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勇者と魔法使いは冒険を拒否する  作者: 江葉


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3/3

3・冒険者クラブ

遅くなって申し訳ありません。

今回はスライムの捕食シーンがあります。残酷描写が苦手な方はご注意ください。


 勇者王エルドランを始祖に持つこの国では、武芸が昔から推奨されてきた。しかし時代の流れにより、冒険者は数を減らした。魔物がいなくなったことがその最大の理由だ。

 だが、その時々のブームにより、冒険者を自称する者が増えることもある。今がまさにその時だ。

 はじまりは王立魔法院による遺跡発掘調査。エルドラン以降の古文書を読み解き、現れたその内容に国民は狂喜した。勇者王の国。英雄の国。そう謳われて久しいこの国には、勇者を拝したという以外の誉れを持っていなかった。各地で洞窟や迷宮が発見され、調査のための冒険者の需要が高まっていた。

 その中で生まれたのが冒険者クラブである。

 設立前は『クラブ』ではなく『ギルド』にしようという案もあったのだが、ギルドとなると大前提として依頼が来なくてはならない。無利益営業をしているのは聖オフィーリア教導会くらいなもので、王立魔法院は税金で賄われている。税金である以上、実績のない自称冒険者相手に金を出すわけにはいかなかった。

 それでも冒険者クラブが設立されて、様々な冒険者が入会してきた。会費は支部によって違うが、保険は個人だし、武器その他の装備も自前で揃えなければならない。ただ、パーティを組むには都合が良かった。

 魔法使いと魔導士を除く、剣士、武闘家、銃士、傭兵、槍使いなどが技を競い、武器防具を磨き、いつか冒険に旅立つ日を夢見て励んでいる。魔法使いは聖オフィーリア教導会の教義により、魔導士は王立魔法院所属のためクラブに入会しなかった。もっとも魔導士とは名ばかりで、彼らは魔法を使えない。




 今回の冒険に名乗りをあげた彼は、侍を自称している。腰に下げた大小の刀はもちろん真剣だ。鍛錬で使う刀は怪我をしないように刃を潰してある。本物の『武器』を使うのは、これがはじめてだった。

 侍や剣士といった武器を持つ者は前衛。武闘家などの身一つで挑むものは後衛となっている。安全を考えての取り決めだ。もちろん魔導士は後衛。言い出しっぺのくせにと冒険者たちは思うが、スポンサーの前で文句を言うことはなかった。


「侍さんは、ずいぶん古めかしいランプをお使いなんですね」


 ちょっと小馬鹿にした口調で声をかけてきたのは共に前衛を務める剣士だった。彼は盾と剣で両手が塞がっているため、ライトを頭につけている。鎧姿に似合わないことこの上ない。


「ああ。オイルランプのほうが良いってアドバイスを貰ってな」

「アドバイス?」


 今回の洞窟調査に関わっているのは王立魔法院だが、参加している魔導士はそんなことをひと言も言わなかった。

 侍はそっと後方を窺い、魔導士が遠く離れていることを確認して小声で答えた。


「魔法院じゃなくて、オフィーリア教導会のほう。古代遺跡の洞窟なら本当に魔物がいてもおかしくない。こういう暗くて湿った場所にいる魔物の代表はスライムだってな」

「スライムは炎を嫌うんですか…?」


 剣士も小声になる。魔導士と魔法使いは仲が悪い。というより、魔法の使えない魔導士が回復のみとはいえ魔法が使える魔法使いを一方的に敵視しているのだ。


「正確には熱だ。スライムは乾燥に弱く、熱を嫌う性質をもっているそうだ」

「……教導会がオフィーリアの聖典を持っているという話は本当なんですね」


 オフィーリアの聖典――アヴェスタ。それは、かつて存在していた魔物の生態を調べた書といわれている。

 聖オフィーリアが時折籠っていた山を下りて人里に顔を出していたことは知られている。研究の一環として魔物を調査していたらしい。アヴェスタはその時々に書かれたものだ。しかし何分建国以前のものなので発見には至っていない。そんなものはなかった、という説が有力だった。そもそも名前が『聖典』だ、タイトルからして怪しい。


