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獣の王に愛されて:選び放題と言われましても!  作者: 高瀬さくら


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20/38

20.我慢はどちらのもの?

 保護欲をくすぐると言われても。

 そういう生き物(けもの)と言われても!


 確かにオスの兄弟たちの中で、メスの家族は守るべき対象とさんざん言われてきたけど。

 兄弟だからじゃなくて、他のオスにもそういう保護欲をくすぐる対象なの?


「……私にはわからない」

「そのうちわかってしまうよ」


 森羅は少し複雑そう。


「その前に番としての結びを得ておきたいけどね」

「……えーと」

「番のメスに対してオスは、そうとう独占欲が強いんだ。相手のために存在しているというくらいに」


 雪花はその返答に困って、もごもごと話を戻す。 


「じゃあ人間としての私はどこがいいの?」


 獣としてしか見ていないのじゃないのかな。獣化できないけど。


「雪花の性根だよ」


 先程の性格のこと?


「そう、雪花は性根が真っ直ぐで意地悪なところがない。他者を陥れようとも、悪意を持って接することがない。そもそも悪意とは無縁だ。おごるもの、侮るもの、悪意を持って他者を害するもの、他者を選別し、上役にはおもねて、下位と識別したものを虐げるもの、そういうものと無縁だ」

 

 難しいけど、性格がほめられているんだよね。少し褒めすぎな気がする。


「わたしだって、苛ついたり……怒る時もあるよ」


 でも確かに、誰かを意地悪することは――ないかも。


「怒りは原動力になる。それを他者にぶつけずに、自分の足りない部分を満たす発起する力にすればいい」

「そこまでのエネルギーはないけど。でも、そんな立派な性格じゃないよ」

「雪花を見ていてわかるよ。性根の卑しさは顔の美醜に出る。人を虐げ雑言を浴びせている時、そのものの表情は卑しいだろ?」


 難しい言葉だけれど、イジメたり悪口を言ったりしているときって、その人の顔は醜いって言ってるんだよね。


 確かにどんなに美人でも、悪口言ってる時って嫌な顔しているよね。

 口元も歪んでいるし、嫌な雰囲気で目つきも悪い。


「他者を必ず上下に位分けするものもいる。そういうものは強者や上役におもねるときには声が踊り大きくなり、見下ろしたもの、弱者には冷たく意地の悪い声を作る。顔だけでなく、声や態度、見せるすべてで性根の悪さを露呈する」


 わざと悪口を言うときの人って、やたらに声が大きいよね。または声を潜めているように見せて、実は聞こえているのを意識しているし。ご機嫌取りをしている人の声ってやたらにテンション高いし。


 雪花がそう言うと、森羅が表情を険しくさせる。


「雪花はそういう目にあったのか?」

「……ないわけじゃないよ」


 両親がいなかったし、お兄ちゃんたちがカッコいいし、それに守られていたからか、妬みもなかったわけじゃないし。


 眉を潜めている森羅に雪花は笑ってみせた。


「でも苛められるってみんなあることだし。お兄ちゃんにも翔ちゃんにも守ってもらえたし」


 それってすごく稀で、贅沢なことだってわかってる。

 でも森羅はどことなく不機嫌だ。


「――正直に言うと、早くに出会えていたらと思うよ」

「でも過去のことだし――」

「そうだ。雪花にもっと早く出会えなかったことが悔しい」

 

 そんなことで?


「産まれた時に既に相手を見つける獣もいるんだ。俺は遅すぎるくらいかな。雪花に出会えたのは」


 森羅の熱を持った眼差しに落ち着かなくなる。慌てて言葉をつなぐ。


「でも、それがあったから今の私がいるんだよ。それで鍛えられたし! 嫌な人にならない、って誓ったよ。苛められて苛め返したら性格悪くなるし」


 そうだな、って森羅が笑う。


「怒りや、悪感情は弱いものに向けられる。自分が受けた痛みを、より弱いものに与える。そうならなかったのは、雪花が強かったからだ。愛情を受けて、心根が真っ直ぐに育った。だから見ていて楽しいし、そばにいて清々しい。他者に悪意を向けると、悪意を向けられる。益々、自分で自分を貶める。そして悪意のある仲間しか集まらない。負の循環だ」


 なんとなく、わかる気がする。嫌な人の周りって、嫌な取り巻きだらけだ。


「私、お兄ちゃん達に大事にされたから。だからこういう性格になったんだと思う。他人を苛めるなんて、考えたこともないし、したくもない」

「そうだ。兄君たちに感謝しているよ」

「うん、そう言われると嬉しい」


 雪花はそう言って、少し森羅から離れて改めて背後を見つめる。 


 ――ところで、背後には布団が二つ並んでおりますが。


 母上様との面談を思い出す。つがいの結び――結び……むすび、って。


(一応、まだ……未成年だよね)


 周囲の友達たちは性体験を済ませているけど、まだ心の準備ができていないよ!


 友人たちには、話を聞かせられている。


 初めての行為。

 とうとう迎えるのかと思ったけど、お兄ちゃん達と翔ちゃんには気づかれるだろうし、それに罪悪感を伴う。


 「許可を取る必要なんてない」って友人には言われたけど、そのあと「やっぱり取ったほうがいいかもね」と苦笑交じりに言われた。揉める前に、と。


 でも、絶対! 


