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銀拳  作者: 月草 イナエ
8/45

~07悩み相談

『なぁーそう思うだろー?』


「ああ、しかしおばさんの、『女なら、惚れた相手の為に、身体中の血の最後一滴まで失っても後悔しない!』と、言うのは中々のセリフだな」


『それが、鼻血じゃなければなぁー』


 俺は、太一の愚痴を聞いていた。時刻は二十三時、かれこれ一時間になる。帰宅した後、母親の仕事のバイトも無かったので早めの夕食を取り、部屋で武装の手入れをしていると、太一から電話が掛かってきた。どうやら夏樹の話をおばさんに話した処、逆に説教されたらしい。甘子の件も有り、色々話込んでいると、新たな着信を知らせる音が響く。


「すまない、太一。着信来たから、続きは今度な」


『ああ、話し込んじまったな。それじゃあ、またな』


通話を切り、表示された着信相手を確認すると、[鈴木杏子]杏子さんだった。

 ……どうしたんだろう?朝に会うから、電話なんか(ほとん)ど掛けてこないのに……

 疑問を感じながら、電話に出ると、僅かに緊張した様子の声が聞こえて来た。


『やぁ、志緒君。こんばんわ』


「こんばんわ。杏子さん、珍しいですね。電話なんて……どうしました?」


『しッ、志緒君!明日の夕方とか空いてる?ちょっと付き合って欲しいの…』


「捕縛課の仕事が、五時半か六時位までだから、その後なら大丈夫ですよ」


『それじゃ、六時過ぎにパン屋に来てね。お願いします』


「用件は何で……」


『おやすみ!(ブツッ)』


 ………何だか慌ててたけど、また新作の試食会かな?この前今一(いまいち)だったからなぁ〜

 明日の弁当は少なめにしょう。 そう思い、寝る事にした。


    ◆

    ◆

    ◆

    ◆


 閉店した店内には、焼けたパンの残り香が、漂っていた。レジスターの後のドアを開けると、二階に上がる階段が見える。二階の居住区の一角、ベッドの上で、鈴木杏子(20)は(もだ)えていた。

 白いベッドの上で若草色のパジャマを着た杏子は枕で顔を押さえ、ゴロゴロ転がっている。


 (……うわぁ―――――――――――ッ!

 志緒君、誘っちゃったぁ―――ッ!!どっ、どうしよう!どうしよう!…………あッ!洋服準備して無い!)


 突然起き上がると、褐色(かちいろ)のロングヘアーの乱れも気にせず、クローゼットを開け、服を漁る。 彼女がこんな有り様になっているのは、今日の昼休みに、ホール棟の食堂で友人達とランチを食べていた時の事だった……






「しっかし、アンタ達、男っ気無いわねェー」


 食堂の片隅のテーブルに座る三人の女性が、ランチを食べながら話している。その中のセミロングヘアの女性が、前に座る二人にダメ出しをしている。


朝花(あさか)、そんな事は無い。私は毎日告白されているぞ」


 二人の内、右側の、黒髪を後で三編みにして、ジャケットにパンツ姿の女性は、心外だと言わんばかりに腕を組む。

 その様子に、たじろぐ朝花は左側の女性に標的を変える。


「楓ッ、羨ましい!杏子は?杏子も毎日告白されたりしてるの?」


「わっ、私だって、毎朝、通園前にチュー(間接)してから大学院来てるよ」


「なっ………何よ!その羨ましい情報の嵐!私も勝ち組術知りたいよ〜」


 ガックリと肩を落とす朝花に、楓は頬に指を当てながら尋ねる。


「朝花の水晶で占ったら?」


「無理よ!この武装は自分以外にしか使えないから……特殊系は色々制約があるのよ」


「ふ〜ん、だったら色気振り撒いて片っ端から連れ込んだら?」


「アンタに言われたく無いよ!楓は警備課の制服着て男みたいだし、杏子は七分丈ジーンズにワイシャツに店のエプロンに三角巾。完全に売り子だよ!」


「失礼な奴だな。男っぽいキリッとした格好は、デキる女を演出しているのだ。杏子だって大通りで一、二を争うパン屋の店長。店の宣伝にも熱心な、看板娘だぞ」


「………うっ…そこまで計算していたなんて、恐ろしい女ッ!」


「えっ?着替えるの面倒くさかっただけだよ」



「……こんな二人に先を越されるなんて……」


「そうだ、朝花。杏子の彼氏を紹介してもらおう」


「見てみたい!」


「私だけ?楓は?」


「私は告白されたが、付き合っていない。だから彼氏はいない。しかし、毎朝チューしてくる男を友達とは言わないだろう?」


「ウッ……。きっ、今日は予定あるから駄目だけど、明日ならいいと思う……」


「それじゃ明日ね」


「楽しみだな。朝花」


「ちょっと、恥ずかしいな〜アハハハ」


 (……どっ、どうしよう…どうしよう…どうしよう…今更、間チューだなんて言えないし、()してや、彼氏じゃ無い!多少仲が良い友達レベルなのに…………)




