prologue
「村長!」
一人の若者が、この部屋で一番目立つ、大きな赤い扉を蹴破る勢いで入ってきた。
部屋では、一人の男が赤く、装飾の豪華な玉座に座り、それを取り囲むように数人の男が立っている。二人の巫女がその人間は男達の前で舞を踊り、さらにその前にはぐつぐつと何か薬草のようなものを煮込んでいる鍋があった。一目で、何かの儀式を執り行っているとわかる様子だ。
この場にはふさわしくない大声に、玉座に座る男は眉根を寄せて扉の方を向いた。猫のような丸く大きなつり目に、高く通った鼻。がたいがあまり良くないからかみてくれは愛らしいが、その目に宿る闘志と、腕に残る数多の傷から、男が武術において只者ではないことが伺える。
案の定、男が何だ! と少し大きめの声で怒鳴ると、こえをかけた若者はひっ! と悲鳴を上げ下を向いた。
「大事なアダチネ様の儀式なのに、何を大きな声を出しているのだ。それなりの理由はあるんだろうな」
若者はガタガタ震えたまま、ただこくこくと頷いた。それから男が話せ、と言うとそのまま正座し、頭を垂れるーーいわゆる土下座をした。
「人間が鳥居をすり抜け結界を破ったと、門番から連絡がございました」
「なに!?」
男が玉座から勢いよく立ち上がる。真っ赤にした顔には青筋が何本も浮かび上がっていて、まるで仁王のような顔つきだ。
「その人間はどうした」
とりあえず落ち着き玉座に座り直した男が言うと、若者はすぐに答えた。
「ひとまずクロノスが捕え、現在は磔にされています。逆さ向きに吊るしたので、あと三、四日で死ぬと思われます」
「なるほど。それほど弱いとなると、侵略しにきたわけではないのだな。何の心構えもせず、ここには来るまい」
男は頷くと、ヘルメス、と傍に立つ彼の右腕の名を呼ぶ。
「何でしょう」
名前を呼ばれた男は食えないような笑みを浮かべた。
「捕らえられたという人間を磔から下ろし、話を聞け。ここのことを何も知らないのならば、人里に返してもよい。ただ、最後に忘却の呪いをかけるのを忘れるなよ」
ヘルメスは相変わらずニコニコしながら命令を聞き、ゆっくりと部屋から出ていった。
男はため息をついて、少し姿勢を崩した。なんせこの玉座は大きいので、男が座っても、あと一人くらい余裕で座れるくらいのスペースがあった。
「まだ戦いは始まったばかり、か」
男は気だるげに呟くと儀式の続きをやるよう促した。




