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裏切りにくい味方探し ー2ー

 競売のおこなわれる日。


 悪い意味で引くほど有名人のため一応ローブをかぶって家を出た。


 巫家の邸宅は少し街から離れた場所にあるため街まで行くのにも時間が掛かる。


 一旦街まで出て時間がありそうだったので少しだけ観光をした。


 外にはアンチしかいないから家から出ることってすごく億劫なのだ。

 それに公爵家ってだけあって、必要なものは基本的に家の中にあったし。

 なのでたまの外出は思いっきり楽しみたい所存である。


 街は活気づいており、そこかしこから元気な声が聞こえてくる。

 治安も悪くない。いい街だ。


 少し太陽が傾き始めた頃にある程度目星をつけていた路地に入った。

 

 原作の作り込みに感謝しながら迷いなく道を進む。


 作者のこだわりで何かあるたびにスチルが入っていたためとても場所は割り出しやすい。


 街の人通りの少ない路地の奥にある競売場のすぐ近く。

 その路地を抜けた先にある石橋。

 月明かりが下を流れる川を反射し水面に月を映し出す。

 人通りは少なく、警備の巡回の目も行き届かない。


 そもそも街中の水路はそれほど多くない。

 そして月は水路のど真ん中、橋から綺麗に見える位置に映っていた。


 確証はないが、確かな自信を持って一つの橋の上で足を止めローブを脱ぐ。

 顔が分からない相手は必要以上に警戒しちゃうかもしれないからね。

 歩き続けてパンパンな足を休めるため欄干に腰を掛け時が来るの待つ。


 今、何時だろう?


 時計を持っていないため時間の感覚がわからない。

 太陽が真上のくらいの時間に出てきた筈だが、今はもう月が真上。

 十二時間は過ぎていると思っていいだろう。


 よくよく考えると公爵家の娘が護衛も連れずに夜間外出って結構やばいよな……まあ今更か。


 この辺りには明かりが無いため月明かりだけが周りを照らす。


 月明かりだけでもなかなかよく見える、今日が満月でよかった。

 これからどれだけ待つのやら……私が分かるのは夜中に起こったということだけだ。


 すると突然爆発音が響いた。


 音の方を確認しヒョイと欄干から降り、たまたまここにいました。といった風に橋から月を眺める。


 たくさんの足音が響き渡り、その足音はどんどん近づいてくる。


 足音のする方に目を向けると、一人の少年が恐ろしい形相でこちらに駆けてくるのが見えた。


 ――ビンゴ。


 「近づくな! 近づいたらこいつを刺し殺すぞっ!」


 リアンは私の首をぐいっと引っ張ると、子供とは思えない程の形相で首元にナイフを突きつけた。


 よしよし、まずは接触成功。

 今回の目的はこの子を家に連れ帰ること。死なずにリアンを家に連れて帰れれば私の勝ちだ。


 すぐにリアンを追いかけていた人たちが集まり始めた。

 みんな私という人質がいるという状況に動揺し、その輪が広がる。


 ……動かないんだ。まあ、腐っても公爵家の一人娘ってことかな。さて、と……。


「ねえ、あなたはこれからどうするの?」


 彼の方を見ずに彼に聞こえるように話しかける。


 リアンはあの作品の中でもトップクラスの理性的なキャラクターだ。

 感情に任せて切りつけてはこないだろう。


「ここで私を殺して逃げるの? とても現実的とは思えないけど」


 その言葉に彼の腕にギュッと力が入った。


「……もし、もしも貴方に行くところがないのなら私の元にこない?」


 ずっと周りを取り囲む大人たちを見ていた視線を上げて彼を見た。

 彼の瞳は大きく見開かれている。 


「私を殺すよりずっと建設的だと思うよ?」


 周りがざわつくが気にせず彼の様子を伺う。


「――馬鹿にするなっ!!」


 突然彼は表情を歪め叫ぶように大きく声を張り上げた。

 彼のナイフを持っている腕がカタカタと揺れ、首に小さな痛みが走る。


「俺の家は、俺は……奴隷じゃない! 俺はっ……!」

「――じゃあ、今のあなたに何が出来るの?」


 怒りで興奮している彼に淡々と告げる。

 今の状況を忘れていたのか彼はハッと周りを見た。

 たくさんの武装した大人に取り囲まれ逃げるのはどう考えても絶望的だ。


「何が、目的だ……」


 リアンは絞り出すように声を出し、キッと様々な感情をごちゃ混ぜにしたような瞳で私を睨み付ける。


「……私はただ、あなた程の力の持ち主がこんな所で埋もれるなんて勿体ないと思っただけ」


 本心だ。彼はこの先強くなる。私はそれを知っている。


「――そうやって、俺を飼い殺すつもりだろっ!!」


 ……あぁ、そうだ……今はまだ子供なんだ。


 彼の行動をゲームの時の彼だと思って考えていたけど、まだ幼い。


「……どうせ飼われるなら、ある程度自由があるところがいいでしょう?」


 そう告げるとリアンは一瞬目を見開き手を離した。

 ジッと品定めするように私を見るリアンを見つめ返し手を差し出す。


「どう? 私とこない?」


 決して目をそらさず、真っ直ぐリアンの瞳を見つけ続ける。

 何分も見つめ合ってようやく心の整理がついたのかおずおずと手が重ねられた。


「これからよろしくね」

「……よろしく頼む」 


 話しがひと段落ついて周りを見回すと様子を窺っていた公爵が近づいてくるのが見えた。

 目に見えてリアンが警戒したため彼を庇うように公爵の前に歩み出る。


「……この国で奴隷の売買は禁止されている」


 公爵の口から重々しくそんな言葉が出てくる。


「買ったのでなく拾ったのです」


 何か言おうとする公爵の言葉を遮って続ける。


「お言葉ですが公爵様。貴方は道端で拾った犬を奴隷だといって禁止なさるのですか?」


 暴論だという自覚はあるが自分で家に連れて帰るまでが今日の重要事項だ。


 それでもなお何かを言おうとする公爵に騎士団の一人が声をかける。


「公爵様。とりあえず今はお嬢様の手当てが先かと」


 その言葉で自分の首に結構な怪我が出来ていることを思い出した。


 思わず手が首に伸びる。


 しかしその手をリアンが掴み止めた。


「あまり、触らない方がよい、かと……」

「それもそうね。ありがとう」


 お礼を言うと、リアンは小さく頭を下げた。


「お嬢様、失礼いたします」


 横から手が伸びてきて首に薬が塗られ包帯が巻かれる。


「さあ、帰りましょうか。これからのあなたの家に」


 手当が終わりもう一度手を差し出した。


「……はい」


 リアンはためらいがちに私の手に自分の手を重ねた。


 いつか、この少年が迷いなく私の手を掴めるようになる日がくるといいな。


 それはきっと私たちの信頼の証になる。


 ――なんて、決してありえないのだけどね。

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