21.かわいらしさは認めます
目が覚めたら視界がかわっていました。森羅はいない、布団の中に雪花一人。
けれど、その布団が、布団が。
何が起きたの。この世界、何。
ようやく布団というか、布の海でおぼれ死ぬかもって思い、もがくように布から抜け出すと、広大な平野――いや畳。
えええ、ここどこ!?
見上げると、黒い塔は机の脚。視界が低い、どころかすべてが大きい。
アリス・イン・ワンダーランド!
『EAT ME』
”私を食べて”というお菓子を思いだす。
私、ここで夕食はいただいたけど、そのせい!?
それとも
『DRINK ME』
”私を飲んで”だっけ?
どっちでアリスは小さくなったのか。
よろよろと歩く。全然うまく歩けない。生まれたての小鹿ちゃんのように、足がプルプルするよ!
そう、身体も変だ。
私、四つ足!? そもそも目の前の手が変。毛が生えている!! 爪も生えている。
バンビちゃん!? いや、足先は蹄じゃない、二つに割れてもいない。
生まれたてのバンビちゃんの足は見たことないけど、なんだか違うと思う。
驚愕して歩こうとしてもうまく歩けない。
(……だれか、たすけて)
さけぶと、“にー”という頼りない小さな鳴き声が響いた。
どこかでかわいそうな小さな獣が鳴いているのかなって――私!?
“にー”、“にー”という声しか出ない……。
そしてふすまが開かれたような大きな音がして、それが息をのんだ気がした。やけに大きな影、森羅だって思ったとたん、それが覆いかぶさってきた。
やけに大きな森羅の顔。それは、人間の顔。そして包み込んできたのは彼の手。そう、私は彼の片手に収まるほどの大きさになっていたのだ。
彼はしばし考えて「待ってて」とささやいて、それから席を外す。
(どうして、どこにいっちゃうのーーーー!!)
“にーーー”
先ほどよりは、強い声で鳴きだすと彼が慌てたようにもどってくる。
「ごめん。もう、不安にさせないから」
もう大丈夫だよ、と彼は優しく囁いて、まるで壊れやすい卵を扱うかのように、広げたタオルの中に私をくるんで両手で抱き上げた。
“なー”
先ほどより低い声で訴えると、彼は両手で抱き上げて、ゆっくり部屋を移動する。そして、鏡台の鏡掛をさっとめくると、正面に向き合う。
森羅の腕の中にいたのは、小さな小さな生き物。
真っ白なふわふわの毛、爪よりも小さな鼻はうっすらと桃色、そして毛にうずもれるように小さな耳は三角で、その内側も桃色。
私が一歩身を乗り出すと、森羅がより鏡に近づいてくれる。手を出すと、その手も先までが綿毛のようで、小さなとがった爪が覗いていた。
(これってーーにゃんこーー!!!?)
――私は、子猫になっていた。




