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聖女と騎士 1

聖女の仕事の終わりが見えてきたとこもあり、俺の日々の生活にこの先のことを考えるという新しいノルマが追加された。

元女装聖女だとバレずにひっそり生きることは最低限の条件であるが、それ以外のことは今は想像すら付いていないのが実情だった。

何か考えるにしても、俺はこの世界のことを知らなすぎた。そのため、メグにこの世界の仕事や生活のことを新たに教えてもらうことにした。


そして、それにも関わるといえば関わることなのだが、俺の日課にもう一つ新しいことが追加された。それは、光属性以外の第二の属性の魔法も練習することだった。


俺の主な属性は光属性なのだが、この属性の魔法を使いこなせるのは聖女だけだった。そのため、聖女を辞めた後に光魔法を仕事など新しい生活に活かすことは難しいようだった。しかし、魔力が人より多いことは俺の数少ないアドバンテージの一つなので、それを何とか活かせないかと思っていた。すると、メグから二属性目の練習を提案されたのだった。


人は誰しも二つの属性を持っているらしい。でも、俺のように限りなく一属性寄りの人もいて、普通そういう人は二属性目の魔法を発動させることはできないらしい。


と言うのも、魔法というのは属性への適性が高ければ高いほど、その属性の魔法を発動させるために必要な魔力が少なくて済むらしい。だから、例えばメグであれば、風属性の適性がかなり高いので、風魔法なら少しの魔力で使うことができる。しかし、逆に適性の低い光属性は多量の魔力を注いでも、あまり強い作用を起こすことはできないらしい。


俺はほぼ光属性だけに近い一属性寄りであるが、魔力量は人並外れている。そのため、魔力量でゴリ押しすれば、二属性目も使える可能性があるとのことだった。


その二属性目が光属性と隣り合う属性である水属性なのか、風属性なのか、魔力計で改めて調べようとした。しかし、光属性が強すぎるのか、属性を表す針はまっすぐ光属性を指しているようにしか見えず、判断がつかなかった。

魔力計で判断できないものはどうするのかと俺が思っていると、メグが予想もしていなかったことを言った。


「これはもう実際やってみるしかありませんね」


メグが言うには、適性のない属性の魔法はいくら魔力を注いでも使えないらしい。なので、実際にやってみて使えた方が二属性目であると判断すると言うのであった。

風属性はメグに、水属性はロバートさんに教えてもらいながら、一番初歩の魔法を唱えてみた。すると、風属性ではそよ風も起こすことができなかったが、水属性では水滴を生み出すことができた。

光属性のときは一番初めに眩いほどの光を生み出しても何も感じなかったが、水属性を初めて使ったときには、グッと体に負荷がかかったような感じがした。

それをロバートさんに伝えると、慣れない属性、特に扱いづらい二属性目を使うときには魔力が多く消費されるため、そう感じるのだと教えてくれた。


「ユーリ様は確かに多くの魔力をお持ちですが、それでも慣れない属性の強い魔法を急に使えば気分を悪くしたり、最悪気を失ったりします。光属性のときもそうだったと思いますが、より慎重に段階を踏んで練習をしていきましょう」


ロバートさんが時間が取れるときだけだが、少しずつ水属性の魔法の練習も進めることになった。

水は生活に密着しているので、この先新しい仕事をするときに役立つ可能性が高いとロバートさんが言っていた。何か一つ具体的な目標を得た気持ちで、俺は新しい属性の魔法の練習に取り組むこととなった。



そうして過ごすうちに、フィリップス工房から依頼をしていたブローチのデザイン案が俺の元に届けられた。俺の後ろから覗き込みながら俺よりはるかに熱心に見入っていたアリーや、アリーほどではないが興味深そうに見ていたメグの意見を聞いて、俺はブローチのデザインを決定した。

それは光魔法を込めた小さな結晶を、レルムの白い花と緑の葉が囲むようなデザインだった。美しいながらも落ち着いたデザインで、教会で着けてもその雰囲気に合うのではないかと思った。


そうして俺が贈る分のプレゼントはやっとデザインも決まり、あとは出来上がりを待つばかりとなった。俺が一仕事終えた気持ちでいると、それを打ち破るように、もう一件のプレゼントの話がロバートさんから持ち込まれた。


「ユーリ様のご予定も考慮して調整をした結果、四日後にフランチェスカ王女へと贈る結晶を加工していただくことになりました。場所はこの王都の貴族街のすぐ近くにあるロスティアート工房です」


工房の名前を聞いて、普段はピシッと背筋を伸ばして静かに控えてくれてるメグが、少し反応を示した気がした。そのため、彼女に少し水を向けてみた。


「メグはその工房のこと知ってる?有名なところなのかな?」


「はい、存じております。ロスティアート工房は王室に献上する装飾品も手掛ける、国内最高峰の工房です。複雑な結晶の加工も行えますし、装飾加工に関しても技術もデザイン力も抜きん出ています」


心なしか早口でそう説明するメグの目には、隠しきれない興味の色が見えていた。俺の声のためとは言え、彼女には行きたくないところにも付いてきてもらっている。そのため、彼女の興味のあるところにこうして連れていけることを、俺は少し嬉しく思った。


