⑧停電オバケ
事件が起こったのは、ミカちゃんとショウタ君がおやつを食べ終わってからのことだった。
突然、窓越しに、すごいイナズマが走った。
“ピカ”
すぐ近くに、カミナリも落ちた。
“ドドド…… ”
ミカちゃんとショウタ君は、
「ヒィッ」
と驚き、固まってしまった。
“プツン”とライトが消え、子供部屋が真っ暗になったのは、その直後だった。
停電になったみたい。
「お、お姉ちゃん……」
と、思わず口にしたショウタ君は、おびえながらミカちゃんに抱きついた。
「だ、大丈夫よ。机の引き出しの中に、懐中電灯があったはずだから……ショウタ、はなしてよ。取りにいけないじゃない。
「だってぇぇぇ……」
そのときだった。
表を走る車のヘッドライトが、窓ガラス越しに入りこんで、部屋の中を照らした。
突然、ヒューンと、足元まで伸びてくる黒い影。
ヒッ、と固まる全員。
握りこぶし。
冷や汗。
震えるくちびると体。
やっと、机上の電気スタンドの影と気づき、一息ついたのもつかの間。
あれは、なに?
「ヒッヒッヒッ……」
て、不気味な声……。
息を飲んだミカちゃんとショウタ君も固まっているみたい。
一度気になりはじめると、もうとまらない。
時計の音も、風の音も、全てがオバケの声に聞こえてしかたない。
ミカちゃんは懐中電灯を取るため、あわてて机にむかって走ろうとした。
でも、あせっていたので、忘れていたのね。
ショウタ君が抱きついていることに。
ミカちゃんはバランスをくずし、机の脚に、自分の足をぶつけてしまったみたい。
「イタッ」
ミカちゃんが思わず叫ぶと、ショウタ君が泣きそうな声でたずねた。
「お姉ちゃん、どうしたの?」
「足ぶつけたの。あんたのせいよ」
ミカちゃんは、足をさすりながら涙声になった。
そりゃ、痛いわよ。
思い出して、わたしも涙目になりそう。
「ごめんなさ~い」
ショウタ君は、今にも泣きだしそう。
今度はウソ泣きではないはず。
そのうち、表の車もとだえてしまったのか、部屋の中がまた、真っ暗になってしまった。
「あ、これじゃ何も見えない。懐中電灯取りにいけないよぉ」
ミカちゃんも不安そう。
「どうしようどうしようどうしよう……」
その言葉を繰りかえすだけ。
わたしには、
「もうだめもうだめもうだめ……」
て、聞こえてしょうがない。
そんなときは落ち着いて、深呼吸でもすれば、案外いいアイデアがうかぶものなのにね。
な~んてね。
他人のことになるとよくわかるのに、わたしも何度あせって失敗したことか。
その時だった。
あ、あの明かりは……?
ミカちゃんも気づいたみたい。
後ろを振りむいた。
そこではなんと、子雲が小さなカミナリを落としていた。
“パチパチパチ” って。
そのたびに、部屋の中がぼんやりと見えた。
「あ、お姉ちゃん、見えるよ」
ショウタ君もうれしそう。
「うん」
ミカちゃんには、ショウタ君の声が運動会のピストルの音に聞こえたのかもしれない。
『よ~い、バン』
てね。
机まで走ったミカちゃんは、引き出しをあけた。
ところが……。
「ウソ。どうして懐中電灯がないの?」
その上……。
うしろの明かりがどんどん薄くなっていく。
どういうこと……?
気づいたミカちゃんも振りかえった。
そこでは、子雲が必死でカミナリ⚡を落としている。
が、そのカミナリ⚡の光はとっても薄かった。
それでも、子雲は一生けんめい、がんばっている。
ウーン、ウーンって。
「チビ、もう少しだから頑張って」
ミカちゃんは、祈るようにつぶやいた。