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06 ナノカ

 声を掛けてくれた傭兵のナノカさんを一も二もなく雇い入れ、準備を済ませてから都市を出る。


 目指すは原生林だ。


 ボクたちは日もすっかり落ちて暗くなった道なき道を、地図と磁石を片手に歩いていく。


 しばらくするとナノカさんが話し掛けてきた。


「……ちょといいかい?

 あんた『スカイ』って言ったね?

 どっかで聞いた名前だけどそれはともかくとして、あんた、荷物持ち(ポーター)だったのか。

 それにしても慣れた荷運び振りだねぇ。

 もしかして、どこか良いところのパーティーにでも所属してたのかい?」


 饗宴のみんなを思い出す。


 けれども今は想い出に浸っている場合ではない。


 ボクは問いを曖昧に誤魔化すも、彼女は殊更(ことさら)それを気にした様子もない。


 ナノカさんはボクの背負った大きな荷物を眺めては、しきりに感心している。


「これだけの備えがあれば、もし原生林に入ることになってもひとまず安心だねぇ」


「はい。

 それが荷物持ち(ポーター)の役割ですから」


 ボクは万が一を考えて準備をしてきた。


 背負った荷物のなかには食料や獣除けの香以外にも、閃光玉や催涙玉なんかも入れてあるから、いざという時にも役に立つ。


 それよりボクは、ナノカさんについて気になっていたことがあった。


 尋ねてみよう。


「すみません、ナノカさん。

 一つ、聞いてもいいでしょうか?」


「……ん?

 ああ、もちろん良いよ。

 あんたぁ今はあたいの雇い主なんだから、一つと言わず、三つでも四つでも聞いてくんなよ」


「ありがとうございます。

 ……ナノカさんは、魔人族が嫌いではないのですか?

 傭兵ギルドでも良い顔はされませんでしたが」


「なんだ、そのことかい。

 あたいだって、そりゃあさぁ。

 正直言うと魔人族のことは良く思ってないさ。

 でもねぇ……」


 彼女は話の合間に指で頬をかく。


「でも、あのキリって子は別さ。

 あたいはさ。

 街で清掃クエストをこなしているあの子をよく見かけてたんだけど、そりゃもう真面目に働いててさぁ。

 他の冒険者たちから清掃の仕事を押し付けられても、文句も言わず、毎日毎日だ。

 それに知ってるかい、あんた。

 あの子、クエスト報酬から少しのお金を出して、野良の角猫(ホーンキャット)なんかに餌をあげてるんだよ。

 ……ったく。

 自分だってボロボロで、お腹を空かせているだろうにねぇ。

 ……あんな姿を見ちまったからには、もう魔人族だから嫌いだとか、そんな下らないことは言えなくなっちまうさね」


 そうだったのか。


 キリが貯めたお金では傭兵も冒険者も雇えなかったけど、それでもこうして見てくれているひとは居たのだ。


 彼女の頑張りは無駄なんかじゃなかった。


 それがボクには嬉しい。


「それにあたいは獣人族(ワービースト)だから、人間族(ヒューマン)ほど魔人族と険悪って訳でもないしね」


「……そうですか。

 教えていただき、ありがとうございました」


 ぺこりと頭を下げる。


「なんだい?

 もう質問は終わりなのかい?」


「はい。

 もう結構です」


 どうやらこの兎獣人の女性傭兵は、信用出来そうである。


 それにさっきからボクと話しながらも、周囲への警戒を怠らないこの用心深さ。


 きっとこのひとは、熟練の戦士だ。


 差し当たりそれだけ把握できれば良い。


「それでは急ぎましょう」


「あいよ」


 ボクたちは会話を止め、歩みを速めて原生林に向かった。


 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 東の空が、地平線から徐々に明るくなっていく。


 原生林のすぐ手前まで辿り着き、夜を通してキリを探し回ったボクたちは、けれども今のところ彼女を見つけることは出来ていなかった。


 そうこうしている内にも日は昇っていく。


 やがてすっかり朝が来て、焦りばかりが募るなか、ボクたちは彼女の捜索を続ける。


 すると――


「あっ、あそこ!

 スカイ、見てみなっ。

 あそこにあるのは……!」


 駆け出したナノカさんに、ボクも続く。


 そこにあったものは野宿の痕跡。


 キリはボクたちが辿り着く前に、すでに原生林へと足を踏み入れてしまっていた。


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