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銀の歌ーGoodbye to Fantasyー  作者: プチ
第1章 都市伝説
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第14話 街の中で



 あれからわたし達は、森を抜けシリウスちゃんに乗り何時間も走り続けた。途中でシリウスちゃんのことも考え何度か休憩は取ったが、それでも休む暇などほとんどなく、ただただ走り続けた。朝に出たというのに、気づけばもう日が暮れている。夕焼けが綺麗だ。

 シリウスちゃんに乗って朝から今まで走り続けたからお尻はとっても痛い。けれど、それもそろそろ終わる。


「セア、見えるか? そろそろ着くぞ。あれが大国パルスの首都、ダングリオだ」


 前方に少しづつ巨大な都市が見え始めたのだ。だがそれにしてもダングリオとはおかしな都市名だ。ダングリオねぇ、ダングリオ……ダングリオ………。


「アルトさん、それってまさかディ○ダの進化系の!?」


「それは、ダグ○リオ、あそこは、ダングリオだ」


「ではイギリスの作家によって書かれた理想郷の名前ですか?」


「それはシャン○リラ。いいか! あの都市の名前は、ダグト……間違えた。ダングリオだ!!」


 アルトさんは「まったく、こいつ何言ってんだ」みたいなことを言いながら、さらにシリウスちゃんを加速させる。土煙を上げて走るシリウスちゃんが途中ため息をしたのは、きっと気のせいだ……。


✳︎


 パルス国の首都ダングリオ。


「大きい……ですねー」


 わたし達の眼前には、ヤチェの村で見た建造物とは、比べものにならない程の大きさの、建物がいくつもあった。それはレンガ造りの建物であったり、木で造られたものもあるが、機能性だけを追求したわけではなさそうで、どれにも品があった。やはり首都というだけあって、裕福なのだろう。

 わたし達がダングリオに入る時に通った、石でできた門も大きく立派であったが、街の中の荘厳さはそれを超えるもの。夕日が街並みをさらに美しく染め上げている。

 そして何より人の多さだ。ヤチェの村とは比べ物にならないくらい多くの人が歩いている。ヤチェの村の人通りの少なさは、あの時集会に集まっていたから、だというのもあるだろうが。それにしたって、そもそもの人口が違う。


 そうして初めて見る街に圧倒されながら、景色を眺めるようにして街並みを歩く。視線を家から家へと、移しながら通りを行けば、不意にそれらが途切れ、夕日が直に視界に入ってしまう。それで「うぁ!」と悲鳴をあげれば、後ろからため息が聞こえてきた。


「あのなぁセア、もっと緊張感を持て。俺たちが今、危機的な状況だってことを忘れるな」


 アルトさんは呆れたようにそう言った。彼の言うことは実際正論なんだろうけれど、それでもわたしは、後ろに振り向くと、口を膨らませてこう言った。


「むぅ……わかってますよ。でもわたしはこういう景色を見るのも、たくさんの人を見るのも初めてなんです!ですから……仕方ないじゃないですか」


 自分の心情としては、正しいことだと思った。だが言った後に気づいて後悔した。いくらむっとして、反射的に言ったこととはいえ、言外に記憶喪失だからというニュアンスを含む、この言い方は流石に卑怯だった。これではアルトさんに、必要以上に気を使わせてしまう。

 案の定アルトさんは、面食らったように一歩引くと、仕方なさそうに視線を地面に移した。


「………そうだな。そうかもしれないな。

んじゃあ、そしたら俺は、昨晩、銀糸鳥ぎんしちょうを送った知り合いと落ち合うために、もう一度、今度は人伝いに連絡を取るから、ここらで少し待っててくれ。ちょっくら酒場に顔出してくる」


 そう言った後、わたしの方を上からしげしげと見つめ。


「子どもは立ち入り禁止だからな」


 ククッと笑うと、アルトさんはひらひら手を振り、角を曲がって路地に入っていった。ひっそりとした路地の奥には、何かの目から逃れるみたいに、小さな酒場があった。



✳︎


 わたしは大通りを少し離れ、脇道にそれてふてくされていた。


「まーーったく!! アルトさんったら酷いんだ! わたしのことを子ども扱いして!」


 口を膨らませて自分の頭に手を置いてみる。そんなに小さいかなと疑問に思って。

 以前アルトさんに軽く身長を図られたことがある。その時にわたしは、身長は145程だと言われた。それに対し、アルトさんはわたしよりも30cm以上は高い。


「確かにわたしの身長はアルトさんと比べたら低いかもしれませんけど……」


 地面に落ちている石を蹴飛ばす。


「それでもあんな言い方はあんまりです! わたしだってもう12? 13? くらいなんだから! 立派なレディーです!!」


 ターン! と足音を鳴らした。すると辺りに音が響き、足が痛くなった。

 不機嫌な小動物のように、足音を鳴らしたことにより、少し落ち着きを取り戻して来た。それで先程までの自分の行動が、すこしだけ幼かったのではと思い直し、誰に聞かれてるわけではないのに一人言い訳をした。


「いや〜さっきのは違うんですよ、ちょっとだけ気がたっていたっていうか……。ご、ごめんなさい」


 謝罪は誰に聞かれている訳ではないから当然返事はない。しかし、なんということか、アルトさんが入っていった路地とはまた別の細い道から、言葉に反応するみたいに、ガシャンと音がした。


「──ひぇ! あ、あれ? どちら様かいらっしゃいましたかでしょうか〜?」


 焦っていたため言葉遣いが変になる。それからしばし身動きも取らずじっとしていると、やがてもう一度ガシャガシャと音がした。冷静になった頭で改めて聴いてみると、どうやら鉄などの金属がかすれあって出る音だとわかった。


 恐る恐る音の出る方向へ近づいて行く。するとそこには、ガラクタに紛れて一人の人間が仰向けに倒れていた。そしてよくみるとその人の周りは赤いなにかで汚れていた。それにこの怖気が走るような嫌な臭いは……。


「──!? だ、大丈夫ですか?」


 慌てて駆け寄った。倒れている人物は、褐色の肌と金色の髪を持った美しい女性であった。それと、彼女は見覚えのある銀色の鎧を所々に身に着け、オレンジの糸で花が刺繍された前掛けを付けていた。前掛けには赤黒いー恐らくはー血が付いており、胸の辺りに穴が空いていた。


 この人って……もしかして王国聖騎士団の人……?


 その人物の前掛けをどかしてみると、胸の辺りに、鎧ごと貫いたと思われる傷跡があった。そこから血が流れ出ていたのだろう、今は血の跡は黒く濁って固まっている。新しく血が流れ出ているということではなさそうだ。


「ーーんっーーあぁーあっ」


 その倒れている人から、うめき声のようなものが聞こえた。苦しそうな悶えた声だというのに、なぜだかそれは非常に艶のあるものだった。この人物の声は非常に美しく、まるで天上で鳴る鐘のような音の聞こえに、こんな状況にも関わらず、わたしの頭は一瞬だけだが空になってしまった。

 ただこれで女性に意識があるのがわかったので、わたしはもう一度声をかけてみる。耳元で。


「だ!! 大丈夫ですか!!!」


──なんの返事もない。と思っていたら金髪の女性……剣士? さんは腕を動かしていた。そして何か、手記のような物を摘み上げると、パラパラとめくり見せつけて来た。


“““““““““““““““““““““““““““““““““““““““““““““““““““““

うるさい……最近のガキは、最低限の気遣いすら分からんのか。

”””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””


 綺麗な文字で、汚い言葉が書かれてあった。

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