そんな非王道
魔王がどうの、魔物がどうのといわれて幾ばくか。
勇者がどうの、英雄がどうのといわれてやはり同じく幾ばくか。
人間に、悪を押し付けられて幾ばくか。
【下界、勇者召喚なう。】
主に魔物の住むここ、魔界とも、主に人間の住む下界とも違う、所謂異世界から取り入れ、この世界風に改良した魔導式携帯電話。
スライド式、またはタッチパネル式(iPhone式ともいう)が魔界の主流で、発案者な俺は両タイプを所持しているが、今手元にあるのはスライド式だ。
そして同じく異世界から取り入れたツイッターならぬ現事〈うつつごと〉、略してうつごとに追加された新メッセを見、うんざりする。
「いい加減、面倒だ」
思わずぼやいたところで、誰も俺を責めはしないだろう。
先週、先々週、一月前、半年前、一年前、一年一週前、二年前、二年三日前。
それぞれ別の勇者が召喚、トーナメント、異世界トリップ等々、様々に仕立て上げられ、続々と俺を筆頭とした魔族、魔物と称されるモノを狙う。
いつの頃からだったかなど当に忘れたが、兎も角延々それの繰り返しだ。
初期の勇者らはそこそこに骨があった。
力を持つことにより、争いを好む質の俺達も、当初はスリリングな戦ゴッコとして楽しんだものだ。
しかし、ゆとり某のおかげか知らないが、近頃の勇者とやらはとんと弱くなった。
それから変わり者が増えた。
テンプレ勇者は魔王だの何だのと俺を祭り上げる割にはここまでたどり着かない。
まず雑魚が倒せない。
終いには俺の部下の部下の部下くらいの一班長を魔王、つまり俺と勘違いする。
その癖、登場回数がやけに多い。
これらをあしらうのが面倒で面倒で仕方がない。
そして変わり者逹。
召喚され、速攻で逃げ去り悠々自適に暮らす者。
適当な魔物を狩り勇者としての功績を作り上げ、姫巫女を嫁にしたり、皇子の嫁になったりで、真相は闇の中、な者。
同性に走り騎士や国主といちゃつく者。
魔王にジョブチェンする者。
国を乗っ取る者。
俺の元まで辿り着き、何故か忠実な僕となった者。
因みに余談だが、魔界には【召喚・トリップ被害者の会】なる会があり、勇者召喚、トリップにより死線を強いられた者、召喚された、トリップしたはいいが何の力も無く捨てられた者、魔王だと思われていた魔物を倒し、挙げ句脅威として処分されかけた者等々異世界被害者が所属。
日々助け合い、愚痴り合い、平和な毎日を過ごしている。
とはいえ、ここに居着く勇者はほんの一部で、大半は俺が元の世界へ帰す。
だが、ここが気に入ったらしい勇者逹は会合やら遊びに来たいやらと電話で俺を呼び出し、送迎係 に命じて下さる。
人を何だと思っているのやら。
閑話休題。
大分筋がずれたが要は、またも勇者が現れた、ということだ。
洒落にならん。