⑩ショウタが“死”の意味をわかるとき
温かな懐中電灯に照らされながら、ショウタ君と子雲は、ミカちゃんが弾くピアノに合わせて踊っていた。
ところが、突然、ショウタ君が、
「あ!」
と声をあげた。
やっと、子供部屋のライトが点灯したからだ。
「お姉ちゃん、ライトがついたよ」
と、ショウタ君が教えると、ミカちゃんも、
「うん」
とうれしそう。
そこで、ショウタ君はいいことを思いついたみたい。
「あ、そうだ。チビ、写真見せてあげるね」
ショウタ君はアルバムを取りだし、床で開いた。
そのページの写真には、パパとママとおばあちゃん、それにミカちゃんとショウタ君が写っている。
それから、ミカちゃんの腕の中で、おもしろくなさそうにそっぽを向いているのが、ノラネコのわたし。
あぁ、あの時の写真かぁ。
それにしても、わたし、なんてかわいげがないの。
こんなことなら、笑っとくんだったわ。
もう……。
ショウタ君が子雲に、写真の中の人たちを紹介していく。
ひとりひとり、指さしながら。
「これがぼくで、これがお姉ちゃん。それからパパとママとおばあちゃん。おばあちゃんは今入院しているんだ。最後がオバサン。でもオバサンは死んじゃった……ん、あれ……?」
ショウタ君はなにか気づいたみたい。
「オバサンも死ぬ前に動物病院に入院《人》してた。もしかしたら、おばあちゃんも死んじゃうのかなぁ……?」
死ぬ意味がよくわかっていないショウタ君。
それでも、なにかフシギに思ったのね。
そのときだった。
ミカちゃんがあわてて、アルバムを取り上げた。
「ショウタ、オバサンのことは言わないって約束したでしょ」
なぜか、ミカちゃんは怒っている。
ショウタ君は口をとがらせて、
「どうして、オバサンのことを言っちゃいけないの?」
そうよね。
今のショウタ君に、わかるはずないわよね。
「パパとママとおばあちゃんが心配するからでしょ」
でも、8歳のミカちゃんにわかるのもフシギなぐらいよ。
「どうして、パパとママとおばあちゃんが心配するの?」
いつものショウタ君なら、ここまでしつこく訊かないのに、今日はちょっと違うみたい。
どうしたんだろう?
なにかがひっかかっているって感じ。
答えるミカちゃん。
「どうしてもよ。わたしたちはオバサンがいなくても平気なふりをしなきゃいけないの」
「どうしてオバサンがいないのに、平気なふりをしなきゃいけないの?」
あれ?
ミカちゃんが唇をギュッとむすんで、戸惑っているみたい。
それでも、なにか決心したように、口を開く。
「オバサンは死んだからよ。もういないからよ」
ミカちゃん、怒っているの?
「お姉ちゃんはオバサンがいなくても本当に平気なの?」
ショウタ君から質問されたミカちゃんは、ハッとおどろいたような顔になった。
「わたしは……」
そう言いかけて、唇をかむ。
それでも、ショウタ君をにらんで、
「オバサンがいなくなっても平気よ」
と言いきった。
わたしとしてはちょっと寂しいけど、ミカちゃんはもっと悲しそう。
ミカちゃん、本当にどうしちゃったの?
ショウタ君も、
「ちがうもん。オバサンはチビになったんだもん。パパがそう言ったもん」
と口をとがらせて、怒っている。
やはり、わたしの死について、なにかわかりかけているのかな?
わかりかけているからこそ、認めたくなくて、意地になっている気がするんだけど。
もし、わたしの死について理解できるようになったら、ショウタ君の心はどうなるの?
だって今、おばあちゃんだって入院しているのに……。
わたしが死んだことで、ショウタ君はこれだけ動揺してるんだもん。
本気で、おばあちゃんも死ぬんじゃないかと思ったら、きっと不安でたまらなくなるわ。
パパもママもいないっていうのに、どうしよう?
すると、ミカちゃんがついに叫んだ。
「パパはわたしたちに心配かけないために、オバサンはチビになったって言ったにきまってるでしょ。どうしてそんな簡単なことがわからないのよ」
ミカちゃんから叱られて、ショウタ君も悲しくなったみたい。
「じゃ、お姉ちゃんは、オバサンと同じようにおばあちゃんが死んじゃっても、《へいき》平気なんだね。お姉ちゃんのバカー!」
ついに、ショウタ君は泣きだしてしまった。
本当に悲しくて悲しくてたまらないって感じだ。
少しだけど、ショウタ君も死の意味を、わかるときがきたのね。
きっと、わたしのせいなんだ。
ごめんなさいね、ショウタ君。




