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第一話 分け前(二)

◆ ◆ ◆


僕らは鬼のように働いた。


正確に言おう。──ほぼ全員が、鬼のように働いた。


僕は自分の列と、佐藤さんちの末っ子ミキの列の半分を受け持った。ミキは七つで、手のひらが栗二つぶんしかないのに、休もうとしないのだ。カットは全部の列を同時に行ったり来たりして、建前では自分の袋を詰め、実際には水と励ましと、ポケットのパンのかけらを配って回った(かけらはミキの口に入った)。健太と年長組は、誰が一番早く詰めるかで張り合っていた。見栄というのも、使いようである。ふだんは殴り合いしか能のない双子のノブでさえ、枝を棒でぶっ叩くと栗の雨が降ることを発見して、驚くほど役に立っていた。


そして、五郎ごろうがいた。


五郎のことは、みんなが好きだ。これは最初にはっきりさせておきたい。十歳、よく膨らんだパンのようにまんまるで、谷いちばん人にうつる笑顔の持ち主で、そして「仕事のないところ」に常にぴたりと居合わせる、超自然的な才能の持ち主である。悪いやつではない。ただ五郎は、僕らのとは少しだけ違う世界に住んでいるのだ。そこでは何もかもが、たぶん昼寝のあいだに、ひとりでに丸く収まることになっている。


一時間目。五郎は栗をおよそ二十個拾い、六個食べ、「生の栗は悲しい木の味がする」と宣言して、「袋の見張り」に座った。


二時間目。五郎は蝶を見つけた。


三時間目。五郎は石垣にもたれて口を開けて眠り、双子のノブが交代で、鼻の穴に草の茎を差し込んでいた。


僕はそれを見ながら、書きつけていった。それが僕の仕事だからだ。耳の後ろの鉛筆で、帳面に、名前ごとの欄。詰めて縛った袋の数。健太、4。僕、3.5。カット、2(カットでなければ4は詰めていた。だがそれならミキは最初の1袋を詰められなかった。この差をどっちの欄に書けばいいのか、僕には分からない。この勘定も合わない。──今日はこれで二つ目だ)。ほかの連中、1から3のあいだ。


五郎──0。


本人と同じ。まんまるのゼロである。


太陽が山の稜線に触れたとき、詰めて縛って石垣に寄せた袋は二十六。栗林は、掃き浄めた庭のようにきれいになっていた。十二人の子どもは、指はイガだらけ、腰は曲がりっぱなし、ぼろぼろになって、勝ち戦の軍隊の誇らしさで、あの袋の城壁を眺めた。


いや、訂正。ぼろぼろの子どもは十一人。それと、騒ぎで目を覚まし、袋の山を見て、こう言った五郎。


「いやー、俺たち、よく働いたなあ!」


誓って言うが、双子でさえ何も投げつけなかった。五郎に腹を立てるのは不可能なのだ。そしてまさにそれこそが、当時の僕にはまだ計算できなかった、問題の核心だった。


   ◆ ◆ ◆


ウメおばさんは、もう火の入った提灯を提げて袋を数えに来て、分け前の勘定を声に出してやった。寄り合いから銭袋を預かるというのは、そういうことだからだ。


「二十六袋……買付人さんは袋ひとつ銅貨一枚……で、決めたとおり、働いた子にはひとり頭三枚、残りは村の共有へ、と」おばさんは開いた手のひらの一つ一つに小さな銭を載せていき、銅貨が銅貨に当たるチャリンという音は、僕らが生まれてから聞いたいちばんきれいな音だった。「健太、三枚。ヨウタ、三枚。カットちゃん、三枚。ミキ、三枚──あんたはこれにはちっちゃすぎやしないかい? いいよいいよ、あんたにも三枚、当たり前だろう……」


そして、五郎の番になった。


五郎はみんなと同じように手を開いていた。その顔に恥の影は一片もなかった。恥じるためには「悪いことをした」という自覚が要る。そして五郎は、正直なところ、自分は参加したと信じていたのである。


ウメおばさんは迷った。手を見た。鼻からまだ草の茎をのぞかせた、五郎のまんまるの顔を見た。そして僕には見えた。二たす二が四だと見えるのと同じ明晰さで──おばさんの目の奥で、あの台詞が組み上がっていくのが。口に届くより先に。


