第30話 輝く笑顔!モールドの守ったもの
「君たち、なぜこんなところにいるんだ?」
猪が動かなくなったことを見届けたパスヴァルはモールドたちに鋭い目を向けた。
思いがけない反応に三人とも一瞬体が固まった。
「ぼ、僕たちもみんなを助けたくて、それで帰還石でここに…」
「私は街で待ってるように言ったはずだ。こんな身勝手な行動は許されることではない」
パスヴァルの声色にいつものような温かさはなく、戦場にいるときと同じ顔をしていた。
「そんなこと言わなくたっていいじゃないですか。俺たちはみんなを守るためにいる。そうでしょ?」
「だからだ。君たちがここで脱落すれば将来救われるはずだった命も手放すことになる。君たちはすでにとてつもなく多大なものを背負ってるということを自覚しておけ」
パスヴァルの言葉一つ一つが子どもたちを突き刺す。
モールドの顔が徐々に下に傾いていく。
長年騎士として勤めてきたパスヴァルの考え方は俺はわからんでもないが、そんなことを知る由もない子どもたちは少し理不尽に感じているようだ。
「なんだよおじさん、偉そうに!お兄ちゃんたちはすぐに来て助けてくれたのに、おじさんは後から来ていいとこどりしただけじゃん。お兄ちゃんたちのほうがよっぽどかっこいいよ!」
モールドの後ろから顔を出したリドはパスヴァルに向かって思い切り舌を出した。
「ち、ちょっと!」
モールドは慌ててリドの口を手で覆った。
パスヴァルはリドをじっと見つめた後、息をまとめて吐きだした。
「何はともあれ、君たちは騎士としての責務を果たした。それは称えるべきだろう。よくやった。君たちはその子を連れてみんなの元に避難しろ。私は残りの猪を片付けてくる」
そう言うとパスヴァルは燃え盛る村の中に消えていった。
「…とりあえず先生が来てくれたから大丈夫だろう。俺たちは早く引き上げよう」
三人はリドを連れ、先に避難したみんなの元へ歩いていった。
幸い、モールドたちが早く助けに来たおかげで行方不明者はいなかった。
しばらく待っていると村は静かになっていった。
パスヴァルのおかげで村に平和が訪れたのだ。
次の日から全員総出で村の修復に取り掛かった。
そのおかげでほとんど破壊されていた村はある程度直すことができた。
そして数日が過ぎ、遠征訓練の終わりの日がやってきた。
村の人たちが村の入り口でみんなを見送りしてくれている。
「お兄ちゃん、もう行っちゃうの?」
リドは引き留めるようにモールドの手を引っ張っている。
「ごめんね。僕ももう少し居たいんだけど、学校があるからね」
「そうなんだ…。ねえ、また会いに来てくれる?」
リドは少し照れくさそうにしながら聞いた。
「もちろんだよ!きっとまた会いに来るよ」
「ほんと?絶対だよ!」
リドは満面の笑みでモールドと小指を結んだ。
微笑ましい光景にどこか懐かしさを感じる。
「そろそろ行くぞ。みんな馬車に乗るんだ」
パスヴァルの合図で次々に馬車に乗り込む。
全員乗り込んだことを確認すると、馬車はゆっくりと出発した。
ガタガタと揺れ、森のトンネルに入る。
モールドが後ろを振り返ると、リドはまだ大きく手を振っていた。
それに答えるようにモールドは手を振り返した。
姿が見えなくなるまで。
手を振り終え、椅子に座り直しても、モールドの顔から笑みが消えなかった。
「なんだよ、気持ち悪りい顔しやがって」
「ご、ごめん。なんか…やってよかったなって。ここまで頑張ってきてよかった」
「そうだな。助けた甲斐があったもんだ」
「もっともっと強くならないと!もっとたくさんの人を守ってやるんだ!」
そう強く決意すると、モールドたちが乗った馬車は森を抜け、軽快に走って行った。
…俺を置いて。




