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きっかけは些細なもので ー1-

「――貴族交流会?」


 いつも通り食事の後に突然話題を振ってくる公爵に思わず聞き返した。

 

「そうだ、お前も同年代の友達がいた方が良いと思うのだが……」

「出来るのならとっくの昔に出来てます。十二歳まで出来ていないという時点でお察しだと思いますが」


 珀に代わってこの世界と戦い始めてはや四


 ただ私自身が高スペックになっていくだけで、周りとの関係が変わったかと言われると全然そうじゃない。


 どこに行っても、目の敵にしてくる人がいるわけで。

 どこに行っても、レスバトルを仕掛けてくる人がいるという。


 さすがに全部無視してはいるが、そろそろ出るものが出そうだ。


「っ……! お前は友達が欲しくないのか?」

「欲しいか欲しくないかという話をするのであれば欲しいですよ」

「それなら……」

「ですが、必要があるとは思えません」


 常々思っている事だが懐に入れた人の裏切りが一番怖い。

 つまり、懐には誰も入れないことが正解だと思っている。


「なっ、なぜ……」

「不必要だからです」


 一言で切り捨てると公爵はわかりやすく肩を落とした。


 ……しかし、舞踏会ではなく貴族交流会という場を進めてくるのは初めてだな。


「……貴族交流会とはどのようなものですか?」


 少し気になって聞き返すと、公爵は落としていた肩を上げた。


「地域と地域で交流する会のことだ」

「地域交流がメインの場ということですか?」

「そうだ。今回は西(ウェスタン)(イースタン)で交流する」


 西か……西と交流したところで人脈が増えるとは思えないけど。

 いやでも、いかに人脈が広がりにくくとも市場調査は大事だよな。

 

「いいでしょう。参加させていただきます」


 友達や知り合いは出来ずとも、東と西の関係値や東の子たちの交友関係なんかは掴んでおいて損はないだろう。

 


 *



 ――相変わらずアウェイな場所だ。


 交流会の行われる庭に着くと、相変わらずの陰口大会が開催された。

 うんうん、もはや様式美。


 感動してしまうほど貴族の子どもたちの成長は皆無のようだ。


 とはいえ、どれほど目の敵にされようと何とも思わない。

 この数年間で完全に慣れた。


 庭の端に陣取り、ゆっくりと全体を見渡す。


 地域同士の交流会という話だったが基本的に同じ地域の同じような地位で固まっているようだ。

 

 子どもたちがみんなシャイなのか。

 それとも、東と西の関係が微妙なのか……。


 「――おいっ! 見ろよこいつ!」

 

 突然大きな声が庭中に響き渡った。


 一体、何の騒ぎだ?


 初めての事態に声の方向へ歩き出す。


 いつなん時いかなる場合でも基本的に悪意に晒されるのは珀だ。

 だって珀にはウザ絡みが出来る要素が無駄に豊富にそろっている。


 だからこそ、今回の珀ではない誰かが悪意の標的にされている現場に立ち会うのは初めてだった。


 声のした方向に行くと、いかにもなやんちゃ坊主どもが大人しそうな女の子を囲っていた。


「――お前も悪魔の仲間なんだろっ!」


 ……ああ、そういう事。

 

 トップの悪評はその下につく者たちにも影響を与える。


「ちっ、ちが……っ!」

「白い蛇なんか庇って、気持ち悪いんだよっ!」

 

 囲まれているあの女の子は珀の悪評の飛び火となって飛んできた被害者ってことだ。

 

「この子は、ケガをして……」

「やっちまえ!」

「悪魔の仲間に制裁をっ!」


 女の子のか細い声にガキ共は誰も聞く耳を持たない。

 

「やめて……いやっ」

 

 この悪意は本来彼女に向けられるべきものではないのだ。

 

「きゃっ!」

「――何をしているの」

 

 ガキ共が彼女を突き飛ばしたため流石見てられなくて声をかける。

 

「……っ! 悪魔」

「お前には関係ないだろ!!」


 止めてくる人がこの場にいると思っていなかったのか、ガキ共は驚いたように振り向いた。

 私だという事が分かると、全員仲良く一か所に集まってこっちを睨んでくる。

 

 関係ないとか、このガキ本気で言ってるわけ?

 

「知ってるとは思うけどその子、東の傘下の子なの」

「はあ? だからなんだっていうんだよ」


 ……よっぽど頭が残念なのね。


 ガキ共にも分かりやすいように大きく溜息をつく。

 

「なんだよっ!」

「……私の名前を言ってみなさい」


 ガキのキレ芸に反応することなく一つ問いかける。

 この国の人間なら誰でも応えられるサタンよりも身近で有名な悪魔の名前を。

 

「なんでそんなこと聞くんだよっ!」

「もしかして、知らないのかしら? この国の全員が知っているのに」


 取り合えず、巫という家の名前を出してほしいため一旦煽る。

 

 てか、こいつら私の言葉一つ一つにキレてくるな。

 

「巫珀だろっ!」

「だからなんだっていうんだよっ!」


 ……犬がキャンキャン吠えてんなあ。

 

「物分かりが悪いようだから教えてあげる。私は巫珀、東を統べる巫公爵家の次期当主よ」


 仁王立ちで腕を組みガキ共を見渡す。

 

