⑨子雲のダンス
ミカちゃんはパニックになった。
ショウタ君と2人きりで留守番をするのも初めてなら、停電も初体験。
こんなに懐中電灯が大事なものだと思ったことがない。
子雲が落とすカミナリの薄い明かりを頼りに、ミカちゃんはほかの引き出しも開けていく。
でも、懐中電灯は入っていない。
そこへ、ショウタ君の声が聞こえた。
「お姉ちゃん、チビが……」
驚いたミカちゃんが、振りかえった。
子雲のカミナリがさらに薄くなっている。
今にも消えそう。
「 あ、待って待って!」
あせったミカちゃんは、ショウタ君のオモチャ箱に足をひっかけて、転んでしまった。
「イタッ。もッ!」
ミカちゃんは自分に怒っているみたい。
でもすぐに、それどころじゃなくなった。
床に、たくさんのおもちゃが転がっている。
その中に、おもちゃじゃないものがひとつ。
「あ、懐中電灯があった」
ミカちゃんはあわてて懐中電灯を手に取り、スイッチを入れた。
ミカちゃん、やったじゃない。
あんたは偉い。
ショウタ君もうれしそうに、
「あ、明るくなったぁ」
とよろこんでいる。
ミカちゃんは、あわてて振りかえった。
懐中電灯の明かりに気づいていない子雲は、まだ必死にカミナリ⚡を落とそうと頑張っている。
でも、カミナリはほとんど出ていない。
ミカちゃんがあわてて、
「チビ、もう大丈夫だから……」
て言うと、子雲は力つきて、フワフワと下りはじめた。
「あッ……」
子雲を受けとめようと、ミカちゃんが手を差しのべる。
でも、子雲の体は、ミカちゃんの掌を通りぬけてしまった。
床に下りた子雲は、疲れきって眠ったみたい。
寝息が聞こえてきそう。
スヤスヤ、というより、ヒューピー、ヒューピー、て感じかな。
ショウタ君か心配そうに、
「お姉ちゃん、チビ大丈夫?」
と訊いた。
すると、ミカちゃんが、
「うん、ちょっと疲れただけよ」
と笑顔で答えた。
あたたかな明かりに見まもられながら、子雲は安心して眠っている。
気持ちよさそう。
今まで気づかなかったけど、明かりって、お母さんの温かさに似ているのかも……。
それから、ミカちゃんとショウタ君は、しばらくの間、子雲の寝顔を見ていた。
チビ、よくがんばったもんね。
あんたもえらい。
きっと、ミカちゃんとショウタ君も同じ気持ちなんだと思うわ。
でも、そこはまだ5歳のショウタ君、タイクツで飽きたみたい。
「お姉ちゃん、チビはいつまで寝てるのぉ?」
「さあね……」
いくらお姉さんだからって、そこまではわからないわよね。
「おもしろくないよぉ」
ショウタ君は口をとがらせている。
「あ、そうだ」
なにかを思いついたミカちゃんは、おもちゃのピアノを取りだした。
そして、知っている童謡を片手で弾きはじめた。
そう、ミカちゃんはピアノを習っているの。
それから、しばらくして……。
『あら、あんた、起きたの?』
目を覚ました子雲は、少しの間、ミカちゃんが弾くピアノの音を聞いていた。
でも、じっとしていられなくなったのね。
子雲は宙に浮き、楽しそうに踊りだした。
え?
子雲のダンスはどうかって?
ん~……。
なんて言ったらいいのかなぁ……?
かわいいけど、ちょっとおかしいの。
ていうか、すごくおかしいの。
笑っちゃうくらい。
だって、どこが頭で、どこが体かよくわからないでしょ。
一部が出っぱったかと思うと、ほかの部分が引っこんじゃったりして……。
ただ、体がモゴモゴと動いてるって感じなの。
子雲は得意そうに踊っているんだけど、ダンスの才能もないみたい。
でも、子雲には内緒にしておいてね。
だって、また拗ねられたらタイヘンだから。
おねがいよ。
それからしばらくの間、ショウタ君と子雲は、ミカちゃんが弾くピアノに合わせて、たのしそうに踊った。
懐中電灯の温かな明かりに見守られながら。




