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隠密侍女は推し令嬢を幸せにしたい!〜推しの兄は同士ですが、何故だか私にも甘いです!?〜  作者: 九条 睦月


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35.束の間の休息

 よく晴れた朝。柔らかな陽が差し込んできて、とても気持ちいい。


「それではアイリーン様、準備を始めますね!」

「お願いね、エルシー、マリオン」

「はい!」


 私とエルシーさんは、気合を入れてアイリーン様を整えていく。

 品のいい乳白色のワンピースに着替えたアイリーン様は、まるで妖精のよう。

 ふわりと揺れる生地には、鮮やかな青の糸で刺繍が施されている。アクセサリーもそれに合わせ、アーネスト様の瞳を思わせる青い宝石のものを使う。


「マリオンは、お手を」

「はい!」


 エルシーさんが美しい銀の髪を編み込んでいき、私はその麗しい手を取り、爪を磨き上げていく。


(はああああ、アイリーン様の手、すべすべだぁ!)


 つい頬ずりしたい欲求に駆られるけれど、ぐっと我慢して作業に集中する。

 美しいアイリーン様は、更にその輝きを増す。妖精から女神、もしくは天使の姿になったアイリーン様に、私たちはうっとりと見惚れた。


「髪を全部編み込んでしまうのもいいですね。雰囲気が変わって、とても素敵です」


 いつもは、髪を編み込んでも一部だけだったりするのだが、今回は全部を編み込んでアップスタイルになっている。顔回りにひと房だけ下ろしているのだけれど、これがまたいい。そして、露わとなったうなじが更にいいのだ。さりげない艶っぽさにゾクゾクする。


(エルシーさん、素晴らしいです! 最高にいいお仕事です!)


「アップにするなんて夜会の時くらいだから、それ以外で髪を上げるのは初めてかもしれないわね。なんだかドキドキするわ」


(頬を紅潮させるアイリーン様に、私もドキドキですっ!)


「それに、マリオンもありがとう。とても綺麗な色だわ」

「気に入っていただけてよかったです!」


 淡い桃色に染まった爪を眺めながら、アイリーン様の表情が花咲くようにほころぶ。

 爪本来の色に近いけれど、ほんのりと薄桃色に色づくこの染料は、今王都で大人気なのだ。売り出されるやあっという間に売り切れてしまうほど。出入りの商人に頼み込んで、何とか手に入れることができた。


(この色、アイリーン様にぜひつけていただきたいと思っていたのよねーっ!)


 めいいっぱいのおしゃれをして出かける先は、グレイ家だ。つまりは、アイリーン様とアーネスト様の逢瀬なのである。

 これまでも数回ほど機会はあったが、私は最初だけしかご一緒できなかった。でも今日は私がお供することになっているので、ニヤニヤが止まらない。


「マリオン、だらしのない顔しない!」

「うっ……頑張ります」


 表情筋に力を入れるけれど、すぐに緩んでしまうのはどうしようもない。幸せそうなお二人を堪能できると思うと、頑張っても頑張っても頬が緩んでしまう!

 そんな私を見て、アイリーン様も小さく微笑む。

 最近は、以前と比べて随分表情が豊かになったように感じる。きっと、アーネスト様との仲が順調だからだろう。恋は人を変えるのだ。


(正式な婚約まで、あと少し待っていてください! アイリーン様!)


「アイリーン様、馬車の用意ができました」

「ありがとう。行きましょう、マリオン」

「はい!」

「いってらっしゃいませ」


 エルシーさんに手を振り、私たちは意気揚々とグレイ家へ向かった。

いつも読んでくださってありがとうございます。

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