13 金髪の生徒会長
授業は名門校だけあってどれも難しかった。
理系科目は俺達の物と内容はさほど変わらなくて助かったが、レベルは元の学校より1段階ぐらい上だった。あの学校も悪くはないはずなんだがな。逆に文系科目は知らない固有名詞が出まくり。まあ、こっちは覚えればいいだけなんだけど、量を考えると大変そうだ。
「はぁ」
溜息を吐きつつ三柴セイジの方を見てみる。言われてみれば不自然だった。
最前列で一人だけ飛び出た感じで座っている。彼の横列には生徒は他におらず、教壇がある位置とほぼ同じ。あそこから反対側の黒板は見えるのか? 入口の前でもあるから通るとき邪魔なんだよなあ。
確かにあそこには机がない方が自然だな。
でも、俺は今日貰ったクラス名簿を見てみる。こっちにはちゃんと三柴セイジの名前は載っていた。
授業中だから、それを静かに、隣の百合乃の机に移動させ、彼の名前の所を指でとんとんと示す。それに対して百合乃は頭を横に振るだけだった。
次の授業までの待ち時間にゲンキにも聞いてみる。
「三柴セイジについて聞きたいことがあるんだが」
「セイジ? なんで? ま、まさか、イクトっちそっちの趣味があるの!?」
「ねーよ! てか、大きい声はやめろ」
「まあ、確かにあいつは男の癖に妙な色気があったりするからな」
ゲンキが何故か難しそうな顔をして納得している。変な誤解はよしてくれ。
小声で話しを続ける。
「単にあいつの机だけ変なとこにあるから気になっただけだよ」
「言われてみればなんか変なような、そうでもないような」
「いつからこの学校にいるんだ?」
「うーん、あいつは確か高等部からだったと思うけど」
「長い間、休学してたんだ?」
「はっ? してないはずだけど」
訝しげにこっちを見てくる。
隣から「はぁ」という溜息が聞こえてきた。溜息吐きたいのはこっちだよ! 絶対変な誤解解けてないよ、これ!
やけくそ気味に三柴セイジの方を見てみると、斜め後ろの女の子と話をしていた。
「もう、セイジ君ったらいい加減、敬語はやめてよー」
「はは、こっちの方が落ち着くんですよ」
「1年の時に初めて喋ったら敬語で私驚いたんだからねー」
「そういえば、1年の時も同じクラスでしたね」
1年の時ね……。やっぱり、百合乃が持っていたクラス名簿はただのミスだったんじゃないのか? でも、百合乃の記憶とも齟齬があるのか。
うーん、と一人悩んでいると、ゲンキが俺の肩に右手を置いてきた。
「なに?」
「応援してるからな」
「だから、ちげーよ!」
放課後になると、三柴セイジが部屋から出るのを確認してから、俺と百合乃も出る。
しかし、三柴は廊下の所で声を掛けられて立ち話をしていた。仕方ないので俺達も窓の外を見ながら待つことにする。百合乃が転校生の俺に外の建物等を紹介している体で。
「あいつって部活とかやってるのかな? やってたら待たないといけないし、ちょっと面倒だな」
「友達に聞いたらやってないって」
「ナイス。ちなみに、友達にそのこと聞いて俺みたいに誤解されなかったか?」
「それなら大丈夫」
「なら良かった」
噂でも百合乃が他の男のことが好きなんて話、聞きたくないもんな。
「その友達もあなたのこと応援してるよって言ってた」
「百合乃さん!?」
「私が言ったわけじゃないよ? さっきのあなたと広瀬君のやりとり見てたみたいで」
もう、おしめぇだ。俺の新たな学園生活は1日にして終わっちまったよ。
俺が頭を抱えていると、こちらに人がやってくる気配がして顔を上げる。
廊下がざわついている。ひと際目立つ男だ。
長身で金髪の二枚目。切れ長の目は鋭く、冷徹そうな雰囲気があった。
先輩と呼んでいる人がいたから3年生か。
黄色い声が響く。あー、嫌な流れだねぇ。
「生徒会長さん。昼休みに今日は用事があるって言っといたんだけど……」
百合乃がぼそっと俺に耳打ちする。あー、全く嫌な流れだ。
生徒会長は俺達の前まで来ると、俺を一瞥した後、百合乃に話し掛けた。
「百合乃、今日の会議には来れないと聞いたがどういうことだ」
くー、下の名前で呼びやがった。しかも、偉そうな態度だな。
「すいません。今日はこれからちょっと用事があって」
「用事だと? 数日前にも言った通り、今日は重要な会議があるんだ。それをキャンセルする程の大事な用事なんだろうな?」
