幕間・その頃の伊草と小池
「おまえ、2ケツしたことないの?」
「へっ?」
運転を替わって少し走ったあと、伊草は自転車を止めて荷台の小池を振り返った。その顔は見慣れた呆れ顔だ。
「いっぱいあるよ、いつも妹乗せてたもん」
「後ろはないわけね。納得しました。この下手クソこぎにくいんだよばか」
「ひどい! ひっどいよ! 今あたし渡良辺ちゃん呼びたい!」
「呼べばあ?」
は、と鼻で笑う。
「重心ばらばらじゃふらつくに決まってるだろ。ちゃんと前に体重寄せろよ。重いんだよ」
「重くない! 超努力してる!」
「だから頭の方が足りないのか。大変に残念なことだ。そしてなんなのその横座り。荷台の後ろに離れて座った上、横座りで片方に体重偏らせるとか嫌がらせ?」
「あたしスカートだよ!?」
「自分でこぐときとたいして変わんないじゃん」
「変わるよ、自分でこぐときは脚閉じてるもん」
「見せて困るぱんつかっつーの」
「ぱっ……いいよもうあたしがこぐから!」
「男がうしろとかみっともねえじゃん。ほんと、思いやりがねーな。おまえ自分のことしか考えてないだろ」
「どっちが!?」
「いいから、くっついてろって言ってんの。それに、ストーカー様が見たら、誤解してくれるかもしれないだろ」
なるほど、と納得する。が、小池が理解したところで、伊草は心底うんざりしたようにため息をつく。
「頭の悪い女は疲れる……」
「いぐっちゃんってほんっと、性格悪いよね……」
「どこが? 俺超いいヤツじゃん」
伊草は再び前を向く。発進の気配に、小池はあわてて前へ座りなおす。またいで座ることは、やはりとてもできなかった。スカートはだいぶ短い。そのかわり、サドルをつかんでいた手を、伊草の腰にまわす。
伊草が地面を蹴る。改めて走り出した自転車は、先ほどと比べるまでもなく、安定していた。