33.潜入
本日夕方にも更新します!
ダニング侯爵領からほど近い場所に、小さな森がある。私たちはそこで馬車を降り、そこからは徒歩で向かった。
潜入するのは私だけ。中で諜報部員さんが手引きをしてくれるので、決して一人ではない。ただ、森からダニング侯爵領までも若干距離があるので、ギリギリまではアンリ兄様も一緒だ。
実は、レオナード様も一緒に来ると言い張っていたのだが、そこはさすがに皆に却下された。
「アンリ、マリオンを頼んだよ」
「かしこまりました。ですが、兄である私が妹を守るのは当然のこと。それに、マリオンに何かあれば、他の家族が黙ってはおりませんので」
「なるほど、確かに」
グレイ男爵家の家族仲といえば、王都でもかなり有名だ。特に、一人娘である私を、父も兄たちも溺愛しているともっぱらの噂。……そのとおりなのが、ちょっと恥ずかしい。
「マリオン、わかっているとは思うけど、くれぐれも気をつけて。油断は禁物だ」
「はい。必ずロメロの実を持って帰ります」
私はレオナード様にそう誓い、アンリ兄様とともにダニング侯爵領へ向かう。
「マリオン、手順はわかってるな」
「もちろん。何度も確認したわ」
まず、隠密スキルを使って姿を隠し、ダニング侯爵領へ潜入する。そして、あらかじめ打ち合わせてある集合場所へ向かい、そこで諜報部員さんと合流、ロメロの実を栽培しているという秘密の畑へと案内してもらう。
畑に到着したら、諜報部員さんが小屋にいる管理人を引きつけておき、その間に私は畑に入ってロメロの実を採取、その後は速やかにダニング侯爵領を出る。
「一つ懸念があるとすれば、領の出入り口である門と、畑の場所が若干遠いことだな」
「そうね。途中で見つかったりすると面倒だわ」
「見つかった場合は、遠慮せずに周りを頼れよ。間違っても、自分一人だけで解決しようとするな」
「……わかった」
見つかってしまった場合、もしくは、逃げ切れそうもないと思った時は、事前に持たされている笛を吹くことになっている。
この笛は、人には聞こえない高音が出るそうで、これを吹くと、森に棲むコウモリたちが集まってくるらしい。これで敵を攪乱するのだ。と同時に、コウモリの移動で待機しているアンリ兄様やレオナード様たちに危機を知らせることができる。
できれば使いたくはないけれど、無理をして捕まりでもしたらそれこそ大変だ。使うべき時は使う。それをしっかりと心に留める。
「着いたな。それじゃ、行ってこい」
「はい」
森から駆けること十分ほどで、私たちはダニング侯爵領の門に到着した。
もちろん、門から入るなんてことはしない。領を守る門番は、屈強な男が二人、顔もいかつい。
領の周辺は、それほど高くはないが、人が簡単には越えられないような塀に囲まれている。どの領もそうだというわけではないけれど、ダニング領は潤っていることもあるし、しっかりしたものを設置している。
(後ろ暗いことをしているのだから、当然よね)
門番から見えない位置まで移動し、私は潜入の準備をする。
「スキル発動」
アンリ兄様が、塀の近くで腰を屈める。
「いつでもいいぞ」
その声を合図に、私は勢いをつけて走り出した。
アンリ兄様が組んだ手に足をかけると、私の身体がふわりと宙に浮く。私はそのまま軽々と塀を飛び越え、静かに着地した。
(潜入成功!)
潜入後、音を立てないよう注意しながら集合場所へ急ぐ。目印は、鬱蒼と葉が生い茂る大木。塀沿いを行けば辿り着くとのことで、迷う心配がないのがありがたい。
しばらく駆けると、目印が見えた。そこには、すでに人のいる気配がする。
「アカ」
「……ミ」
諜報部員さんかどうか、確認のための合言葉だ。「赤」と「実」。
誰もいないのに突然声がしたものだから、彼はビクッと飛び上がりそうになっていた。……申し訳ない。
声を出したことでスキルが解け、私の姿を確認すると、彼はホッと息をついた。
「マリオンさん、ですね?」
「はい」
「私は、諜報部員のラックといいます。これから、畑へとご案内します」
「よろしくお願いします」
ラックさんに案内され、私は秘密の畑へ向かう。その場所は、大木からそれほど離れていなかった。
(あれが秘密の畑……。あの小さな建物が管理小屋ね。明かりが漏れているし、誰か寝ずの番をしているんだわ)
「私は小屋に向かいます」
「お願いします。私はしばらく様子を見てから、畑に潜入しますね」
「はい。くれぐれもお気をつけて」
「ラックさんも」
互いに頷きあった後、ラックさんは小屋へと歩いていった。しばらくすると、ラックさんが小屋の中へと入っていく。畑の管理人の引き留めに成功したようだ。
「よし、それじゃ行きますか!」
私はスキルを発動させ、秘密の畑へと潜入した。




