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アヌス・オブ・アヌビス  作者: ディ・オル
第二章 後編
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VSアイ①

灰燼に帰していた近未来都市。その中央には巨大な柱のようなものが聳えている。それはこの一連の機械群の中枢と思しき物体であり、廃墟と化した今も稼動を続けているようだった。以前とは様相が異なり、更なる進化を遂げた事実が窺える。

広漠とした機械の塔は直径で数キロメートルはありそうな程である。その接地点では――ランプや照明なのだろう。内部で光源が点滅しているのだが、外部からその様子を見ることは敵わない。駆動する音がやかましく辺りに響き渡るだけであった。

背景は東雲色に染まった薄気味悪い景色が延々と続いており、外界から隔離されている。この場所から他のフィールドや街並みを見る事は敵わない。


一帯には、荒涼とした灰色のフィールドを上から黒色で塗り潰すかのように、多くの機械生命体や兵器が大群を成していた。マザーコンピューターを守護するという使命に基づき、静かにその時を待っているのである。

人間の姿をした機械兵が黙然と佇み、周囲には装甲戦闘車両、戦闘機もあった。これらは地球に侵略して間もなく、アイは戦争兵器という概念を学習し、模倣した。自らの知識も合わせて、空中に浮かぶ<魔法戦艦>すらも生み出した。

それらが何千、何万と集束し、勇者を今度こそ屠るべく最終決戦に備えていた。



俺がサイバーシティに転移すると同時、凄まじい爆発音が響いた。

思わず後退して防御の姿勢を取る。遥か遠くで、何体かに分身したシンが空中で対空ミサイルを迎撃していた。

俺の知っているサイバーシティとは一切が異なり、亜空間に転移してきた事だけは把握できる。辺りは数多の機械型のモンスターで埋め尽くされ、絶望感や死の匂いで充満していた。

シンが装備しているのは槍だ。……確か<神槍ミストルティン>だったっけ。伝説の武器に類する代物である。

刺し貫いた突如、大爆発が起き、それを瞬間移動でかわすシン。かわした傍から、次の弾頭が迫ってくる。

俺の横にはニナが居た筈なのだが、ふと見やるともう居なかった。

彼女は一陣の風のように疾走し、手から凶悪なエネルギー体を放出させる。黒い稲妻が走ったかと思うと、直線状に大爆発が起きた。

暗黒物質に両断された数隻の戦艦が、煙を上げて地面に激突する。直後、また大爆発が起きる。


思えばここまで来るのに色々あった。異能を奪われ、過去の栄光と功績を奪われ、現実世界を奪われた。スライムすら倒せず、一日に何度も死に、残飯を漁った。かと思ったら美女の友人が出来たり、楽しい時間を過ごしたりもした。

だが――

ルーシアは今だベッドで動かない。友を救う為、俺は悲しみ、怒り、動いた。だからここまでやって来た。そう思っている。

しかしこうも思うのだ。――俺は元の世界に戻りたいのだ、と。

喧嘩した親父、母。そして幼少期の思い出。

思い出すのは過去の記憶ばかり。俺の眼は後ろを向いていて、前を見据えていない。記憶を懐古して、縋って、殻に閉じこもったままだった。

そんな俺が、だ。アヌビスゲートが現実化し、他人との交流を生み出した。否応なしに前進を迫られ、未来についてを考えさせられた。

未練など更々無いと嘯いてみせたが、その中で自らの本心に気付いたのだ。

郷愁とは少し異なる、それ。

俺は元居た世界に帰りたいのだ。きっと。


――敵の勢力、推定で十万、いや百万ほど。

中心に位置する巨塔が『アイ』なのだろう。それを取り囲むように幾千、幾万のメカが配置されている。必勝の布陣であろう。

……勝てるのだろうか?

