55話
見慣れた天井。
ここは……もう二度と戻りたくないと思っていた物置部屋。
ここに来ると過去を思い出した。
そして「うえっ」と吐き気が。
継母のご機嫌を損ねるとこの部屋に連れてこられた。でも父は知らなかったはず。だって父の居ない時を狙ってここに入れられていたから。
ああ、日記。日記を渡したんだった。
だからここに私を連れてきたんだ。
ここがどれだけカビ臭くて埃がひどくて光の入らない……何時間もいるのが辛い場所だと日記に書いていたから。
あの頃の娘の辛さを書いた日記を読んでここに入れようと思ったんだ。あの人は……そんなひとだよね。
継母がしてたのではなくあの人の指示だったのかもしれない。
なのに「私」の辛かった日々を、義母達のしてきたことを知って欲しいと、少しは反省してくれるかもなんて愚かにも期待していた。
日記はどうなったのかな……
『馬鹿な女だ』お母様のことをそう言い捨てた侯爵。
許せない。
また吐き気が。
床に転がされていた私は気持ち悪さに汚れた床から立ち上がれない。
リュシアンに会いたい。
リュシアンは今頃どうしているのかな。
突然姿を消した私を公爵家のみんなはどう思っているかしら?
私が連れ去られたことに気がつく?
それとも侯爵家から逃れるために一人姿を消したと思う?
あの侯爵のことだから私のことなど知らぬ存ぜぬで押し通すだろう。
この物置部屋は隠された場所にあるから公爵家の力で捜索しても簡単には見つからない。
ううん、そんなこと勝手に出来るわけない。いくら公爵家の方が上でも。何かきちんと理由がなければ。
私を連れ去ったと分かれば……でも、多分あの侯爵は、ううん、父は私が自分の意思で帰ってきたと主張するだろう。
リュシアンを捨てて、侯爵家を選んだと。
伯父様達は信じはしないと思う。
でも……
『これをお願いします』
目覚めてしばらくしてから見慣れない執事らしき40代の男性が侯爵家の書類の山を持ってきた。
薄暗い部屋にランプの灯りを灯し、書類に目を通す。
結婚前に毎日していた仕事がまた回ってきた。
でも顔を出すのはこの執事と交代で食事を持ってきてくれるメイドの若い女の子が二人だけで他の人の顔は全く見ていない。
この部屋に軟禁されてただ仕事をするだけの毎日が過ぎて行った。
今日は何日なんだろう。
外が見えず時間もわからない。
ただ、山積みになっている仕事を淡々とこなしていくしか時間を潰すことができない。
リュシアンに会いたい。
「私をここから出していただけませんか?仕事ならやります。ですから息子に会わせてください……せめて一目だけでも、お願いします」
顔を出すたびに執事にお願いした。でも一度も彼は声を発することはなく時間は過ぎていく。




