第16話 聖女クララ・ド・ベルモン登場
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第16話 聖女クララ・ド・ベルモン登場
長い夏休みが終わり、新学期が始まった。
始業式の朝。
講堂には全校生徒が集まり、学院長が壇上へ立つ。
「皆さん、おはようございます。」
「この夏休みも、それぞれ有意義に過ごしたことと思います。」
学院長の長い話が始まる。
私は静かに聞きながら、心の中で計算していた。
薬草採取で百万リル……。
お父様もお母様も、とても喜んでくださいましたわ。
今年一番の大収穫でしたわね。
そんなことを考えていると、学院長が咳払いをした。
「そして本日は。」
「皆さんへ紹介したい方がおります。」
講堂がざわめく。
「紹介?」
「誰だ?」
「編入生かな?」
学院長が微笑んだ。
「どうぞ、お入りください。」
静かに扉が開く。
そこから、一人の少女がゆっくりと姿を現した。
腰まで届く淡い金色の髪。
澄んだ青碧色の瞳。
私の目の前にいるこの少女こそ――
クララ・ド・ベルモン。
4年生、17歳。
ベルモン侯爵家の令嬢。
優雅に一礼すると、柔らかな笑みを浮かべた。
「はじめまして。」
その瞬間。
講堂中がどよめいた。
「聖女様だ!」
「本物の聖女だぞ!」
「すごい!」
「あのクララ様が学院へ!」
私は思わず隣の生徒へ尋ねる。
「そんなに有名な方なんですの?」
女子生徒は興奮した様子で頷いた。
「知らないの!?」
「王国中で一番有名な聖女様よ!」
別の男子生徒も話へ加わる。
「神殿で治療活動をしたり、孤児院へ寄付したり。」
「毎年、慈善活動もされてるんだ。」
「しかも侯爵家のお嬢様だぞ。」
「人格も実力も完璧って有名なんだ。」
学院長は続けて説明した。
「彼女は特待生クラスに入る。この学院で3人目のグランベルカード所持者となる。」
私は固まった。
「 ………… 」
思わずクララ様を見る。
グランベルカード所持者……。
アルベルト様やキリル王子と同じ、グランベルカードを毎月受け取る方が増えたのですね!
私の瞳が、きらりと輝いた。
ぜひ一度、お話を伺いたいですわ……!
◇
始業式が終わる。
廊下へ出た私は、まだぼんやりと考えていた。
3枚目のグランベルカード……。
全部欲しいですわぁ……。
その時だった。
「エヴァンス嬢。」
聞き慣れた声がした。
振り向くと、アルベルト様が静かに立っている。
その隣では、キリル王子が元気いっぱいに手を振っていた。
「セレナ!」
「久しぶりだな!」
「夏休み以来だ!」
私は思わず笑顔になる。
「お久しぶりです……。」
「3人目のグランベルカード所持者が現れましたの!」
キリル王子も呆れたように笑った。
「また、その話か?」
「すっげぇ執着だな。」
私は真剣な顔で頷く。
「当然ですわ。」
「あれほど素晴らしいカードはありませんもの。」
アルベルト様とキリル王子は顔を見合わせる。
夏休み明け、久しぶりの再会だったが、
私は相変わらず、グランベルカードのことで頭がいっぱいだった。
◇
その頃。
学院長室。
学院長は腕を組み、深いため息をついた。
「建校以来、初めてだ。」
「グランベルカード所持者が三名。」
机の上には資料が並んでいる。
「クララ・ド・ベルモン。」
「アルベルト・フォン・グラナート。」
「キリル・ロストフ。」
「現行制度では対応できません。」
向かいに座るマックス先生が頷く。
「グランベルカード所持者が三名となれば、赤面決闘の参加者が急増するでしょう。」
「このままでは、通常の魔導決闘の機会も減りますし、学費免除者が毎月複数人出る可能性があります。」
学院長は静かに頷いた。
「制度を改正しよう。」
◇
生徒会室。
アルベルト様は窓の外を見つめていた。
「……エヴァンス嬢は落胆するだろう。」
ライナーさんは静かに頷く。
「ですが。」
「避けられない決定でございます。」
「……ああ。」
アルベルト様は小さく目を閉じた。
◇
その日の昼休み。
学院中へ放送が流れた。
『全校生徒へ連絡します。』
『決闘制度の一部改正を発表します。』
マックス先生の声だ。
私は足を止める。
『本日より、赤面決闘は連続して行えません。』
『赤面決闘の次は、必ず魔導決闘を挟むものとします。』
周囲がざわついた。
「え?」
「ルール変更?」
私は真剣な顔で続きを聞く。
『さらに魔導決闘は、自分より順位が上の相手にのみ挑戦可能とします。』
『以上です。』
放送が終わる。
私の脳内では先ほどの放送が何度も繰り返し再生されていた。
「 ………… 」
「 ………… 」
「 ………… 」
頭の中で必死に整理する。
赤面決闘。
魔導決闘。
順位。
そして。
「 ………… 」
私は勢いよく顔を上げた。
「どういうことですのーーーーっ!!」
廊下中へ叫び声が響く。
「このルールでは赤面決闘ができませんっ!!」
周囲の生徒たちが一斉に振り向く。
「これは完全に封じにきていますわ!!」
私は頭を抱える。
「これではグランベルカードへの道が遠のいてしまいます、なんとかしなくては!」
生徒たちはぽかんと口を開けていた。
「そこなのか……。」
「やっぱりセレナだな。」
私はそんな声も耳に入らない。
ぎゅっと拳を握る。
「こうなったら!」
勢いよく駆け出した。
「アルベルト様に直談判ですわーーーっ!!」
ダダダダダダッ!!
一直線に生徒会室へ向かって走り出す。
廊下には、セレナの力強い足音だけがいつまでも響いていた。
【聖女、現る(前編)・1】
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