07 追跡
ボクは野宿跡を眺めて歯噛みした。
おそらくキリは原生林の中での活動時間をなるべく長く取るために、日の出と共に行動を開始したのだろう。
もしこの考えが当たっていた場合、彼女が森に入ってからすでに数刻が経過していることになる。
もう足取りは追えない。
「……間に合わなかった!
どうすれば……」
思わずそう漏らしてしまう。
こんなとき猛獣使いの饗宴なら、マルセイさんの獣魔フェンリルがその鋭い嗅覚で匂いを辿ってくれたり、ロキシさんの妖精一掴みの藁のウィルが道行きを占ったりしてくれた。
……でもここには饗宴のみんなはいない。
考える。
ボクはこれから、どんな行動を取るべきだろうか。
こうなったら、原生林を当てずっぽうに捜し回ろうか?
いやだめだ。
そんなことをしてもキリが見つかる公算は低いし、よしんば見つかったとしても時間が掛かり過ぎる。
ことは急を要するのだ。
けれどもボクだけではどうにも出来ない……!
◇
無力感を噛みしめながら立ち尽くしていると、ナノカさんが近寄ってきて、ボクの頭にポンッと手を置いた。
そのままくしゃくしゃと髪をかき回してくる。
「ッ⁉︎
い、いきなり何をするんですか?
やめて下さい」
「ははは、ごめんごめん。
そう怒りなさんなって。
いや、なに。
あんたが『この世の終わりだぁ』みたいに辛気臭い顔して突っ立ってるもんだから、ついね」
ナノカさんは一頻りカラカラと笑ってから、地面にしゃがみこむ。
そして眼差しを鋭くしたかと思うと、注意深く辺りを探り始めた。
「……こっちだね」
「え?」
「ついてきな。
森に入るよ」
「あ……。
ま、待って下さい」
原生林に踏み込んだ彼女は、立ち止まり辺りをゆっくりと見回す。
「……こっちだ」
生い茂る草や、進路をさえぎる枝葉をかきわけ、ナノカさんが進んでいく。
ボクはその背中についていきながら、問い掛けた。
「キリがどこにいるか、知ってるんですか……⁉︎」
「……ん。
正確には『知っている』んじゃなく『追うことはできる』だね。
ほら、ここを見てみな。
注意して見なきゃ分かんないけど、獣道も出来ていないのに小枝が折れてるだろう?
あっちの方は蔦が切れてるし、向こうの岩は苔が剥がれている箇所がある。
それに何より痕跡がまだ真新しい」
……本当だ。
言われないと気付かないくらいの微細な痕跡が、森の中にわずかに残されてあった。
「原生林ってのはひとの手の入ってない森だろ?
そこを進むからには、足跡のひとつも残るって寸法さ。
なら捜し出せる。
ま、多少の時間は掛かるんだけどねぇ」
ナノカさんは簡単に言うけど、これはそんな容易なことではない。
森は入り組んで複雑だ。
こんな中、ほんのわずかな痕跡を辿ってたったひとりの人間を捜し出すなんて、普通は不可能だ。
けれどもナノカさんは出来ると言う。
そしてきっと彼女は信用に値する。
饗宴のみんな以外でこんなに頼れると感じたひとは初めてだ。
「……凄いんですね」
「んー?
そりゃまあ、あたいは凄いよ?
言ったじゃないか、これでも腕には自信があるってさ。
それに、あたいの本来のジョブは『斥候』だしねぇ。
こういうのは得意なのさ」
◇
前を歩くナノカさんについて行く。
まだ日は空の天辺までは昇っていないけれども、もう原生林に足を踏み入れてから、一刻ほどは経った頃だろうか。
「……待った。
スカイ、そこで止まりな」
ナノカさんに制止され、歩みを止める。
すると彼女は、ボクに後ろ姿を見せたまま小さく呟いた。
「……警戒するんだ。
血の匂いがするよ……」
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