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第7章 ② 龍神伝説、秋の夜長はSNS

第7章の2 龍神伝説、秋の夜長はSNS



マルは単独行動、一匹狼(猫)の気質が出て、ここでも勝手に移動してしまう。自分も置いていかれまいと移動ポイントへ触れ、目的地付近の稲荷神社の祠に向かう。

ポイントから吸い込まれて移動すると、静謐な池のほとりへと辿り着く。

周りは雑木林で、池の周りには特質すべきものはない。しかし、池の水質はあまり褒められたものではないだろう。夕方で夕日もあんまり届かない薄暗い場所であるにも関わらず、水質の悪さは認識できるレベルだ。


「お、無事着いたな。龍神さまの祠はこっちだ。」

「なあ、ここの池やたらと汚れてないか?」

「ああ、なんでも、ここの池の水源である金上川はな、ダム開発もあって水量が減ってんだ。お陰でこの池に水が来ないって話だ。そんで濁っちまってる。ってことらしい。」


マルがちゃんと池の解説までして、祠まで案内してくれるなんて。ということは以前にも来てるのか!感心感心!ちゃんとロケハンまでするなんて意外とちゃんとしたツアーガイドだなと安心して付き従っていると、マルの足がじきに止まる。


「おっと、もう着いた?」

「ああ、着いた。」


前後左右に追加して、上下も見るが、着いたと言う割には周りにそれらしいものがない。


「え?どこ?見当たらないないけど?」


再度周りを閲し下にある石を避けて、地面も確かめてみるがどうにもわからない。


「下。今避けたやつ。」


マルが前足で指すのを見る。よく見ると祠らしき石が割れて転がっている。


「ぇぁ!こ!これどうすんの?」


転がった苔だらけの祠の一部をなぜか持ってしまう。持ったは良いが置き場所に困るという、我ながら愚行だ。


「焦るな。元々壊れてたんだ。入口はこっちだ。」


マルが誘導した白樫の木の根元には、確かに祠の下部分がある。


「そ、そしたら、ここら辺?」


それに合わせてそっと上の部分を近くに置いておく。


「それで、いいだろ。どうせ上に載せたところで、くっつく訳でもあるまいし。」


こんな結構テキトーでいいかはわからないが。これ以上施しようもない感じの損壊具合なのはもちろん自分のせいではないが、心苦しいのは確かだ。


「じゃあ、まあ、とりあえず龍神様のところへ。」

「ああ、言われなくともな。よし、この木だぞ。いいか?霊力を込めて、入るぞ。」


自分達は白樫の木に触れ、霊力を込めると、スゥーと、引っ張られるように、精神世界に招き入れられる。大抵はもっと、ガッ!ギュ!って感じなのに、

訪問者に優しい対応だ。因みに表現力が乏しいのは勘弁して欲しい。


「おっと!もう、水かよ!カケル。ヘルプ!」


と自分の肩に乗ってくる。確かに、水の冷たさがぴちゃぴちゃと当たる感覚がある。既にくるぶしほどまで水深があるようだ。

にしても暗がりのせいもあってか、今回の精神世界はやけに狭く感じる。洞窟の中は池になっており、天井から照らす僅かな光が中心にある石舞台を照らす。それを守るように、大蛇、いやおそらく龍神らしき影が見える。しかし、か細い光では、池の深さもわからない。


「これは泳ぐのか?この格好で?」

「ええ?どっか中心まで行ける道あるでしょ。」


基本水は苦手。との猫の本能がインプットされたマルも水に濡れるのは御免なようだ。


「道はありませんよ。慌てず私に乗ってください。」


見知らぬ物体がシュルル。と音を立てて、スルスルと水を浮いて進んでくる。

近くに来るとその物体の全貌が分かり、やはり大蛇であることが確定する。しかも白蛇。

これが龍神様かと少し腰が引ける。


「あ、ありがとうございます。」


龍神様は頭に乗るように、と頭を下げてくれるが、マルもルナに飲み込まれそうになったこともあり、かなり警戒してる。蛇に噛まれて朽縄に怖じるとはよく言ったものだ。


とは言え、自分も鋭い眼光に、シュルルとなる舌の音。鱗の一つ一つが恐怖を誘う。

おっかなびっくりで、飛び乗ると、龍神様は丁寧に石舞台まで運んでくれた。


「龍神様。手厚いご配慮に恐悦至極にございます。」


マルは古臭い言い回しで話す。やっぱり昔設定は守るらしい。


「ええ、久しぶりの来訪者に生贄かと思いましたが、その格好でしたので、食べるのはやめました。」


龍神様の頭をチラリと見るが、今とてつもなく瞳孔が開いた気がする。気がするというより、確定的事実として開いていた。本当はまだ食べる気なのでは?実はこのあとパクリと頂くんでしょ?と思えば、思うほど、顔色を失っていた。


「ええ。私どもはお願いの儀があり、こちらに参上させて頂いた次第にございます。」


「ほう、こんな寂れた祠に何用ですか?」


「実を申し上げますと、ツトメの課題を頂きたいと存じております。」


「そうですか!これは驚いた。このような名もなき神にもツトメの課題を求める者がいようとは!しかし困りました‥今の私では充分な霊力を込めることも叶いません。そのため証を差し上げたくても差し上げることができないのです。」