「こっちの水筒もオイルが入って――」


 ぴちゃん、と足元が濡れた。

 水かと気にしなかった二人だが、地面の水たまりが盛り上がりこちらを包み込もうとしているのを見て息を飲んだ。


「な……っ!?」

「まっ、魔物!!??」


 二人の声に後ろの冒険者たちがいっせいに緊張した。まさかと思いつつ期待した魔物がとうとう現れたのか。

 しかし水は侍が振り回したランプを嫌ってか、侍を避けて再び地面に伏した。


「まさかこれがスライムなのか!?」

「こんなもの、どうやって倒せば……っ!?」


 剣士が地面に剣を突き刺すが、水を切っただけでスライムが分離する気配はない。スーッと地面を這うスライムは次に、彼らの後ろの武闘家に襲い掛かった。


「う、うわあああああああああっ!?」


 アヴェスタの存在が眉唾ものであったことからわかるように、誰ひとり本物のスライムがどんな姿をしているのか知らなかった。武闘家の彼はまとわりつく水に怯え、それを離そうとする。粘度のあるスライムはびよんと伸びて薄くなるだけで離れなかった。

 スライムが食すのは魔法を帯びた肉である。今の時代の人間はほとんど魔法を持っていない。だからこそ、スライムは全身を喰おうとした。より濃密な魔法を蓄えているのは、内臓だ。


「くそっ」


 武闘家の武器は己の拳と足技のみ。防御を捨ててスピードを重視する。彼は肩当てと篭手以外の防具を付けていなかった。

 侍はスライムの染み込んだ武闘家装束を素早く短刀で引き裂き、投げ捨てる。代わりに自分の肩羽織を被せ、突き飛ばすと水筒からオイルを撒いた。


「皆、下がれ!!」


 自分も一歩飛び退いてオイルランプを投げ捨てる。後方から魔物出現を聞きつけた冒険者たちが集まってきているが知ったことではない。

 地面に撒いたオイルに本物の火が落ち、洞窟はあっという間に灯りと熱に包まれた。


「撤退だ!早くしろ!!」

「火を持っているやつは投げろ!」


 肝心なところを隠した武闘家と、彼を守る侍と剣士が撤退を命じる。しかし、その目で見ていなかった者や、見てはいたがたかが粘液魔物だと侮る者たちは本気にしなかった。


「スライムだろ?初級じゃん」

「水なんだから避ければいいだけだろ」

「なんのための武器だよ」


 嘲笑いながら各々の武器で攻撃する。だが、相手は水である。剣や槍は濡れただけでダメージを与えられない。


「どうやらスライムが現れたようです!」


 テレビカメラを従えたリポーターと魔導士もやってきた。そうこうしているうちに、スライムが捕食を開始する。まずは武闘家を馬鹿にしていた別パーティの剣士だった。

 全身を鎧に囲まれた剣士の、鎧の隙間から潜り込む。そして、肌にとりつき尻穴や口から内臓を目指していった。


「なんということでしょう!剣士では倒せないようです!」


 即死しないように細心の注意を払いながらスライムの食事は続く。口を塞がれた剣士からくぐもった悲鳴が漏れ、肌を削ぎ落し筋肉が見えてきた。現実味のない光景に冒険者もリポーターも湧いている。