ふと、そう考えてしまった。記憶を失くす前の俺も、そう思ったのだろうか。

規模が違いすぎた。戦車の十台、二十台など、正直言って大した敵ではないが、それらが遥か遠くまで埋め尽くされていた。眼前に広がる光景は悪夢に等しい。


「シグレさん! 早くこっちへ!」


振り向くとリエルが防御魔法を唱えていた。いつの間にかシンもこちらへやって来ている。声高に喋っているのだが、喧々囂々(けんけんごうごう)としていて上手く聞き取れない。


「ニナさんが本気出すみたいッスよ!!」


「――行くぞ、『無に帰す光線(オブリビオン・レイ)』!!」


えっ? と俺が聞き返す前に、耳をつんざくような高音が鼓膜を揺さぶった。思わず首を竦める。すると刹那、地平線をなぞるように黒いレーザー光線が軌跡を描いたと思うと、一際大きな爆発が起きた。爆炎が吹き荒れ、連鎖し、キノコ雲が発生した。

それから一瞬のインターバルを置いて、爆風が俺達に襲いかかった。残存していた機械兵が吹き飛ばされ、敵同士が巻き込まれ、壊れていく。瓦礫や機械の部品が凶器と化して飛んでくる。それを、リエルの唱えた魔法障壁が必死に弾いていた。

ゴゴゴという轟音が鳴り止まぬまま、薄目を開けて敵陣を見やると、かなり数が減ったようである。機械兵の九割、戦車の五割程が撃墜されたように思えた。

……やはりコイツはとんでもない化け物だ。


「まだまだ来るぞ!!」


そう思っていると、ニナが叫んだ。上空から数千隻の戦艦が攻めてきたのだ。一隻ずつが直線状に位置しておらず不規則なフォーメーションなのは、ニナの攻撃への対策なのだろう。

戦艦の砲台から高エネルギーの光線が放たれる。負けじとニナも<物質崩壊>を解き放つ。


「うおおおおおおおおッ!! ヤバイんじゃないか、これはァーーーッ!?」


リエルの防壁に守られながら、溜まらず俺は叫んだ。いつまで魔法障壁が保つのか……リエルの顔を見る限り、あまり長くはなさそうだ。

またしてもいつの間にかシンが消えており、攻撃に加勢しているようだった。

全方位から迫り来る集中攻撃に、ニナのHPも半分近く減ってゆく。瞬間移動出来るシンでさえ、移動直後に攻撃を喰らっているようだった。


「シグレさんも攻撃に転じてください。わ、私はいつまで保つか……! 信じて、ますから……!」


苦しげな表情を浮かべるリエルを見て、俺も覚悟を決める。決死の突撃を開始した。




時は遡って、サッポロのギルド。館内の一角で俺達四人が話し合っていた頃。

作戦会議のあの時、俺は全員に向かって、こう告げた。


()()()()()で、作戦を立てるぞ」


「――そんな、ど、どうしてですか?」


俺の物言いにリエルは酷く困った様子で、飼い主に捨てられた犬のようだった。俺の心は苦しみを覚える。

だが、仕方ないのだ。決して仲間はずれではない。

もしかしたら、リエルが知る事によって結末が変わってしまうかもしれなかった。リエルが知り得るという事は、アイも知り得るという事なのだ。

表情の些細な変化や動きによって作戦を読み取られる……そういう可能性もある。だが俺は偏に、前回敗北したのは()()()()()()()()()だと思うのだ。


「リエルは俺達の敵ではない。だが、()()()()()()()()んだ」


リエルとアイは同じAIで、AIの思考に頼った作戦というのは、同じくAIであるアイに看破される作戦なのだ。

優秀な人工知能に助けを求めて、旧文明は滅びたのだと聞く。

前回の大戦も同じだ。リエルという優秀な人工知能を頼った結果、敗北している。

このジレンマに気付いたのは最近だった。


それ故、俺はリエルに頼る事をやめた。そして、リエルが夢にも思わないような一計を練る事で、黒幕を撃破しようと考えた。

俺達が考え出した作戦。それは、『何も考えない』というスタンスに始まる。これは決して無策なのではない。

プレイヤー個々の能力に頼りきった戦法で、限界突破したステータス、培ってきた戦闘センス、そこに絶妙な連携プレーを加えたものだった。


“合図をしたら、俺に向かって反転魔法を掛けてくれ”


最終的に、リエルに伝えたのはその一言だけだ。

どういう事ですか――と問うリエルに、俺は答える事が出来なかった。

教えられなかったのだ。リエルに教える事で、アイにも悟られる可能性があったから。

リエルが予期できない、という事は即ちアイにも予期できない。であれば、そこに攻略の糸口があった。

そう、裏をかかなければならないのだ。

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