「ああ、五郎や、かわいそうに」おばさんは言った。「この顔を見て、手ぶらで帰せるもんかい。それにほら、あんたたちは大勢で、この子はひとりなんだから……ほら、まんまるちゃん、あんたにも三枚。この話はおしまい」


チャリン、チャリン、チャリン。


「ありがとう、ウメおばさん!」──昼寝に賃金が払われた者だけが浮かべられる、あの幸福の顔で五郎は言った。


そして、この話はおしまいになった。つまり──誰もそれ以上しゃべらなかった。当然ながら、僕を除いて。


「ウメおばさん。その勘定、間違ってます」


こおろぎまで振り向いた気がする静けさが落ちた。


「……なんだって、坊や?」


「五郎が詰めた袋はゼロです」僕は、例の欄のページを開いた帳面を掲げた。「記録があります。一時間目にばら栗を二十個、うち六個は本人が食べました。以後、なし。四時間眠っていました。いま五郎に渡った三枚は、ほかのみんなの仕事から出ています。駄賃は『働いたら』であって、『居たら』ではないはずです」


怒りは込めなかった。本当だ。瓦は四十七枚割れています、と言うのと同じ言い方で言った。──だって、そうであるものは、そうなのだから。


ウメおばさんは目をぱちくりさせ、それから、僕が帳面を見せたときに元村の大人が全員やることをやった。笑ったのだ。優しく。──優しいのが、いっそたちが悪い。


「まあまあ、このヨウタときたら! 坊や、面白いことを言うねえ。じゃあ何かい、五郎だけ手ぶらで、みんなの銅貨を眺めながら帰れって言うのかい? どんなにしょげるか! 銅貨三枚だよ、坊や、国一つやるわけじゃなし。人には心ってものがあるんだよ」おばさんは僕の頭をくしゃくしゃと撫でた。大人が会話を打ち切るときの公式の作法である。そして提灯を持ち上げながら、付け加えた。「大きくなったら、分かるよ」


大きくなったら、分かるよ。


いつか帳面を一冊まるごと使って、この台詞を言われた回数だけを記録するつもりだ。もう一冊には、大きくなって実際に分かったことを記録する。それで両方の欄を突き合わせる。──この勘定も合わない予感が、すでにしている。


ほかの子たちは肩をすくめた。握りこぶしの中で三枚の銅貨がぬくもっていて、銅貨三枚を握っていれば、世界はまずまず良くできて見えるものなのだ。五郎は僕に、恨みの影もなく笑いかけ──五郎は恨むということができない──駄賃を握って、跳ねるように坂を下りていった。


カットだけが僕の横に残って、首をかしげてこっちを見ていた。僕を読もうとして、言葉が通じないときの、いつもの顔で。


「五郎のこと、怒ってる?」


「いや」──本当だった。五郎は嘘をついていないし、騙してもいないし、盗んでもいない。五郎は水がやることをやっただけだ。低いほうへ流れたのだ。「五郎には怒ってない」


「あのね、その……」カットは前掛けの端をねじった。「五郎んち、毎日は朝ごはん食べられないんだよ? みんなが持ってて自分だけ持ってないときの、あの子のちっちゃい顔……ウメおばさんは、いいことしたと思うんだ」


「今夜のところは、いいことだった」と僕は言った。「支払いは、明日だ」


「……明日?」


僕は上の栗林を指さした。東の斜面の、小さいほうの林。まだ実をつけた枝が、夕方の最後の青にくっきり残っていた。収穫の三分の一があそこに残っている。そして芦屋の買付人は、二日滞在する。


「明日はあれを採りに登る。同じ駄賃、同じ約束で」僕は帳面を閉じた。「──見てなよ」


カットは上の栗林を見て、僕を見た。その顔には、二つの話がどうつながるのか分からない、と書いてあった。責めはしない。ある種のことを起こる前に見るには、生まれてからずっと数え続けている必要がある。そしてカットは、その人生を別のことに使ってきたのだ。──ポケットの中身を配ることに。


このときの僕はまだ知らなかった。のちの僕の人生が、どれほどこの「違い」に救われることになるのかを。


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