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須之内写真館  作者: 大橋むつお
34/50

35・成人式の写真・3

須之内写真館・35

『成人式の写真・3』        



 成人の日の最後の客は歳の離れた親子連れだった。


 五十代後半の母親と新成人の娘だ。

「お客さんが最後です。しっかり撮らせていただきます」

 父の玄一は、ニッコリと微笑んで、スタジオの指定のポジションに案内した。

「修正は、いっさい無しで宜しいんですね?」

 直美が確認し。娘が頷くと、直美は玄蔵ジイチャンと二人で照明の調整をした。

 今年は、コンピューターの修正やら、痛衣装処理が評判でだいぶ稼いだ。だが、やっぱり写真の本道は、ありのままの姿を照明や撮影技術で撮るものであると考える須之内写真館の親子三代は、ホッとする思いだった。


 ファインダーを覗く玄蔵ジイチャンは、一瞬目眩を感じた。


「大丈夫かい、父さん?」

 レフ板を調整していた、玄一が寄った。

「ああ、大丈夫だ。娘さんがあまりに美しいんで、年甲斐もなくクラっときた」

「ホホホ、どうしましょう」

 母親が、その場を取り繕うように笑った。


 玄蔵ジイチャンは目眩の間に、なにか会話をしたような気になっていたが、瞬間で忘れた。


 ただ、この娘は昔見たような気がしていた。

――母親の成人の時か……いや、もっと昔。四十年はたつ――

 そんな思いだったが、忘れてしまい、シャッターを切った。


 レジで勘定をを済ませると、母娘は礼を言い店を出ようとした。

 そこに、一組前の父子が入ってきた。


「よかった、まだおいでになった!」

 父が額の汗を拭った。

「私どもになにか?」

 母親がいぶかった。

「これと意見が一致しまして。こいつの友だちにはなって頂けませんでしょうか」

「ぜひ、お願いします。貴女を観て、その……運命を感じてしまったんです」

 息子は、新成人に似合わず、しっかりした口ぶりで言った。「運命」という言葉に母娘は狼狽を隠せなかった。


「運命という言葉を使われた以上、お答えしなければなりません……お母さん」

 そう言って母親が娘に向いた。


 直美は聞き違いかと思った。母親が娘に「お母さん」と呼んだのだ。


「実は、わたしが祖母で、この一見母親に見えるのが娘です。わたしは、あることで神の罰を受けています。わたしの実年齢は八十歳です。今から六十年前に、この須之内写真館で成人の記念写真を撮りました……」


――ああ、親父の見本帳の中にあった写真の娘さんだ――


 玄蔵は思い出したが、体が金縛りに遭ったように動かない。玄一と直美も同じようで、目玉だけが動いていた。


「六十歳で神さまのバチにあたり、それ以来、わたしは一年に三歳ずつ若返って、今日とうとう二十歳に戻ってしまいました。あと六年あまりで、わたしは消滅します。神さまはお命じになりました。二十歳になったら、この須之内写真館で記念写真を撮れと。そして『運命』という言葉で近づいて来た人には、その場で真実を語らなければならないと……」


 八十歳の新成人は、目を潤ませて、苦しげに、信じられない事実を語った。


「……良かった。わたしも同じ罰を受けているんです。僕も六十から若返り、この歳になってしまいました。僕は美濃部写真館で撮ったんですが、廃業されて、もうありません。そこで息子と相談して、ここに来たんです。神さまは言われました、写真館で運命を感じた女性に声を掛けよと……それが、貴女です」


 須之内写真館の者たちの記憶は、そこで途切れている。二人が出来上がった写真を取りに来ることはなかった。


 直美は思った。あの二人は日本のある時代の罪を負わされ、それがようやく許されたのではないかと。どんな罪か……。


 ネットで検索すると、二人の同名の著名人が二十年前に、忽然と世間から姿を消したことに気づいた。


 二人の写真はサンプル写真として、ショーウィンドウに飾られた。

 二人が、これで罪を許され、また順調に歳を重ねていったかどうかは不明である……。



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