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アヌス・オブ・アヌビス  作者: ディ・オル
第二章 後編
49/51

VSアイ②

あと2話で一応終わります!

…………。

……。


俺が飛び出して戦闘を開始した頃、シンとニナの合体技が放たれた。お互いに手を繋ぎ合った状態でシンが分身する。それに呼応するかのようにニナも分身していく。――以前の戦いで使おうとした技らしい。


次元ディメンション破壊ディストラクション!!』


何千体に分身した状態で、ニナが<物質崩壊(アブソリュート)>を放った。面での攻撃しか出来なかった局所的な異能が、猛り狂う嵐のように一帯を吹き飛ばした。

“神々の怒り”とでも形容しようか。あらゆる方角から、角度から、座標から全てを焼き払う破滅の光線が変幻自在に乱れ飛び、サイバーシティの大半が機能を停止する。浮遊していた地盤が音を立てて崩れ、地上へと降り注いだ。

……こんな非常時ではあるが、ああやって息ピッタリに必殺技を叫び合っている二人を見ると「お前ら、どこかで練習でもしたのか」と聞きたくなる。

俺は邪念を振り払いながら、戦車に長剣を突き立てた。


――案外イケる、というのが率直な感想である。

何かと言うと、十倍になった俺の戦闘力の話だ。考えてみたら、廃人プレイヤーとして名を馳せていたあの頃より、攻撃力や防御力、それからHPと素早さも高いんだよな……。

装甲車両は言わずもがな、軍艦も、思っていたより呆気なく大破していった。それもこのステータス値のお陰なのだろう。

以前の異能<時間停止(ステイシス)>は確かに凄いが、今は純然とした威力が凄い。小銃の弾丸一発一発が大砲のような威力を帯びており、長剣の一振りは残像が発生して、空間が歪曲して亀裂が入る。

俺がタックルしただけで機械兵が木っ端微塵に吹き飛ぶし、飛んでいる爆撃機に走って追いついて、素手で叩き落とす事が出来た。

相手もビックリしている事だろう。奇遇だな。俺もだ。


シグレ Lv.171 Human

称号:???

異能:1/10

■HP 5121/18720

■MP 8710/10540

■攻撃力 18040

■防御力 11430

■素早さ 13000

■魔法耐性 1820

……


■炎耐性 1800

■氷耐性 1790

■雷耐性 1810

……


それに、この戦いの中で更にレベルアップしている。

敵の数、残り一割。まだマザーコンピューターも残っているが、先程まで屹立していた機械仕掛けの棟はポッキリと折れ、上半分が無くなっていた。壊滅的なダメージを与えているようには思える。


しかし、パーティメンバー同士でチャットを通じてお互いの状況を報告し合っていた所、どうやら状況はあまり芳しくないようだ。

曰く、残存勢力が一割と言ったが、それでも十万以上居るらしかった。彼我の戦力差をここまで縮められただけでも重畳だと思えてくる。

それからもう一つ。シン、ニナのMPが尽きかけていたのだ。既に回復薬は蕩尽してしまったので、強力な攻撃や無茶な防御、回避行動は封じられたと言っていい。


こいつら勇者も大概チートだが、相手もチートなのだ。なんせ、地球の危機を演出するくらいの奴だからな。

俺が日本に居た時、世界のどんな危機があっても首相や大統領が何とかしてくれると思ってた。そりゃあ、戦争やいがみ合う事はあるだろうけど、人類の敵なんてものが現われても、誰かが倒してくれると思ってた。今でもそう思う。

だが、もしこの空間が現実世界と繋がったら?

もしこの機械装置が何千、何万の軍勢となって襲ってきたら?

きっと地球は瞬く間に併呑されてしまうだろう。

今しがた戦っている勇者達は、地球上の誰よりも強い。だが、いつ倒れても可笑しくないくらいボロボロだ。消極的な戦闘となり、地道に相手の戦力を削いでいくしかなかった。HPが危機的状況になれば、リエルの治癒魔法で何とか生き永らえる。回復したらまた立ち向かい、傷付き、そして回復する。この繰り返しで、依然として苦境に立たされていた。

敗因は――恐らく依然戦った時よりも敵軍の数が多いのではないだろうか。だがそんなもの、分かる訳がない。


事前にリエルから聞いていたが、アイは電脳世界の住人だからデータさえ無事なら何度でも復活するんだろう?

だったら周辺の機械や、データを移せそうな媒体は虱潰しに破壊しなければならない。という事は、この敵兵全てを壊滅させてからアイを倒さねばならない。

だが、こちらも消耗が続いている。保ってあと十分、二十分くらいか。

こういう時、ルーシアの異能<ラピッドファイア>とショットガンのコンボがあれば……いや、無い物ねだりをしても仕方がない。


「お、おい! このままだと全滅するのではないか!? どうするのだッ!?」


「回復する手段も無いッスよ!!」


チャットからニナとシンの苦しげな声が響いてくる。

どうしたらいいのか。

――簡単だ。圧倒的な攻撃力で相手を潰せば良いのだろう。

では攻撃力が無いのか? 否、充分にある。

では何故、全滅しそうなのか。防御力と回復力に欠けるからだ。

……防御力が無いのか? 防ぎ切れる次元の話ではない。

では回復力が足りないのか? 治癒魔法を使用するMPが尽きたし、回復薬が底を尽きた。

回復薬がもっとあれば……。だが一度に所持できる量にも限りがあったし……。


……待てよ?


「回復薬が無いなら、買ってくればいいんじゃないか?」


俺は戦艦の真上に降り立つと、右手の長剣を振り下ろしながらチャットで語りかけた。爆発に巻き込まれないよう、飛び降りて避難する。


「何言ってんスか!! 戦闘中ッスよ!?」


「それがどうした? 分身して買ってくればいいじゃないか。もしくはギルドに行って、預けてある回復薬、全部持ってくるんだ! シン、君なら出来る!」


「! そんな手が……。シグレさん、中々卑怯ッスね……」


戦闘中に一人だけ街へ戻り、回復薬を買ってくる。そんな発想、ゲーム時代には無かった。まず街に帰還してしまったら、特定のフィールドには戻って来れないからだ。

だが、シンの異能なら出来る。もっと早く気付くべきだった。

チャットの音声にノイズが走った。シンが()()()のだろう。彼の姿が消えたかと思うと、またすぐに出現した。


「――お待たせッス。倉庫からありったけの回復薬を持ってきたッス。今から配りますね」


「早いなッ!! いや、流石と言った所か!」


何処からか出現したシンが各パーティメンバーの近くに現われる。そして、回復薬を手渡して全員がみるみる体力を取り戻してゆく。

これには通話していたリエルも感嘆の声をあげた。


「巻き返していくぞ!」


「「「了解ッ!!」」」


鬨の声を挙げる。俺が、全員が、気合を取り戻した。

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