~05午後(公課修練)
「みんな〜お疲れ様。翼、大丈夫だった?」
俺達が、エリアの出口に着くと、茜が声を掛けてきて、翼に近づき優しく頭を撫でている。中等部の時から翼が泣いた時の見馴れた光景に、志緒達は、ほっとして笑みが溢れる。
「いや〜流石に結婚祝いに、皆で考えた作戦〜効果抜群だったね〜双一朗」
「当然だ。抜かりは無い。」
「コレで、花婿に一勝をプレゼント出来たな」
「サンキュー。有り難く貰っておく」
友一の拳に俺と聖、双一朗が拳を合わせる。
それを見た太一達が此方に近づいてくる。
「参った。最初から、数で押し込む作戦だったのか? てっきり、夏樹を俺に当ててくると思ったら、聖が来るから驚いたぜ。双一朗」
「流石に、兄妹対決では、夏樹が飽きて時間稼ぎに成らん」
「お陰で、翼があのザマだ」
「太一〜一緒に諏訪屋行こう〜」
「仕方ねェ、今日はバイト休みだから良いぞ。ワリカン要員も必要だろうしな」
「やった〜助かるよ〜」
手を上げて喜ぶ聖に、皆で笑いだし、茜達の処へ歩き出す。まだ目が赤いが、大分落ち着いた翼の周りで、女子達が頭を撫でている。
「翼、今回は立ち直り早いわね?」
何時もなら、放課後位まで泣いている翼が、落ち着いてきている様子に疑問を感じ、茜が尋ねると、潤んだ瞳の翼が、両手をモジモジしながらうつ向く。
「しっ、志緒君達、諏訪屋で、どっ、どら焼き……ご馳走させて…くれるって……」
耳まで真っ赤になりながら答える翼に、茜は志緒達を見ながら溜め息を吐く。
(……みんな、美人に弱いんだから…)
翼は、透き通る様な白い肌に切れ長の瞳、黒いロングヘアを首の辺りから白いリボンで止めている。スタイルも良く、エリスと並んで高等部の人気女子上位に位置する。と、夏樹が言っていたから間違い無い。
茜はもう一度溜め息を吐くと、友一達に声を掛ける
「友一、私もいいかな〜?」
「あっ!私も行くよ!」
「…志緒?」
苦笑いをする男子達を置いて、茜達は第三エリアを後にした。
残りの時間を、武闘場内で個人練習やレポート組の質問に答えた後、クラスに戻り帰宅の準備をしていると、エリスが一人で俺達のクラスにやって来た。
「姫サン、どうした?」
「…報告書……まだ出してない」
「えっ?」
「…一緒に行ってほしい」
捕縛課では、通常、出動した場合の報告書は、撤収後に捕縛課で制作し、提出する。しかし、今日の様な早朝までの事件の場合は登園後、公課修練終了時までに制作して、提出するのが普通になっている。
エリスは、その時間に書き上げる予定だったのだろうが、諏訪屋に行く約束をしてしまったから、茜達より先に来て、報告書を提出してしまいたかったのだろう。
「いいよ。さっさと終わらせて、諏訪屋行くぞ」
「…ありがと。志緒」
少しうつ向きながら微笑むエリスに一瞬見蕩れてしまった…
帰りの準備を終えた友一達に、捕縛課に寄るから先に行くよう伝えると、エリスと二人、業務棟に歩き出した。
業務棟は、九つあるビルの正面から見て左側の建物で、二階に捕縛課がある。その他にも防災課や情報管理課、司法課など都市を管理する多くの部署がある。高等部はビル群の三列目の真ん中だから、どうあっても二つはビルを通過しなくてはならないから結構距離がある。
二人で通路を歩いていると、すれ違う生徒がチラチラとエリスを見ている。この学園は基本的には初等部からのエスカレーター方式なので、高等部から編入したエリスは、本人の容姿もあるが、珍しいのだろう。
業務棟に到着し、二階の手前にある捕縛課に入る。
「おはようございます」
「…おはよ」
「おーっ、おはようさん」
「おはよう。蟹、銀拳」
室内に入ると捕縛課課長の三年生、夏目三右さんと、双子の妹、副課長の三左さんが、お茶を飲んで何か話していた。エリスは急いでデスクに座り、書類を書き始める。それを横目で確認して、二人の処へ向かう。
「まだ、お二人しか来てないんですか?」
「そうなんよ〜昨日、出動あったから、出たメンバーは非番にしたから君らと、鉄巫女は休み、後何人かは欠席。初等部と中等部、高等部一年はまだやし、二年は巡回。三年はウチと三左以外は商業実技や」
三右さんは椅子にふんぞり返り、手をヒラヒラさせている。そんな三右さんを三左さんは、クスクスと笑って俺達にコーヒーを入れながら、今朝の出動で取り逃がしたSSSの詳細を教えてくれる。