 夜になって、やっと電話をする決心をした杏子は、何とか志緒の予定を空けてもらい、今は明日のコーディネートを悩んでいた。肝心の彼氏役に何も説明しないまま……


    ◆

    ◆

    ◆

    ◆


 朝の光がカーテンの隙間から差し込み、部屋の闇を溶かしてゆく。

 最近になってやっと寒さも和らいで、布団から出るのにも勇気が不必要になった。身体を(ほぐ)し、いつも道理身支度を済ませ一階に降りて行くと、リビングのテーブルの上に在る朝食と、デジカメと置き手紙が目に入る。



 【志緒兄へ

昨日の写真は、ちょ〜売り上げUP間違いなし!私のおサイフもパンパン確実!帰りを期待しとけ!

P・S

シャッターチャンスを見逃すな!甘子の春物アクセは、兄にかかっているよ〜】




 ……見るんじゃ無かった……



 とりあえず、デジカメをポケットに入れ、テレビでニュースを見ながら朝食を取る。

 テレビからは花見スポットの紹介や毎年お馴染みの酔い潰れた人々や、酔って暴れる人が捕縛課のメンバーに取り押さえられる映像が映し出される。昨日は非番だったが、捕縛課から緊急招集されなかった処をみると、大事にならなかったようだ。


「さてと、そろそろ行くか…」


 コーヒーを飲み干し食器を片付けると、玄関ヘ向かいドアを開ける。雲一つ無い青空を見上げ、靴先で地面を軽く叩き、今日も学園に向かって走り出した。

 いつも通り、屋根や路地の塀を走り抜けて杏子さんの店の裏庭に差し掛かると、視界にパンが飛んで来る。


「今日は頼むよ!志緒君!」


「それじゃ、夕方!」


 振り向いてパンを掴んだ腕を振ると、杏子さんは少し頬を染め、腕を突き上げる


「サービスしといたぞぉー!」


 …サービス?走りながらパンを見ると、二ヶ所噛じられていた。杏子さんのサービス基準が分からない……


 いつもと違う態度に疑問を感じたが、とりあえず学園に行く事にした。

 アンパンを食べながらゲートを通過して高等部に向かうと、後ろから視線を感じる。振り向いて視線を辿(たど)ると、遅刻者ゲートの管理室から此方を見ている聖のお気に入り、楓さんと目が合う。軽く会釈をして高等部に向かう。



 午前の授業を軽く聞き流し、昼休みには昨日から茜を加えた五人で賑やかな昼食を取る。


「そうだ!友一、皆でお花見しない?大通り公園の桜、見頃らしいよ」


「いいぜ。そろそろ茜と、行こうか考えていた処だったから」


「キャッ、やだ〜嬉しいぃー!」


「……お花見?」


「エリスは初めてだからな。日本では桜が咲くと、木下に仲間が集まって飲んだり食べたりするイベントがあるんだ。」


「綺麗な花でね〜屋台とか一杯並んで楽しいんだよ〜」


「…楽しみ」


 ラーパンを食べながらエリスは微笑みを浮かべる。


「それじゃ〜六時半時に公園の東口に集合ね」


「あっ、俺はちょっと用事あるから遅れるけど、先にやっててくれ」


「…わかった」


「エーッ!志緒君、遅れるのー」


「茜の方が〜時間にルーズだから〜友一しっか……ゴフッ!」


今回も聖は茜に殴られ、白眼を剥いて床を這っていた。

 午後の練武修練は、個人練習がメインだったので、友一と聖に遠距離武器との一対多の練習に付き合って貰い、汗を流す。

 後は捕縛課の業務が終われば、杏子さんとの試食会と花見に行ける筈だったのだが、捕縛課に入ると三右さんと三左さんが、慌ただしく動いている。


「おっ、蟹。おはようさん。今日はちょっと忙しくなるかもしれんよ」


「花見の巡回に業務課から捕縛課に人員増加依頼が入りました。二班に分けて、A班を十五時から十八時、B班が十八時から二十一時の花見巡回を行います」


「えっ?十八時と二十一時?」


「なんだ〜蟹?デートの約束でもあったん?」


「いえ、ちょっと約束があったので…班分けは?」


「まだですけど…希望は?」


「俺と銀拳をA班にお願いできますか?」


「構いませんよ。」


「有難うございます。無理言ってすみません」


 三左さんに御礼を言って出動準備を整える。これからは、課の仕事に集中しよう。そう思いながら他のメンバーを待っていた。




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