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2015年フェスピ&マジラビ舞台記念SS第4弾

マジカル☆ラビリンスより、アスカの未来編。おおいにネタバレがある為、本編エピローグ読了後にお読み下さい。

 あの出会いから約一年。赤い髪の少年から告げられた通り、あたしはあの人と別れることとなった。

 予感通りとはいえ、悲しくてつらかった。それでも、もう道は決まっていたのだ。

 自分にできることをしよう。たとえ、そばにいられなくても。

 その思いで、あの人から離れることを決めた。

 そうして四年の月日が流れた。その間、いろんなことがあった。

 女王になるため、帝王学を叩き込まれたり、マナーはもちろん、人間界や魔法界の歴史も一から学び直した。

 他国へ視察に行き、直接民の声を聞いて、触れ合った。


 まだまだ新米の女王。けれども、民は皆、快く受け入れてくれた。応援してくれた。

 その声に、想いに、笑顔に応えたい。

 せわしない日々。そんな中でも、あの人への想いは色褪せない。

 一縷の望みをかけて残してきた約束の花を、毎日眺めた。

 今頃、どうしているだろう。元気でいるだろうか。新しい恋を見つけただろうか。

 思い出して、くれるだろうか。

 いつも心の片隅にある想い。どれだけ月日が流れても、待ち続けようと思った。

 その思いは、四年が経って報われた。

 あの人は思い出してくれた。あたしの存在を。もう一度、名前を呼んでくれた。


「……渡羽?」

《アスカ?》


 数年振りに見たあの人は、あたしよりも年上になっていた。でも、面影は残っていて、懐かしくて、涙が溢れそうになった。


「渡羽……思い出してくれたの?」

《アスカ……! 本当にアスカなのか!?》


「そうよ、渡羽。逢いたかった……」


 いとしいあなた。もう触れることもできないけれど、最初で最後の再会だとしても、うれしくてたまらない。

 これは奇跡。叶うといいと願っていたけれど、いつになるか、もしかしたら一生叶わないかもしれない、わずかな希望。

 こんなに早く実現するなんて、奇跡としか言いようがない。だからもう、心残りはないの。


《アスカ。俺は…離れていても、君を愛してる。他の誰を愛しても、君を一番に想う》


 その言葉で吹っ切れたわ。やっと気持ちに区切りがついたの。

 あたしも同じ気持ち。他の誰かを愛することになっても、あなたは特別。ずっと、一番、大切な人よ。

 ありがとう、さようなら。離れていても、絶対に守るわ。それが私の宿命だから。





「夜風は冷えますよ、女王陛下」


 バルコニーで夜空を眺めていたアスカの肩に、声と同時に、マントが掛けられる。

 振り返ると、穏やかなまなざしの青年が立っていた。


「もう、よろしいのですか?」


 声の主は、優しく微笑みながらアスカを見下ろす。質問の意図を察したアスカは、目を細めて「ええ」と笑い返した。


「あの花は必要なくなったわ」

「では、再会できたのですね。想い人に」


 アスカは微苦笑し、青年の胸に顔をうずめた。


「……ありがとう。私のわがままを聞いてくれて。こんな私を、待っていてくれて」


 四年の間には、縁談もあった。女王となるなら、補佐として婿を決めなければ。この国の王となる人を。

 母からたくさんの見合い話が持ちかけられたが、渡羽への想いを残したままでは、そんな気にはなれなかった。

 それに、婚約者というのは、どこぞの粘着質男のせいで、あまりいい印象が無いので、尻込みしてしまう。

 一応、両親のために見合いは受けたが、ことごとく「心に決めた人がいて、その人を待っているので」と断った。

 大方の男は、それで諦めたが、中にはめげない男もいたわけで。

 やれそんな人は自分が忘れさせてあげますとか、やれ自分が女なら待たせるような男は見限るだとか、そんなことばかり。


 一国の王という地位にしがみつこうとする男ばかりで辟易していた時に、この人と出会った。

 気取ったところはなく、温和で、少し抜けているところがかわいい。

 柔和な笑顔が好きで、どんどん惹かれていった。

 何度も会っているうちに、彼が私を愛してくれているのは分かった。

 けれど、どうしても、渡羽のことが気がかりで。

 気持ちに整理がつくまで、この人に自分の気持ちを伝えることも、気持ちに応えることもできなくて、近からず遠からずの距離を保っていた。

 事情はきっとティアラから聞いたのだろう。彼は、深くは詮索せず、黙って待ってくれていた。

 未練がましく昔の恋にすがりついている私を、彼だけが受け止めてくれたのだ。


(これでやっと言える。やっと、あなたの気持ちに応えられるわ)


「苦しい思いをさせて、ごめんなさい。でも、もう……」


 アスカが青年の背中に腕を回そうとした時、ぎゅっと抱きしめられた。


「!」

「いいえ、陛下。私はこれまでの日々を、つらいなどと思ったことはありません。あなたを想い、あなたのおそばに仕えることができるだけで、幸せなんです」


 その笑顔に胸が熱くなる。アスカは泣きたいような気持ちで笑った。


「そばにいるだけで幸せなんて、それじゃ全然足りないわ。あなたにはもっと、幸せをあげたいの」

「陛下?」

「それもダメ。陛下だなんて他人行儀だわ。もう遠慮なんてしなくていいのよ。だって」


 アスカは胸にかけていたペンダントを外した。ペンダントの中央には、かつてカチューシャにつけていた赤い法石。それを青年に差し出す。


「これからは家族になるんだから」


 青年が目を瞠る。自分の法石を相手に渡すのは、正式なプロポーズの証。

 アスカは愛おしそうに、青年を抱きしめた。


「ちゃんと名前で呼んでちょうだい、エルレイル。私の旦那様」


 その後、アスフェリカ女王結婚の知らせが魔法界中に届き、婚儀が盛大に行われた。





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