41-4.星空の下で(4)
これにて完結です!最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
「こちら側の外堀は埋めた」
「……」
オルブライト侯爵家とグレイ男爵家、身分、家格差は歴然。
レオナード様がうちに婚約を打診すれば、断る術はない。でも、レオナード様はそうしなかった。
「私の気持ちを優先してくださるのですか?」
「当たり前だろう? 自分の気持ちを押しつけるようなことはしたくない。でも、容赦はしない」
絶対に振り向かせるよ、なんて耳元で囁かれたら、普通の令嬢なら卒倒してしまうと思う。
でも、私はそんじょそこらの令嬢とは違うのだ。ふん、と足を踏ん張り、立ち上がる。
「マリオン?」
「私は……オルブライト侯爵家で初めてアイリーン様にお会いした時、雷が落ちたかのような衝撃を受けました」
私はレオナード様を見上げ、後を続けた。
「なんて美しい方なのだろう。なんて淑やかで、それでいて芯の強い方なのだろう。私は、そんなアイリーン様に焦がれ、この方のために働きたいと思ったのです。もちろん、旦那様や奥様、レオナード様も素晴らしい方で、お仕えすることに喜びを感じています。でも……不敬かもしれませんが、私にとって、アイリーン様が一番だったのです」
レオナード様は、切なげに目を細める。
「そんな私が、アイリーン様の専属になれた。まだまだ新米の私を抜擢してくださった。とても……嬉しかったです。私を強く推してくださったのがレオナード様だと知って、それもすごく嬉しかった」
レオナード様が、オルブライト家の採用全てを請け負っていると聞いたから。
レオナード様の人を見る目は確か。それは、旦那様も奥様も認めている。だから、そんなレオナード様に認められたことが、とても誇らしかった。
スキルありきだったのかもしれないが、レオナード様は普段から人をよく見ていて、機微に聡い。スキルがなくても、きっと同じこと。
「私がアイリーン様の専属になってから、毎日仕事の後に行われる報告会が、いつしか私の楽しみになっていました。レオナード様とアイリーン様について語ることがとても嬉しくて、楽しかった。そして……レオナード様のお人柄に触れることによって、私にとってレオナード様の存在はどんどん大きくなっていって……今では、かけがえのない大切な人になりました」
嬉しくて、楽しくて、そして何より、ドキドキと胸が高鳴った。
ドキドキの正体を見て見ぬ振りをしていたのは、これ以上の気持ちを抱かないためだった。
「私は、オルブライト侯爵家で雇われている侍女。そしてレオナード様は、オルブライト侯爵家のご令息です。使用人の矜持として、一線を引いていたつもりです。でも……その線を、踏み越えていいのですか?」
「マリオン!」
強く抱きしめられる。花の香りとレオナード様の香りがないまぜになり、クラクラした。
なんて蠱惑的な香りなのだろう。
身分なんて、家格差なんて、どうだっていい。そんなものは越えてしまえ。
そんな風に私を誘惑する。
「踏み越えてほしい。そして、俺のものになってほしい」
切羽詰まったレオナード様の声に、胸がきゅっと締め付けられる。
レオナード様は私に上を向かせると、顔を近づけてきた。
レオナード様の瞳に私が映っている。やがて、長い睫毛がそれを覆い隠した。倣うように、私もそっと目を閉じる。
唇から、レオナード様の想いがとめどなく流れ込んでくる──。
「……っ」
「君は……いつでも俺を翻弄する」
その呟きに、私は心の中で反論する。
(私こそ、いつもレオナード様に翻弄されているんですよ!)
でも、レオナード様はいつだって私を自由にしてくれる。そのせいで、レオナード様が私に振り回されていることだってあるだろう。……お互い様だ。
「プロポーズは、受けてもらえたと思っていいんだよね?」
「……く、口づけまでしておいて、聞きますか?」
「マリオンのことだから、念押ししておいた方がいいと思って」
「ひどいです」
ムッとした顔をすると、レオナード様が破顔する。
レオナード様の笑った顔が好き。レオナード様が楽しそうにしているのが好き。レオナード様には幸せでいてもらいたい。
これが「好き」という想いだというなら、私はレオナード様のことが好きなのだ。
「それでは……我が婚約者殿、もう一曲お相手願っても?」
そう言って、手を差し出すレオナード様。会場から、ワルツの音楽が流れてきた。
私はレオナード様の手に自分の手を乗せ、小首を傾げる。
「気が早いですよ? 言っておきますが、グレイ家は一筋縄ではいきませんから」
「そんなことは重々承知している。……受けて立つよ」
挑戦的な笑みを浮かべるレオナード様に、私は思わずふきだしてしまった。
「対決が楽しみです!」
「負けるつもりはない」
笑いながら、ワルツのステップを踏む。レオナード様のリードに任せ、庭園を優雅に舞う。
このままずっと、楽しい時間をレオナード様と二人で──。
私は夜空に輝く星々に、そう願った。
了
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