「なんで私が出てくるのか、だったかしら」


 私には関係ないと言ったらガキを睨む。

 

「私には傘下の貴族を守るという義務があるからよ。わかったなら、さっさと道を空けなさい」


 そう言って少し凄むとすぐに女の子までの道がひらけた。

 女の子は白い蛇を抱えて私を見上げている。

 

「ついて来なさい」

「あっ、はい……」


 一言声をかけると女の子はバッと立ち上がった。

 

「今回の事は私の方から父に報告させていただきます」


 女の子が着いてきている事を確認して歩き出す。


「あと――」


 少し歩いてガキ共を振り返った。


 嫌味の一つでも言ってやらないと私の気が済まない。

 

「悪魔本人じゃなくて仲間を狙うのやめた方がいいわよ。弱く見えるから」


 (悪魔)からありがたーいアドバイス。胸に刻むことね。



 *

 


「入って」

「……えっ? あの、失礼いたします……」

 

 相変わらず誰かとの間に会話が発生することはなかった。


 終始怯え調子の彼女が私に社交辞令でも話しかけれるとは思えないけど。

 

「ほら、ここにその子降ろして」


 机の上にクッションを置いてそこに降ろすように促す。

 

「あっ、失礼します……」


 彼女はスススっと白い蛇をクッションの上に優しく降ろし、ササっと私から距離をとった。


 露骨に怯えられるといい気はしないが……まあ、いいでしょう。


 蛇に近づいて怪我の具合を確認する。

 

「酷い怪我……」


 白い蛇のため怪我をして血が滲んでいる箇所がわかる。

 

 まったくけしからんクソガキ共ね。

 とりあえず、治療をしないと……。

 

「剱」

「なんでしょうか」


 一度剱に視線をやってから部屋の棚にある箱を指さす。

 

「効果の高そうなポーションを二本とってもらえる」


 そう言うと剱はすぐに棚に足を向けた。


 剱にポーションを取ってもらっている間に怪我の場所を確認していく。

 

「いっ……!」

 

 ここまで大人しかったため警戒心を緩め少し触りながら怪我の確認をしていた手を思いっきり噛まれた。

 

 正直今すぐ振り払いたい衝動に駆られたが剱とかこの傘下のこの前で好感度の下がるようなことはしたくないという考えが邪魔をして振り払えず噛まれた状態で固まってしまう。

 

 この子、毒とか持ってないよな……?

 

 良くない思考を振り払うように首を横に振る。


「ポーションです」

「ありがとう」


 取り合えず一本、手を噛んできた腹いせに頭にかける。

 そうすると、少しずつ傷が癒えていくのが分かった。


 突然頭に液体をぶっかけられたことに驚いたのか、ヘビはやっと噛むのを止め私を見てくる。


 そんな蛇の視線を受けつつ、後ろにいる東の子へ視線を投げた。


「ほら、あなたも」

「ひい……っ!」


 今ひいって言ったな、この子。

 

「な、なんで、しょうか……?」


 私を見たかと思うと、床を見て、天井を見て、壁を見て、また私を見る……彼女の視線は一向に定まらない。


「ほら、あなたも怪我してるでしょ」

「あ……っ、ありがとうございます……」


 消え入りそうな声で感謝を告げながら恐る恐るこちらに寄ってきて、おずおずと擦りむいた箇所を差し出してくる。

 

 東の子は視線を下に向けていて表情は分からないが相当怯えているのは確かだろう。

 ただ手当をするために招いたため手当をするまでは帰らせるわけにはいかない。


 ポーションをガーゼに染み込ませて擦り傷に当てていく。


「別に、当然のことをしているだけ……って、なに?」


 勘違いしないでほしいのだが最後の「なに?」は目の前の東の子に言ったわけではない。

 蛇が突然登ってきて、首に巻き付いたてきたのだ。

 しかし、顔を上げていない目の前の子にそんな事情が伝わるわけはなく……。


「し……っ、しっ、失礼しましたー!」


 ……逃げられた。


 脱兎のごとくとてつもない勢いで駆け抜けて行く少女の後姿をぼんやり眺める。

 

「次は、あなたの手当ですね」

 

 剱はおもむろにそう言うとこちらに手を差し出してきた。

 

 私はどこか怪我をしていただろうか?

 

 不思議に思いながら差し出された手を見つめる。


「……さっき噛まれていたでしょう?」


 あぁ、と思いながら差し出された手に噛まれた手を乗せた。


 白い蛇は私の首元でくつろいでいるようだ。


「他におかしなところはありませんか? 体調は大丈夫ですか?」

「なにも問題はない」


 剱は傷口に少し消毒を付けると丁寧に包帯を巻いてくれる。


 ……時折、剱の考えていることがよくわからない。


 ここ数年ほとんど一緒に行動していたが、なんというかどっちつかずなのだ。


 私の行動を警戒している時もあれば、素直に享受することもあって。

 私の事を見て見ぬふりをすることもあれば、今のように気を使ってくれることもある。


 態度は一貫してくれた方がこっちとしては先の事を考えやすいのだが……それは望みすぎというものだろう。


 彼も必死に今を生きて、先の事を考えているのだ。

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