「フランチェスカ王女から指名されるだけはある工房なんだな。この前結晶の加工は一度したけどまだ不安なところもあるから、メグが付いて来てくれると助かるんだけど、大丈夫かな?」


「もちろんでございます」


メグから普段よりも弾んだ声で了承の返事を受け取っていると、向かいに座っていたロバートさんはアリーに当日の服装について指示を出していた。


「アリー、今回は聖女様としての外出となるので、今ユーリ様がお召しのような服装を準備するようにしてください。王族からの使いの方がいらっしゃいますが、正装ではなくてよいとのことです」


「分かりました。外はそろそろ寒くなってきていますが、外套は必要でしょうか?」


「今のところ建物の外に出る予定はありません。馬車の中で使えるブランケットのようなものがあれば十分でしょう」


その後、いくつか細かな打ち合わせをし、俺たちは当日に向けてそれぞれ準備をすることとなった。



ロスティアート工房へ行く当日、朝食を終えるとすぐ、俺はアリーによって聖女様の姿に着替えさせられた。すっかり慣れたいつもの女装姿で客間で王宮からの使者の到着を待っているとき、俺はあることを思い出したので、側にいたメグに声をかけた。


「あのさ、モングスト侯爵からもらった大きい方の結晶も荷物に入れてもらってもいいかな?」


「もちろん構いません。少しお待ちください」


そう言うと、メグは俺の私室まであの結晶を取りに行ってくれた。

結晶を今日の荷物に追加した後、メグは俺にこう聞いてきた。


「あの大きな結晶も、今日加工されるのですか?」


「もしできるなら、そうしたいと思ってるんだ。俺が外に出るとなると、皆に色々調整してもらうことになるからさ。まとめられる用事は一気に済まそうかと思って」


護衛や馬車の手配、聖女の仕事のスケジュールの調整、外出用の衣装の準備。ここ最近の外出でよく分かったのだが、俺がちょっとした用事で外に出るとしても、色んな人に動いてもらわなければならなかった。

多くの人の手を煩わすのが申し訳ないのと、後は知らない人の前で女装姿をさらす回数を単純に減らしたかったので、残っていた大きい結晶の加工もできるなら今日やってしまいたいと俺は思っていた。


「分かりました。では、向こうに着いたら工房の方に相談を致します」


「あ、そうか。向こうの都合もあるよな。昨日の夜にあの結晶のことを思い出して急に思い立ったんだけど、迷惑になるよな」


工房の負担のことを考えられていなくて、焦る俺にメグはこう言ってくれた。


「魔法の発動条件が同じでよければ、微調整するだけで同じ加工陣を使うことができます。そのため、そう手間はかからないと思いますよ」



そんな会話をした後、メグからこれから行く工房の話を聞いていると、ノックの後にほぼ間を空かず、アリーが客間に飛び込んできた。


無作法を注意しようとメグが口を開こうとしたが、それより息を切らしたアリーが喋りだす方が早かった。


「た、大変ですユーリ様!今王宮からの馬車が着いたのですけど、大変!大変なんです!」


「大変、大変って何があったんだよ?フランチェスカ王女ご本人が来たのか?」


「ち、違います!いや、それに似てるんですけど違います!あの、今日の使者の中にいたんですよ!氷の騎士様が!アレックス様が!」


「は!?」


使者というから、俺はてっきり役人みたいな人が来るのだとばかり思っていた。いや、俺のイメージが正しいかどうかは分からないが、アリーの反応を見るに、高位貴族であるアレックスが来るのは普通の対応ではないようだった。


「べ、別の用事で教会に来たとかは、そんな訳じゃないんだよな?」


「ロバート様が対応されてたので、それはないと思います」


薄い望みをかけて聞いた言葉も、無情にもざっくり切り捨てられた。

今日はお役人と結晶の加工をさっくりやって、時間が余れば俺の結晶も加工して、何なら普段見られない一流の工房内をメグに見せてあげれらたらいいなとか勝手に思っていた。しかし、俺のイメージしていた予定が、ガラガラと音をたてて崩れていった。


「俺、どうしたらいいんだ?」


噂になっているというアレックスとの外出に、俺は思わず困惑の声を出した。これはあれだ、外堀ってやつがガンガンに埋められているのではないだろうか。すがるような気持ちで言ったのに、アリーの返事はにべもなかった。


「アレックス様はもう教会まで来られてますし、今日エスコートされることは必至です。ユーリ様は諦めて外堀埋められるしかないと思います」


「人が必死に目を逸らそうとしてることを、はっきり言葉にするなよ!」


思わず恨めしげにアリーを見てしまったが、彼女をいくら見たところで現実は変わらなかった。そんな不毛なやり取りをしていると、部屋のドアの外から人のざわめく声といくつかの足音が聞こえてきた。


俺が急な事態に混乱した気持ちを落ち着かせる前にドアがノックされ、ロバートさんが部屋に入ってきた。そして彼に続いて、教会の落ち着いた雰囲気の客間においても眩い輝きが損なわれない男が部屋に入ってきた。


「聖女ユーリ様、フランチェスカ王女からの用命により殿下の使いとして参りましたアレックス・アークゼアリです。本日はどうぞよろしくお願いいたします」

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