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銀拳  作者: 月草 イナエ
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~06帰り道

 俺の脂肪フラグ?により、女子達に散々責められたが、それも店員が注文した品を持って来るまでだった。テーブルに和菓子とお茶を置くと、皆の興味はそちらに移って行った。


「それじゃあ〜、いただきま〜す〜」


 聖が真っ先に食べ始めるのを見ながら、各々に食べ始めた。翼もさっきまでの責める様な眼差しから、嬉しそうにDXどら焼きを食べている。エリスも時折体を震わせながら嬉しそうに食べている。


「アープさん。葛餅食べてみる!」


 夏樹が小首を傾しげ、瞳を輝かせ、葛餅を差し出す。疑問系ではなく、強制的になっている。エリスは恐る恐る葛餅を口にする。


「…プニプニ」


多分、食べた事の無い葛餅の食感を堪能するエリスに、夏樹は瞳を閉じて口を開け、待機している…。そう言えば、アンパンの時食いたかったって言っていたな。エリスを見ると、此方にどうするの?と、目で訴えている。


「姫サン。どら焼き食べたいみたいだぞ?」


 エリスは小さく頷いて、そ〜っとどら焼きを差し出す。


「…ア〜ン」


「バグンッ!!」


 恐竜でも噛みついてきたかの様な轟音と共に、エリスの白い指から先のどら焼きが消失した。


「怖ッ…」


「…見えなかった」


「夢にまで見たアープさんとのア〜ン…しっ、幸せッ!!」


「夏っち〜速くて見えないよ〜」


「瞬間消失の夢見たら怖いだろ!」


「恐怖体験だな?」


「おいッ!夏樹!鼻血出てるぞ!」


「太一兄さん、死んでもいいわッ!」


「満面笑みで鼻血出す妹なんて、嫌だ!」


「…ティッシュ」


「大福うめぇーな。食うか?茜?」


「キヤッ、友一ったら〜」


「すみません!DXどら焼き三個、追加お願いします。あと、お茶も」



 騒がしい茶会は、それから暫く続き、夏樹が貧血でダウンすると同時にお開きになった。会計は男子がワリカンで支払い、電車乗り場で解散した。電車組はエリスと翼。聖と双一朗が西の市街地へ歩き始め、残りは大通りを東に曲がり、商店街へ歩き出した。


「普通、女が笑顔で鼻血撒き散らして、倒れるかね〜?」


 太一は背中にティッシュで鼻栓をした夏樹を背負っている。


「夏樹はどちらかと言うと男前性格だからなぁ~」


隣を歩いている俺は、笑いながら答えると、前を歩いている友一達も


「そうだな。男兄妹の一番下なら影響は受けるだろう。」


「おばさんも、無駄に男前だしね。仕方無いよね」


「まあ、夏樹が彼氏でも作れば、茜みたいに女の子らしくなるんじゃないか?」


「志緒ッ!ちょっと、どういう意味?」


「可愛くなったって友一も、言ってたぞ!」


「エッ?そんな…ヤダー、友一ッたら~(バコッ)」


「痛てぇーッ!」


 吹っ飛ばされる友一を見ながら太一は深いため息を吐く。

 そんな話しをしながら皆と別れ家路に着く。路地を曲がり、大通りから二本目の路地を通っていると、小さな公園の長椅子に乗っている物体が、目に入いる。夕日を背に大きな箱から影が長く伸びる。椅子の下からはブラブラ揺れる小さな足が見える。(……あれは…)その影に近づき声を掛ける。


「こんばんは、鶴ちゃん。どうしたの?」


そう問いかけると、大きな箱の反対側から声がする。


「そっ…その声は蟹さんですね」


「今は出動中じゃないから志緒でいいよ」


 俺が声を掛けたのは捕縛課の同僚、[鉄巫女]初等部の五年生、藤花 鶴(ふじはな つる)だ。小柄な身体だが、身長の倍以上ある台形を縦長にした形の箱に、祈りを捧げる女性が描かれている武装[鉄巫女]を何時も背負っている。


「まっ…まだ慣れなくて、すっ…すみません。志緒さん」


「その内慣れるから、気にしないでいいよ。鶴ちゃんそれより、こんな処でどうしたの?鶴ちゃんの家は、一本手前の通りだったよね?」


「はっ…はい。きっ、今日は非番だったので、お友達のお家に遊びに行ったり、さっきまで公園で遊んでたんです。でも、疲れてしまってお休みしていました。コレ、結構重いですから…」


「そうだったね…。今のお家はどう?慣れた?」


「はっ、はい。お母さんも、近所の人達と仲良くなれて、良く笑ってます。」


「良かったね。あっ、そうだ。どら焼きあげるよ。出動、頑張ってくれたから。お母さんにもね。」


「そっ、それ、諏訪屋のですよね!ありがとうございます。さっそく、お母さんと食べます。志緒さん、さようなら〜」


 元気に手を振って鶴ちゃんは帰って行った。

 春休みの時、鶴ちゃんは事件に巻き込まれた。捕縛課が出動して解決した後、三右さんがスカウトして四月から捕縛課に勤務する事になり、一緒に働いている。彼女の武装は捕縛課の勤務に適していて、三右さんがとても喜んでいたらしい。

 鶴ちゃんと別れ、そんな事を思い出しながら路地を一本抜けて家に着く。玄関のドアを開けると、其処には三つ指をついて迎える妹の姿があった……。




「お帰りにゃさいませ、お兄様。御学業お疲れ様でしゅ」



 (そういえば、姫さんの写真、頼まれてたなぁ………)



「ただいま。甘子(かんこ)、これが頼まれてた写し……」


「うお――――ッ」


 妹がいきなり、襲いかかって来る。掴み掛かろうとした右腕を弾き、身体を入れ替えて足を払い、床に抑えつけ、頚元に腰から抜いた短刀を当てる。


「何しやがる!」


「ゴッ、ゴメン!つい、興奮して……意識が飛んじゃった。」


 謝る妹を放して、立たせてやり、手のひらにデジカメを置く。


「ほら、頼まれてた写真。十枚位しか撮れなかったけど、いいか?」


「有難う!志緒兄!見てもいい?」


「仕事中のと、さっき、諏訪屋で撮ったやつだよ」


「えーっ!私も諏訪屋行きたかったよ!そして、銀拳サンとア〜ンするの!」


「夏樹みたいな事言うなよ…」


「どんなの撮って来たのかな〜」


 そう言いながらデジカメを操作して、写真を見始めた。時折、「ウフッ」だの「キャッ」だの言っていた妹の動きが止まり震え出す。


「こッ、これは!!」


横から覗いて見ると、ビルの上で撮ったやつだった。朝日に照らされた姫サンが写っている。


「カッコイイィ―――――ッ!!何?この写真!輝く銀拳サン!美し過ぎるよ!」


「……甘子、鼻血出てるぞ?」


「ハアァ~ッ!?鼻血出して何が悪いの?(むし)ろ、この写真で鼻血出さない人類がどうかしてるよ!!」


(…太一。今、お前の気持ちが解ったよ………。一体何処で、間違ったんだろう?)


 鼻血を振り撒いて力説する妹を見て、悩んでいた友人を思い出していた。


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