「転校生の従姉弟を、今からサンケ市に案内しようと思っていて……」
百合乃がちらっと俺を見る。それとともに、生徒会長も俺のことを見てくる。どう見ても友好的には見えない目で。一応、挨拶はしておくべきか。
「あ、どうも。百合乃の従姉弟の鈴野行人です。2年です」
「ふん」
鼻で笑われる。
あー、さすがの俺でもこいつは無理だわ。
「子供じゃないんだから、街探索など一人で出来るだろ?」
三柴には通用した案内という言い訳は傍若無人の王様にはダメみたいですぞ。まあ、街案内じゃ今回は弱いよな。嘘つくならもっとマシなの考えようぜ。
というか、魔王の手下に襲われたときにこいつ居たなら、正直に言っちゃっても良いと思うんだが。言わないってことはダメっぽいな。春宮の時のこともあるし、ここは2週間先輩の判断に任せといた方がいいか。
「俺が誰なのか分かっているのか?」
似たような台詞を今日既に1回聞いてます……。
権力を笠に着るタイプか。
俺のせいで無駄な時間を過ごしているとでも思っているのか、俺に対しての不快感を隠そうともしない。
「御三家の人とかですかね? いやあ、まさかなー」
「冬見家の次期当主、冬見レオだ。知っての通り、冬見家は今や御三家で一番の存在となっている。この私と話せたことを光栄に思うが良い」
「わー、うれしいなー」
で、でたー。高校生同士の自己紹介で次期当主とか言っちゃう奴だー。本日二人目。
しかし、春宮ヒマリにしろ冬見レオにしろ、御三家にはろくな奴がいないんだが。
「1時間ほどで終わる。とにかく人手が必要なんだ」
「それなら、分かりました」
行くのか。
ん?
冬見レオが俺達の教室の中を見て、険しい表情をしていることに気付く。
「ちっ。愚弟が」
そう忌々しげに呟くと踵を返し、さっさと行ってしまった。
それを横目で見ながら百合乃が俺に顔を近付けて、耳元で囁いてくる。ドキっとする。いい香りがした。
「ごめん。1時間で戻るから先に行ってて」
「しょうがねえなあ」
「定期的に自分のいる場所をメールで送って。私が合流するまで絶対に手は出さないこと」
「分かったよ」
ちょっと悔しかった。
「あんな奴とお前が一緒にいると思うとなんか嫌だなあ」
百合乃に驚いた顔をされる。そりゃそうだ。彼氏気取りかよ。
「なに言ってるの……。生徒会から得られる情報は必要だと思うから無下にできないよ。推薦してくれた千木良先生にも悪いし。あなたが居なかったり、信頼出来なかったら生徒会辞めてでも行くしかなかったけど」
「そうだな。俺も百合乃の判断を信頼する。まあ、任せてくれって」
「絶対、無茶しないでね」
百合乃が俺の手を力強く握ってきて、心配そうな顔でそう言う。手を握られたことに今度は俺が驚かされたが、彼女は恐らく無意識でやったんだろうと思った。よし、頑張るぞ。
だが、さっきまで三柴セイジが立ち話していた場所を見ると、既に誰もいなかった。
「やべ」
慌てて飛び出す。幸いなことに三柴も立ち去ったばかりだったのか、校門辺りで歩いている彼を発見した。そのまま悟られないよう、後を付いていく。
三柴セイジが向かう先は俺が住んでいる方角とは真逆だった。トーキョー市方面と言ったらいいのか。
ある程度進んだ所で、携帯で位置情報を取得して百合乃に送る。こっちの携帯は俺達の世界の携帯やスマホと少し違ったが、だいたい感覚的に操作することが出来た。
人生初めての尾行は思った以上に大変だった。三柴にばれてはいけないだけでなく、周りの人からも不審に思われないようにしないと。そういう意味では携帯の存在はありがたい。変な所で立ち止まっても携帯さえいじっていれば不自然さはなかった。
校門から出てもう30分ぐらい歩いただろうか。まだ、目的地に着かないのか。
閑静な住宅街を抜け、気付いたら結構寂しい所に来ていた。近くに大きな公園があるらしく、景観のためにその周辺も、自然が広範囲で保全されているようだ。
交差点の赤信号で三柴が立ち止まる。車なんて1台も通ってなかったが、信号はちゃんと守るらしい。
俺もこれ幸いとばかりに自販機の影で一休みする。ペットボトルのお茶を飲み、百合乃に自分のいる場所を教えようと携帯を取り出す。
影が濃くなる。え?
「やあ、鈴野君じゃないですか」
三柴セイジが満面の笑みで立っていた。




