第12章 ① 旅は道連れ、情けをくれよ!
第12章 ① 旅は道連れ、情けをくれよ!
「天気晴朗なれども波高し。」
これを今ふうに言うと、
「天気めっちゃいいけど、風めっちゃ吹いて波浪警報出てたから、沖はしけってるよね。(酔い止めは持ってるからウチらにワンチャンあるよね!)」
って意訳できると思う。
そんなどうでもいい事をついつい考えてしまうのは、何故か船に乗せられたかと思いきや、天気の割にしける海に船酔いをしているからである。
船の端で、吐いて、耐える。吐いて、耐える。を繰り返し、胃の内容物を海へと散布していく。
参考までに言っておくが、酔い止めを持たずに船に乗るなど愚の骨頂。あえなく撃沈されるのがオチである。
つまり、これらの経験から準備不足の情報不足の外部からの来訪者が、意気揚々と船にのってはいけないという教訓を得たわけだ。やはり、先人の言う事は聞いた方がいい。
「ねえ!見て!島が見えてきたよ!」
無邪気に盛り上がるヒカルに返す元気はない。そしてここで気になるのは、なぜ彼女にその教訓が当てはまっていないのか?
彼女はリッチなのだ。当然船に乗ってクルージングくらいはする。ようは経験の差なのだ。
「おお、なんかナメクジ食らったロンみたいだな。」
魔法学校を舞台とした、かの映画をだしに、皮肉を言ってくるマル(フォイ)に対しても返すことができないのは、痛恨の極みだ。
しかし、もうじき下船とあれば、青ざめた顔もじきに戻るだろう。
これほどまでに大地を待ち焦がれ、感謝したことはない。
「土から離れては生きられない」と言ったシータは正しかった。
「もう着いたらすぐに案内してくれるように手筈を整えてるからな。」
黒猫は偉そうにも猫用キャリーバックから指示を出す。あくまでも荷物扱いのくせに、態度のデカさは通常運転だ。
「じゃあ、私がマル君のキャリーバック持つから、カケルは他の荷物よろしく!」
仲直りしたはずが、やはり部下であることには変わりないらしい。それでも奴隷よりは一兵卒の方がいい。
あのチョーカーがないのはやはり大きな救いだ。あれは精神的にダメージが大きい。
それでも、残された荷物がキャリーバック二つに、黒のレザーバックを持たされてる、この遣る瀬無さはどうしてだろう。
「おーい。遅い!早く早く!」
手招きするくらいなら、分担を!と叫びたい気持ちを押し殺し、上官の命令に従う。
「了解。」
船着場に着いた船から、階段を使って降りるが、
ここでも気遣いはなく、重い荷物を運ぶ自分も見つめるだけの二人だった。
防潮堤もなく、天然の入江にコンクリートを海に突き出しただけの船着場。この小さな港の周辺には小屋があるのみで、民家も近くには見当たらない。
後で聞くに、島の中心街は船着場より少し離れた所にあるらしく、ここの島民はその近辺に住んでいるらしい。
海は透き通っており、向こうに山があるこの島は自然は沢山ありそうだ。かえってそれ以外を発見する方が難しいが。
船着場から見える立て看板には「ここより野生動物頻出!注意!」とあるが、もはや、野生動物が頻出しない所の方が少ないだろう。
なんなら、この島では人間のテリトリーより、自然動物達のテリトリーの方が大きい。
いっそのこと、看板の向きを船着場に向けてではなく、森へと方向を変えて、「人間出没可能性あり!遭遇注意!」にしてやった方が、数の割合でいったら費用対効果あるんじゃないかと考えてしまう。
無論人間の言語が通用すればの話だが。
上陸してすっかり気分が舞い上がっているのか、
マルは敵陣攻略を任された軍曹のように兵士達に激励を送るらしい。
「よぉし!いいかお前達。よくここまで耐えてきたな。偉いぞ。しかし、諸君は疑問だらけだと思う。だからと言って安易に他人に答えを求めるのは人間的成長を妨げる!そうは思わないか!」
マルは二人に問いかけているので、自分は適当に頷いて話を続けさせる。
「そうだろう。兵士には観察眼と思考力が重要だ。そこでだ!ここでの任務は何だと思う?中森一等兵!答えろ!」
何でずっと軍隊仕様なのかは不明だし、階級が低いのも不満なので、テキトーに返す。
「えーと、ここで無神論者を改宗させるとか?」
「違う!お前はただ俺の命令を聞いて、敵が来たらそれに目掛けて銃をぶっ放し!そしてGO!と言ったら突撃しろ!」
今なら怒鳴り声の風圧で飛ばされる気がする。全く、いつの戦争映画を見て影響を受けたのか知らないが、会話になってない。ただ軍人ごっこで遊びたいだけらしい。疲れてるところにこのノリはキツイ。
「では、三上少佐はどのようなお考えで?」
ちゃっかり三上は少佐らしい。あいつは佐官クラスで、こっちはあからさまに階級が低い。忖度政治反対!
「えーと、ね。孤島で殺人事件を解決するミステリーツアーとか?」
うわー。狂気。どうしてここで人が死ななきゃいけないんだ。
てかその感じだと確実に台風来て、海が荒れに荒れるわ。
更になぜか外部との通信手段が破壊されるわの、クローズド・サークル状態になる。
その後間違いなく俺らの誰かが犯人に殺されるパターンだろ、それ。
これは流石にありえないとマルも突っ込むだろ‥
「ですよね!俺も孤島と言ったら不思議巡り!ミステリーツアーですよね!アガサ・クリスティ万歳!」
はぁ。ダメだ。落胆の色を悟られぬように努めるが、マルにはガッカリした。
彼女に対しては歯切れが悪く、キャリーバックから出されて、彼女の腕に抱かれているマルはただの黒猫である。