「此方が調べた限りでは、│SSSの[死角]、村沢大介の三つの学園で共通する犯罪は、都市内の企業の情報を盗み出す、産業スパイをメインに活動していて、今回はビル街の医療機器企業の技術を狙ったと思われます。配下のCクラスは二十七名は鉄巫女が拘束しましたが、死角は逃走、技術データは無事でしたが、街に被害がでました。防災課の迅速な対応で半焼二棟、死者無し、負傷者三名です。」
「捕まえた奴等から情報は?」
「鉄巫女が吊るしましたけど、何も……」
「多分、また現れるでしょう。この手の奴は懲りないですから。」
「防災課と協議して、巡回人員を増やしましょう。」
「とりあえず、それで十分だと思います」
三左さんと今後の対応を話していると、三右さんに報告書を渡したエリスが小走りでやって来た。
「…行こう。志緒」
三左さんにコーヒーの御礼を言って捕縛課を後にする。エリスは早く諏訪屋に行きたいのか、既に廊下を歩き出している。急いで追いつき、業務棟から職員棟の正面玄関を抜け、ゲートに向かって二人で歩き出す。少し先を歩くエリスは、機嫌が良さそうで、銀髪が軽やかに揺れている。暫く眺めていると、クルッと振り返り、笑顔を向ける。
「…二人で帰るの久しぶりだね」
「そういえば、そうだな……入園式の時から野次馬が凄かったからな」
一学期が始まった二週間前は、エリスの周りには絶えず人垣が出来ていて、質問攻め。入部の勧誘に始まり、各公課、商業系からも勧誘の嵐。エリス(美少女)に入ってもらえば、人員増加、収益UP確実となれば、皆必死だった。告白の件数も大学院から中等部、商店街の八百屋のオヤジにまで言われる始末。それが落ち着いたのは、一人の大学院生が余りに執拗に付き纏い、エリスが拒絶の意思を伝えると、エリスの周りにいた中等部に八つ当たり、怪我をさせ、それに怒ったエリスに吹っ飛ばされてからだ。今では勧誘も告白も減ったが、中等部では助けられた生徒がファンクラブを設立し、当初よりコアなファンが増えている。………ウチの妹とか。
「…フフッ。そうだったね。」
「もう少しすれば、もっと落ち着いてくるよ」
そんな話をしていると、ゲートの向こう側の発車場に友一達が待っていてくれていた。
「待ちくたびれたぜ」
「ほら、電車、発車しちゃうよ」
「志緒君。早く行こう」
「皆、待たせたな」
「…ありがと」
「聖、いくぞ!」
ゲートの管理室で警備課の大学院生と話していた聖が慌てて此方に走って来る。
「あっ、待ってよ〜。楓さん、また明日〜」
路面電車は、発車の鐘を鳴らし、ゆっくり動き始めた。車窓から見える街並みは傾き掛けた太陽の光を浴びて綺麗に思えた。
十分程電車に揺られ、商店街入口で下車する。諏訪屋は大通りに面した東側にある瓦屋根の和菓子屋で、餡子菓子が評判の人気店なので平日でも客で混み合うのだが、運良く座敷テーブルが空いていたので、店員さんに誘導され、ゾロゾロと上がる。
奥から時計回りで友一、茜、太一、聖、夏樹、エリス、俺、翼、双一朗の順に座り、店員さんはお冷やを置いていく。
「なに頼む〜俺はね〜白玉餡蜜と草餅〜太一は〜?」
「俺は葛きりと水饅頭」
「うわっ、プルプル系かよ! 太一、家でもゼリー食ってるでしょ! 信じられない! アタシは、お汁粉と葛餅!」
「お前達、兄妹揃ってクズだな。俺は桜餅を六つと桜茶」
「六つ!? 双一朗よくそんなに食えるな? 俺はどら焼き二つ」
「……生クリームどら焼き三つ」
「私はどら焼きとうぐいす餅。友一は?」
「イチゴ大福二つ」
「私は……DXどら焼き七個と、三個テイクアウトでお願いします」
「「「「「「「「七個!?」」」」」」」」
「どうしたの翼ッ! いつもは、十個位、楽勝でしょう!! どうしょう、茜!」
「そうだよ〜翼〜」
「…あたま痛い?」
「馬鹿か? お前ら。しっかり、十個頼んでるではないか? 恐らく、ダイエットだろう。七個食う時点で既にアウトだがな。」
「双一朗、もっとオブラートにいこう。なあ、友一?」
「太ったのか?」
「ストレートだな!」
店員さんは笑いを堪えながら注文を受け取り、戻って行く。隣をそっと見ると翼が見る見る赤くなっていく。また泣く前にフォローした方が良いだろう。
「翼は細身だから少し脂肪がついても問題無いだろう?」
「ククッ…まさに、脂肪フラグだな、志緒」
「俺、少し位太ったって気にしないよ!…って言っても実際に太ったら冷たくなるのよ! 女の敵ッ!」
「……オニ」
(あれっ? 何故か俺、責められてる?)
「志緒〜頑張って〜」
「〜〜〜〜クッ」
店員さんが注文した和菓子を運んで来るまで俺は責められ続け、誰も助けてくれなかった。
世の中そんなに甘く無い………。