可愛さの裏
「どうして貴方達は、私達をつけてきているのですか?」
天使と悪魔の口論が終わった頃、私の前にいきなり少女が現れた。そして微妙に震えているような、高くて幼く可愛らしい声で言ってきた。
歳は七歳くらい? ピンクでふりふりのワンピースと来て、同じくピンクの可愛らしいカチューシャを付けている。靴もピンク色で、小さい花のような飾りがついているわ。子供用のヒール、とかなのかしらね。髪はクリーム色でふわふわと、少女の太股辺りまで伸びている。前髪は少し長めで、目に掛かりそうなところまで伸びている。或いは、下を向いているせいでそう見えただけなのかもしれない。
顔は大人しそうで、それでも決して地味という訳ではない。柔らかそうな頬は仄かに赤く、大きな目の上には長い睫毛がここからでも見える。身長は私よりも結構低いから、130cmもないんじゃないの?
「え? どこから、こんなに沢山の人が? 驚きですね」
ふぇ? 悠馬が私に言って来ていた、まあ私は普通に驚いてるわ。悠馬、貴方のは演技なの? 見た感じ、演技派には見えなかったけど…。ああでも、見えてたかも。ごめん、分かんなくなっちゃった。
「つけているつもりはなかった、そう言うんですか?」
背の低い少女は私達を見上げる体制になっているが、少女のその言い方には多少の威厳を感じた。
「貴方達、どこから現れたんですか? てか貴方は、誰なんですか?」
悠馬は最後まで、恍け通すようだ。でもまあそれが、一番楽でいいわよね。
「私は山瀬梨乃です、憶えておくといいですよ」
山瀬梨乃? まあいいわ、憶えておいた方がいいなら憶えておく。しかしこの少女、一体何者なのかしら。
「梨乃さんですか、分かりました。宜しくお願いします」
悠馬は笑顔で、梨乃と名乗る少女に頭を下げる。天然を装うって言うの?
「よ、宜しく? 宜しくするつもりはありません。もう着いて来ないで下さいね、次会った時には確実に殺しますから」
とても可愛らしい満面の笑みで、ナイフを見せて来た。ナイフ? 魔王の部隊の隊長級なのでしょうに、そんな武器を使っているの…?
「ちょっと、冗談はやめて下さいよ。それに貴方達に、ついて行ったりしませんって」
悠馬は普通の天然で暢気な少年を、最後の最後まで演じ通した。
「冗談では、ありませんよ。それではさようなら、もう会わないことを期待してますよ」
上品に微笑み、少女は消えて行った。やがて周囲には、何の音もなくなった。