16.告白
公爵家のお屋敷に到着した後、両親が涙を流しながら出迎えてくれた。
事情聴取は明日内密に皇城で行われる事になり、ジャックさまとは抱きしめあって一旦お別れをした。王家に関する醜聞になるので、この件は内密に処理されるそうだ。
わたくしは猫のルナこと、エステル王女を抱きかかえて自分の部屋に戻る。
扉を開けて見慣れた景色を眺めると、やっと肩の力が抜けてきた。
「ようやく帰ってきたのね……」
「にゃーん!」
このままでは自室を汚してしまう。わたくしは部屋についているお風呂へと真っ先に進み、ここ数日間の汚れをメイドのリラがお風呂で落としてくれた。
手首と足首の拘束跡にリラの方が痛ましそうな顔をしていて、心配してくれているのだと実感する。
エステル王女も猫の姿のまま他のメイドにシャンプーをされていた。
「リラ、ありがとう。休みたいから一人にしてもらえるかしら」
「承知しました。たくさんの護衛が屋敷中におりますので、どうぞごゆっくりお過ごしください」
「ありがとう。心配をかけたわね」
「ご無事で何よりでございました。それでは失礼いたします」
メイドのリラを見送った後、ベッドへとごろんと横になる。
しばらく気を張っていて、睡眠不足だったから流石のわたくしも眠い。エステル王女もベッドに入ってくると、ぽつりぽつりと語り出した。
「あのね、ヴィクトリア」
「いかがなさいましたか?」
猫のまましょんぼりとした表情を浮かべるのだから、わたくしは反射的に彼女の頭を撫でてしまった。するとゴロゴロと喉を鳴らしながらも、エステル王女は言葉を紡ぐ。
「私には前世があるの」
「前世?」
「信じられないと思うけど、こことは違う世界で、ヴィクトリアとジャック王太子殿下の恋愛小説を読んでいたの。だから心配で皇城までついて行ったのだけど……。――誘拐を回避出来なくてごめんなさい」
わたくしとジャックさまの恋愛小説……?
そんなまさかと思いつつも、エステル王女が誘拐場所を知っていたようで今回助けられたのは事実だ。
「謝らないでください。ルナ……、エステル王女にはきちんと助けていただきましたから」
「ありがとう、そう言ってもらえると救われる……。ああ、そうそう! 私のことはルナでいいわ。ヴィクトリアがつけてくれた大切な名前だもん。これからずっとこの名前を使う。それに私は平民になるのだからそんなに畏まらないで」
「わかったわ」
横になるわたくしに寄り添うようにして、擦り寄ってくるルナに癒される。中身が人間であっても、猫は可愛い。
「それでね、ジャック皇太子殿下には気をつけて。彼はヤンデレだし、腹黒くてヴィクトリア以外に関心ないほどだから」
「やんでれ?」
「ええ。今回の誘拐をきっかけに、ヴィクトリアが危なくないようにと監禁されるわ」
「か、監禁?」
そんな物騒なと思いつつも、ジャックさまならやりかねない。そんな予感がわたくしの頭をよぎった。だってわたくしの前では蕩ける瞳も、本来は底の見えない色をしていると知っている。
「ヴィクトリアが監禁されてもいいなら構わないけど、執着がすごいから気をつけて。明日事情聴取をした後、皇城から帰れないと思うの」
「うそ……」
やっと日常に戻れたかと思ったのに、明日からまた監禁……?
ルナの瞳は真剣そのもので、嘘に敏感になっているわたくしでも、本当のことなのだと悟った。
「ヴィクトリアが逃げたいなら私が協力するわ! 一緒に平民として暮らしましょう!」
ルナだって大変な身の上なのに。それにジャックさまが監禁するほどわたくしのこと執着してくださっているのなら、一緒に逃げたらルナの身に危険が起こるかもしれない。
でもそんなこと承知の上なのか、真摯な眼差しは変わらないままだ。
「……どうしてそんなに良くしてくれるの?」
「だって、ヴィクトリアは推しだから!」
「お、推しって……?」
「前世からヴィクトリアが大好きだったってことよ!」
純真な告白に、わたくしは思わず顔を赤らめた。
しかし次の瞬間にルナは大きな欠伸が出て、気が抜ける。お互いにくすくす笑い合ったところで、わたくしも睡魔に襲われる。
「ルナ、少し寝ましょうか。考えるためには睡眠が大事みたい」
「それもそうね。おやすみ、ヴィクトリア」
重い瞼が視界を暗闇に誘う。直ぐに可愛らしいルナの寝息が聞こえてきて、わたくしもその後に続いた。




