。
思えば、実力テストが終わってからここまで、ほんの一瞬だったような気がする。曲を歌った時点で、一瞬ではないのだが。
「天、楽器やるとしたら、何がいい?」
「僕は、ギターやりたいかな」
「じゃあ、また教えてあげる」
「え、ギターで大丈夫なの?」
「うん。だって、ベースとドラムに当てがあるんでしょ?」
「それはそうだけど」
「なら、ギターが多い方がいいと思うな」
「わかった。ありがとう」
それからは、電車の中で隣に座っていながらも、僕らは話さなかった。
今日一日、色んな事があった。とても、楽しかった。




