2015年フェスピ&マジラビ舞台記念SS第6弾
マジカル☆ラビリンスより、バルカンの過去話です。彼の将来を知りたい方は特殊警吏隊士 海宝紫をご覧下さい。
オレの名前は坂月将之介。友達からはバルカンって呼ばれてる。
それはなんでかっていうと、小さい頃に見てた特撮番組のヒーローの名前だからだ。
オレはそのヒーローに憧れてて、よくモノマネをしてたらそう呼ばれるようになった。
バルカンは『むてきのヒーロー』で『せーぎの味方』なんだ。かっこいいよな。ワルモノをバッタバッタと倒して、町の人たちを守るんだ。
オレもいつか『せーぎの味方』になって、みんなを守りたいんだ。ワルモノを倒すむてきのヒーローになる! それがオレの夢なんだ。
「何言ってるんですか。無敵のヒーローなんているわけないでしょう」
ある日、親友の渡羽飛鳥にそう言われ、オレはショックを受けた。
「あれはフィクションで作り物なんです。無敵のヒーローなんて、物語の中だけの存在なんですよ。実際になれるわけないじゃないですか」
ガガーン。オレはさらにショックを受けた。バルカンは作り物だったのか……
「それに、君みたいにヒョロヒョロな子供がワルモノと戦えるわけがありません。せいぜい人質になって終わりですよ」
ガガガーン。オレと同じくらいヒョロヒョロの飛鳥に言われると、なぜだかショックと同時に悔しい気分だ。
そう。この頃のオレはガリガリとまではいかないが、背だけが高くて頼りない体つきだった。
その言葉が悔しくて、悲しくて、オレはむてきのヒーローになることはあきらめた。
でも、飛鳥に言われてちょっと悔しかったから、体を鍛えるために柔道を習うことにしたんだ。
町の柔道道場に通って数年。稽古からの帰り道のことだった。偶然、塾帰りの飛鳥と会った。
「飛鳥~。塾終わったんだな!」
「わっ、バルカン……なんか、汗臭いです」
「さっきまで稽古してたからな!」
「触らないで下さい、近寄らないで下さい」
さささっと数メートル離れる飛鳥に、オレはブーイングする。
「なんだよぉ、そこまで離れることないじゃんかっ。あ!」
飛鳥はこっちに体を向けたまま後ずさりしていたから、後ろが見えていなかった。
そのまま飛鳥は、後ろを歩いていた男にぶつかった。
「わぁ!」
「あぁん?」
振り返った男は明らかに『ワルそうな顔』をしていた。飛鳥は驚いて動けなくなっていた。
「イテェな。どこ見て歩いてんだよ、クソガキ」
「ひっ。あ、あの……」
「おいおい、人にぶつかっといて謝りもしないのかよ? ええ?」
「…………」
飛鳥は震えてる。きっと怖くて声も出ねぇんだ!
「親に習わなかったのかよ? 人にぶつかったら……」
「!」
男が拳を振り上げる。飛鳥はぺたんとしりもちをついた。
「ごめんなさいって言うんだってよぉ!」
このままじゃ飛鳥が殴られる! オレは飛び出した。男の振り下ろした腕を掴んで、そのまま投げ飛ばす。
「!? でぇっ」
「あんたこそ、父ちゃんや母ちゃんに習わなかったのか? 子供に暴力は良くないって!」
「……くそっ」
男は悔しそうにしていたけど、何も言わず走っていった。オレは呆然としてる飛鳥を振り向いた。
「大丈夫か? 飛鳥!」
「……」
「飛鳥? おーい」
顔の前で手を振ってみると、反応があった。
「あ。……はい、大丈夫、です」
「よかったー。オトナゲないよな、あいつ。あ、立てるか?」
「……」
「しょうがねぇーなぁ。ほら」
「わっ」
オレが手を掴んで飛鳥を立ち上がらせる。飛鳥はぽかんとして、手を見つめた。
「あ! わりぃ。触っちまった」
「いえ……すごい、ですね」
「何が?」
「大人の男の人をあんなふうに投げ飛ばしてしまうなんて」
「鍛えてっからな! なんか、相手の力を利用してうんちゃらかんちゃらって先生が言ってた!」
にしし、と笑うと、飛鳥は少し顔を逸らして、小さい声で言った。
「……ありがとうございます。少し、かっこよかったです。翔子姉さんみたいで」
「姉さん? マジで? オレ、姉さんみたいだったのか!?」
「ほんの少しです。あと、顔近いです」
バチンッ、と顔を叩かれた。そっか。オレ、姉さんみたいだったのか。
飛鳥のねーちゃんは女の人だけど、男みたいにシュッとしててかっこいいんだ。オレの憧れだ。
「前に、姉さんが職場で護身術の訓練をしていて、それにちょっとだけ似てただけですよ」
「へー。あ、姉さんって確か警吏隊士だったよな?」
「はい。そうですけど」
警吏隊士ってーのは、町を守ったり民を守ったり、犯罪をしないよう呼びかけたり、事件の調査をする人たちのことだ。
オレの理想とはちょっと違うけど、あれも正義の味方だよな。それに、オレの力で飛鳥を守れた。オレでも、あのバルカンみたいに誰かを守れるんだ。
「よーしっ。飛鳥! オレ、警吏隊士になる!」
「……は?」
「警吏隊士になって、何かを守りたいんだ! 今みたいにさ!」
飛鳥は呆気に取られていたけど、ため息をついて「まあ、いいんじゃないですか?」って言ってくれた。
警吏隊に入るためには、勉強をいっぱいしなくちゃいけない。勉強は苦手だけど、まあなんとかなるだろ!
それからオレは警吏隊のことを調べたり、もっと体を鍛えるために、その道場をやめて他の道場を探すことにした。
まあいろいろ迷ったけどよ、綺堂流っていう流派を教えている真壁道場に入門することにした。家からはちっと遠かったけどな。
綺堂流のことは詳しくは知らんけどそこそこ有名だし、演武を見た時に惚れこんじまったんだ!
「新しい門下生ですね。私は師範の真壁茅乃と申します」
「同じく師範の真壁豪徳だ!!」
「坂月将之介です。よろしくお願いします!!」
着物を着た上品な婆さんと、声も図体もでかい爺さん。この二人が道場を切り盛りしてるのか。
道場にはすでにたくさんの門下生がいて、女の子は薙刀、男はなんかの体術の練習をしている。
オレも今日からここの仲間入りだ!
「わっはっは! 元気な若者だな。結構結構!!」
「我が綺堂流は剣術、柔術、薙刀術を主に指南しておりますわ。まずは準備体操から始めましょうね」
「はいっ!」
まあ、そんなこんなで真壁道場に入門してから何年か経って今に至るわけだ。
あれからオレはかなり成長したぜ? 師匠たちにはまだまだ敵わねぇけどな。
「将之介! 休憩は終わりだ。最後に組手をやるぞ。終わったら茅さんが菓子を振舞ってくれるそうだ!!」
「おー! 茅師匠の手作り菓子、楽しみっす。よろしくお願いします、豪徳師匠!」
「かかってこい!!」
やっぱ体を動かすのは楽しいぜ。もちろん警吏隊士になる夢も忘れちゃいねぇ。
もうすぐ入隊試験があるんだ。それに合格できれば、警吏隊に入隊できる!
そうそう、警吏隊士と言やぁ、師匠たちの子供も警吏隊士らしい。
会ったことねぇけど、オレが警吏隊士になれたら会えっかなぁ?