 許 可 が 出 な い 気 が す る!


 ――どちらがいいか。


 済ませてしまって事後承諾する?


 外出禁止になって、相手に一生、会わせてもらえないかもしれないね、なんて友人たちに笑われた。


 下手すれば相手は半殺し、かも。

 

 でも、許可を言い出す前に、却下とされて相手を半殺しにされそう。


 森羅なら、半殺しにはされないだろうけど。


(……どうしよう、森羅にどう言えばいい!?)


 その動揺に気づいたのか、森羅は雪花を後ろから抱きしめてくる。胸が跳ねる。さりげなく逃げたのに、むしろ固められてしまった。


 森羅が雪花の首筋をスンと匂いを嗅いだまま囁く。


「手はださないよ、兄君たちと約束したし。雪花からまだ返事は貰っていない」

「返事……」

「伴侶になる、という誓約だよ。それがつがいの結び」


 行為のことじゃなかったんだ、ちょっと肩の力が抜けた。


「それって、結婚式での誓い?」

「雪花、こちらを見て」


 森羅は雪花を離してこちらを向かせる。

 そして雪花の両頬をそっと触れて、じっと見てくる。


メスが、オスに対して“伴侶になる”そう言葉にして結ばれて、初めて番になるんだ。その前に結ばれてはいけないし、その言葉は重要なんだ」

「――ないと子どもができないってこと?」

「ちがうんだ。ただ伴侶にはなれない、永遠の番には選べない」


 よくわからない。結婚の時の誓いの言葉とどう違うのだ。


「その言葉は生涯ただ一度だけ。その誓いは絶対。魂に刻まれる、だから伴侶というんだ。人間の儀式は表在的なものであり対外的なもの。俺達のは、内面の誓いであり、精神の結びつき。そのあとに肉体の結びつき、ということになるのかな。もちろん肉体的な結びつきでも子は成せるけど」


 すごく重いようなシビアなような、でもリアルのような。


 お布団を目の前に、そんな話をされましても。


(……子作りの話をされているとしか思えない)


「理屈でわかるものじゃないから。そうだね、雪花は俺に任せてくれればいいよ」


 ええと。……性行為するんじゃないよね。


 そういうシチュエーションの時に出てくる言葉のような気がするけど、絶対違うよね。一人でドキドキしていたら、ちょっと、お腹の下が熱くなってきた。


 うう、森羅にすり寄りたい。


「雪花。――今興奮してる?」

「してな……わかんない」


 正直に言える勇気がない。言わせないで、聞かないで。


「ごめん。匂いでわかるけど。言わせたい」


 微笑みながら言うのって、Sですか?


「言って」


 精悍な顔なのに、小首をかしげて可愛らしく強制してくるって、意地悪かも? 


 でも、どうしよう、どんどん身体が熱くなってくる。


「――してる」


 うつむいて言ったら、ぎゅって抱きしめられる。

 恥ずかしいし、言わせられて、じわりとお腹の下に熱が集まる。期待して身を捩ってしまう。


「ごめん。言わせるのは、今回はここまで」

「今回って……」

「うん。だから、我慢して」


 我慢って、我慢って……私がするもの!?


「だんだんと、ね。言葉も身体も、俺に馴染んで」


 その台詞に動揺する心と裏腹に、身体はむしろ積極的に喜んでいるみたい。これって、自分の獣の性?


「うーん。雪花の人間としての嗜癖じゃないかな」


 ちょっと待って。


「俺も楽しいよ。これからもっと楽みだな」


 ちょっと待って! 

 まだ私はそういう趣味とは認めてない。でもそう言われてますますドキドキするのは、バレている。


 心臓の音もうるさいし、身体も熱いし、息も乱れているし、でもどうしよう。

 森羅は不意に、眼差しを真摯に変えて提案する。


「寝るのに姿を変えようか?」


 抱きしめられている、今とってもドキドキとして――多分興奮している。

 狼の姿のほうが、この胸の高まり――性的な欲求は押さえられる気もする、けど。


 雪花は首をふった。森羅の胸に触れたい。肌に触れたい。


「……このままがいい」


 彼は雪花が抱き着いても支えてくれる。巨躯じゃない、でも彼の鍛えられた鋼のような胸も腕も胸も、雪花ぐらいの身体はやすやすと支えて、揺るがない。


「じゃあ、このまま寝よう」


 森羅が雪花を抱いたまま横になり、電気を消す。布団が掛けられる。


「平気なの?」


 雪花に我慢を強いたけど、彼こそ男として大丈夫?でも、はっきりきくことは、まだ未成年の雪花には難しい。


「自制するよ。雪花がその気になって、兄君たちの許可をもらえるまで」


 でもこれくらいはね。

 そう言って森羅は雪花の頬にキスをして、こめかみにもキスをして、そして耳をゆっくり食んだ。先程より少しだけ歯を立てて。


 そうされたら、先ほどみたいに足の間に熱が集まる。それを気づいたみたいに森羅が足を絡めてきた。うう、自分のほうが我慢できないような気がする。


 雪花はされるままにされて、そして森羅の胸に頬を摺り寄せながら眠りについた。


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