第11章 ② マルのお仕事 Ⅱ
第11章 ② マルのお仕事 Ⅱ
「おいおい、誰がこんなところに光ファイバー引くためにセールスしてくるんだよ。とんだおっちょこちょいセールスマンだ。」
「あれ?黒猫ちゃんじゃん!懐かしいね!いつぶり?百年ぶりくらい?の割に若くない?」
旧友である黒猫の姿を珍しそうに見回す彼女は、
ダボついたフード付きパーカーを着て、およそ神のようには見えない。
(胸にchurchと書かれているのは何か関係あるのだろうかと、思わず引っかかる。)
「それより。精神世界なのにポケットWiFiってネット環境あるのか?」
「ええ。もちろん。こうやって日がな一日をYouTubeとNetflixを見て過ごし、たまにSNSを覗くって感じね。」
「お!じゃあ、俺のインスタ更新手伝ってくれ!
ほら、映えるスポット、秘密の洞窟編だ!ほら、秘書さんのお仕事だぞ!」
黒猫に促された小倉は嫌々ながら、渡されたスマホで彼女と黒猫を画角に捉え、準備する。
「Prost!!」
二人の息のあった掛け声に合わせて写真を連写する。
「あれ?インスタやってる?それともLINE?」
「私はインスタ見るだけのアカウントあるの。LINEは妖精友達はやってないからないわ。」
「あ、そうなのか!どうりで友達一覧に出てこない訳だ。」
「いや、そもそも。電話番号なんてここ数十年だから知らないでしょ!何言ってんのよ!もう!」
旧友との再会に盛り上がる妖精と猫の姿を、興味深々に見つめる男と、呆れて物が言えないと冷めた目で見つめる男。
「あの、これって意味あります?特殊な方々が、世間一般の世俗の遊びに盛り上がってるところ悪いですが。」
スマホの画像を見せる小倉。そこには仲良く、可愛い女性が黒猫を抱き上げている姿が映っている。
「あら!いいわね!あとは少し加工したら完璧ね!」
「さすがだな。インスタ映えは加工してなんぼの世界。リアルとの差は暗黙の了解だからな!」
盛り上がってる妖精と猫を他所に除け者にされている男二人。さっきから興味深々だった三上が質問に出る。
「あのですね。さっきから仲良くされてるんですけど、そちらの方はどちらの神様で?」
「え?私!渡された神様じゃないよ!私は水の妖精。名前は‥何がいい?」
黒猫に聞く妖精はどうやら呼称が複数あるため迷っているらしい。
「どうせなら俺らが出会ったドイツ風が良いんじゃないか?」
「えー。嫌よ。あれって響きがよくないの。日本語の感覚からはダメよ、あの響きは。」
「なら、英語にすれば?」
「ああ、それなら良いわね。それじゃ改めて、私は水の妖精のアンディーン。ドイツ辺りを住処にしてたんだけど、コイツと縁あって知り合ってヤーパンを知ったわけ。そんで一度来てみたらあらビックリ!こんな住みやすいところはないは!ってなって移住してきたの!よろしく!」
シェイクハンズを求められて、二人は応じる。
「そういう訳だ。コイツとは莫逆の友ってところで、こうして久しぶりに会ったわけさ。」
「まったく久しぶりだけど、相変わらず山に住んでるの?ご主人は?」
「いや、もう降りた。さすがに前のご主人様は死んだよ。いつの話してんだか。間も挟んでるからな、俺もあれから転生回数は8回目だな(笑)」
「あら、どうりで毛艶が2才の猫だと思ったのよね。生まれ変わりって便利ね。若返るし。」
冗談も気にせず黒猫の体を撫でて毛並みを見つめる妖精。
「何言ってんだ。何回も年老いる苦労もあるってことだぞ?」
「フフッ、それは大変ね。」
「そんな事より、昔馴染みでお願いがあるんだ。」
「何?久しぶりに会ったと思ったらそういうこと?」
「ちょいと水回りの調整をして欲しくてな。妖精仲間にも手伝って貰えるか?」
水回りの調整なんて言い方だと、キッチン周りの蛇口トラブルを予感させるが、水回り違いだ。なあに、ダムも蛇口がデカイだけで大して変わらない‥のだろう。
「どうでしょう。対価次第じゃない?」
「それなら、どっちか好き方を選んでくれ、若い方と少し歳いってるやつだが、アジア人は見た目若いからな。これくらいが丁度いいと思ってな。」
どうやら妖精に捧げる供物として呼ばれたことが判明した二人は互いの顔を見つめ、逃げるかの判断を迫られる。
「あら。あなたに私の男の趣味がわかるとは思えないけど‥なかなか悪くないわね。左の彼は?」
指名された三上は穏やかではない。妻と娘を残して死ぬのは流石に想定外だ。小倉に目をやるが、彼は目を逸らしている。さすが彼に押し付けるのは酷なことかと、悩んでいると黒猫が助け舟を出す。
「あ!ヤバいわ。こっちは既婚者だわ!しかも子持ち。」
三上をじっくりと見分していると左手の薬指にある指輪を確認して、残念がる妖精。
「ちょっと、あんた、何考えてんのよ!こっちのルール忘れたの?不倫はご法度なのよ!」
「ごめん、ごめん。忘れてた。こっちの闇が深い方なら独身だから、好きにしていいよ!」
まさかの火の粉が降りかかってきた小倉は黒猫に憎悪の目を向けるが、黒猫は気にしない。
「あら、何か訳ありってわけ?そんなの嫌よ。もっとマシな対価はないわけ?」
「アンディーンの対価ってなると、なかなかいいたまは見つからないんだ。ここら辺で妥協してくれないか?」
小倉からすればすこぶる失礼な話だ。勝手に生贄にしようとして、勝手に価値が無いと貶されている。小倉にとって黒猫は厄災を招く使者に過ぎない。
「うーん。だったらさ、ネット通販がここに届くとようにしてくれない?私毎回、街の宅配便ロッカー使ってるんだけど、面倒で。」
この発言から解るように相当な無茶を言う妖精だ。どうやって精神世界に宅配屋を入れろと言うのか?ここにはクロネコも青い飛脚も赤いポストマンも配達不可能。いや、クロネコは同じ黒猫の縁で何とかなる‥わけはない。