 スライムは別の獲物を見つけた。

 まったく無防備なリポーターの背後からスライムが盛り上がり、その体を覆う。


「これがスライムなのでしょうか?はたして弱点は?魔導士様、これはどうやって」


 言葉は続かなかった。すっぽりとスライムに包まれた体にリポーターは驚愕し、なんとか逃れようともがく。まだ、笑っていられる余裕があった。


「おい、早くスライムを倒せ!」


 魔導士が檄を飛ばした。本人が戦う気のない言葉に冒険者たちは一瞬ムッとしたが、そのために来たことを思い出し、なんとかリポーターと剣士を助けようと攻撃する。

 剣士の捕食は続いていた。皮膚の薄い顔から骨が覗き、歯が融け出して行く。激痛を味わっているはずの剣士からは、しかし悲鳴があがることはなかった。涙や血の一滴すらも流さない静かな殺戮に、ようやく危機感が込み上げてくる。


「お、おい…」

「これ、やべぇんじゃ……」

「スライムなんて楽勝じゃなかったのかよ!」


 誰かが叫んだ。その予想がゲームや小説などの空想であり、今目の前で起こっている現実とはまったく合致しないことに、彼らはパニックに陥っている。


「や…やだぞ、死ぬの」

「火が消えるぞ!」

「やべえ、逃げろ!!」


 侍が付けた炎の壁の向こうに水の塊を見つけた誰かが叫んだ。じりじりと後退していた一人が何もかも捨てて出口へ走ったのを皮切りに、捕食されている剣士とリポーターを置いて冒険者たちが逃げ出した。


「魔導士!あんたが責任者だろ、助けてやれよ!!」


 冒険者に紛れて逃げようとしていた魔導士を誰かが引っ張り投げた。そうだそうだと誰かも続き、魔導士は後ろに押し戻される。


「ふ、ふざけるな冒険者ごときが!私を守らんか!!」

「冒険者ごときってなら自分でやれ!」


 重い邪魔な武器を魔導士に向かって投げ捨てる。反射的に受け止めた魔導士は、その重さに足がもつれた。誰かがそんな魔導士を邪魔だと押しのけ、最後尾にいた冒険者が洞窟に不釣り合いなほど豪華なローブを掴んだ。


「………っ!」


 背中から倒れた魔導士は痛みと屈辱に顔を歪める。


「貴様ら!私にこんなことしてただで済むと思うな!」


 くそっ、と悪態をついた魔導士は、しかし好都合とばかりに笑った。

 剣士の捕食はすでに終わっていた。鎧が水たまりに沈んでいる。リポーターは食事の真っ最中だ。

 炎はほとんど消えかけている。

 魔導士の任務は魔物の確認と討伐。討伐は失敗だったが、証拠を持ち帰れば魔法院の予算が増えるだろう。

 魔導士は恐る恐るスライムに近づいた。

 腰に下げたウエストバッグから試験管を取り出す。スライムに触れないようにそっと粘液体を掬い取った。


「これで魔法院の権威を取り戻せるぞ……」


 魔導士の背後ではほとんどの肉と内臓を失ったリポーターがスライムの中から彼を見ていた。魔導士は最後に剣士とリポーターに一瞥をくれると、


「役立たずが……」


 そう呟いて出口へと向かった。

 投げ捨てられたカメラが足早に逃げ去る魔導士と、彼の後を追うスライムを映していた。



 脱出した冒険者たちは安堵の息を吐いていた。無事脱出して改めて生きていることを実感し、恐怖に震えが込み上げる。

 洞窟の前で待っていたスタッフたちは驚愕し、説明を聞いてこの場からの撤退を決めた。


「洞窟は封印しましょう」


 侍が言った。現時点で倒せないことがわかっている魔物のいる洞窟が開いたままでは、獲物を求めたスライムが街を襲うだろう。

 しかしスタッフは難色を示した。肝心の魔導士がいないままでは封印はできない。何の成果もなかったとなれば今後の調査費用にまで響いてくる。


「まあ待て。魔導士が戻ってきてからだ」


 冒険者たちは渋々その指示に従ったが、最初に捕食されかけた武闘家のいるパーティだけは治療のため病院に行った。

 何時間待っても魔導士は現れず、また、無事生還したものは彼らのパーティだけだった。






つくづく思い知った…。

書き溜め、大事!!

次は魔法院か教導会の話になります。

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