「そのようなこともあろうかと、不躾な申し出かと思いますが、私に一計御座います。どうか、この祠及び、神宿池(かみすいけ)の再建をお命じ頂けませんでしょうか?」


「ほう。あなた方土地神の神使と挑戦者が、この神宿池を再び輝かせてくれるというのですね?」


「ええ。もちろん‥正確にはあと二人おりますけども。」


「え?あと二人も挑戦するのですか?そのお二人は?どこにも見当たりませんが。」


シャー。と目前に迫る龍神様。「嗚呼、嗚呼、青春の日々よ。♬」

北川さんの歌声、岩沢さんのハーモニカが響いた自分の頭には、齢14の人生において数少ないハイライトが走馬灯のように思い出された。


完全に龍神様の地雷踏んだ、終わった。食われる。丸呑みだ。と諦観の境地に至る。


「いええ、その‥もう既に計画は進んでおり、二人はそのためにここには来れず。大変申し訳ございません。」


マルは平伏する。それに追随するかたちで、平伏する。


「あ、いえ、いいんですよ。お忙しいですからね。あと二人分ですか。すると3000人分くらいの魂持ってきてもらえます?それで、証を作りますので。一人頭1000人で!」


あれ?これは死を免れたのか?一瞬の安堵から龍神様の発言を自分の中で反芻すると背筋が凍った。そして冷や汗が体をつたうのが分かる。


えーと、あれってそうやって作る感じなの?てかこれって、3000人殺してこいってことだよねぇ?うわー、も、もう、断れないよね?えーということは‥


冷静に考えれば考えるほど体をつたう冷や汗の量は増加の一途を辿り、とめどなく溢れてくる。体外に放出された水分が多くなるにつれて舌が回らなくなり、意識も遠のいていく。


3000人分の魂なんて無理だぁ、でも集められなくても殺されるし。どっちにしても無理だぁ。


てか、あの証ってそんなヤバいやつだったのかぁ。

光の(たま)だと思ったら、ほんとの(たま)だったんだぁ。


嗚呼誰か助けてぇ!!必死に念思をマルに送るが通じていない。


「承りました。龍神様のお望みとあれば。」


嫌ぁ!もう嫌ぁ!承る案件違う!

それでもマルはそのまま平伏し続けているため、自分も顔をあげられない。


「あ!もう大丈夫ですよ。顔を上げてください。」


言われて見上げると、龍神は満面の笑みを浮かべ、というか、蛇って笑うの?という疑問は受け付けない。


とにかく、嬉しそうにしている。のが、すっげえ怖ぇえー!


「いやぁ、すっかり参拝してくれる人も伝説も薄れちゃって、困ったなぁ。って時に来たからホント助かります!よろしくお願いしますね!」


完全によろしくお願いされちゃった自分達を、行きと同じく頭に乗せてくれ、無事に帰してくれた。無事に帰った気がしないが。てかまだ自分息してる?実は夢でしたとかないよね?いやもはや最初から夢だったと言って欲しい。乾ききった口腔状態で一縷の望みをかけてマルに話しかけてみる。


「お、おい。あの話ホントか?人の魂3000人って?」


しかし、その言葉に対してこの世への未練を捨てるかのようにマルは言った。


「や、殺るしかねぇだろ?」


怯え震えた体と、充血した目が精神を物語る。

恐怖で追い詰められ生命の叫びが身体中から感じ取れる。


「まさか、今までも?」


「いや‥今までは信仰心を多く集め、強い霊力を持つ神だったから、そんな生贄に魂とか必要なかったんだ。しかし、今回は‥」


「おい!まさか。殺るのか?そんなの無理だぁ!一人殺すのだって無理!」


前を行くマルに追い縋り、倒れる自分。

深い絶望感に苛まれた今の自分なら、地面の砂粒との対話も余裕にこなす域だ。


「そんなにぶつぶつ言ってても仕方ないぞ!魂そのものを持ってくること。それすなわち殺すことになるのはわかってる。だったら、ようは3000人分の魂に匹敵する霊力をかき集めればいい。」


「でもどうやって?」


そこから長い沈黙と、絶望感が押し寄せる。地面に足をぺたりとつけた腰座り状態のまま、

池の周りを眺め、もはや誰か金の斧を出すやつをここにくれと願う。必ずや名物となること間違いない。


「はぁ、立体映像でも流れればここだって目立つのに。こんな雑木林だらけのところに参拝者なんてこないよぉ。」


と嘆く。すると


「そ、それだよ!これ!」


マルはVRゴーグルをポン!と神術で取り出す。


「は?VRゴーグルで何すんの?」


「いや、VRの映像作るかは別として、観光客だよ!この池をPRして参拝客を増やす!そして龍神伝説を再び広めれば!」


「沢山の人から少しずつ霊力を貰い、かつ伝説の流布で、龍神様の霊力が強まって、魂を3000人分集めなくても大丈夫になるってわけか!」


「そうだ!カケル!俺らは救われた!」


感極まりマルと熱く抱きしめ合う。これによってお互いの、「嗚呼、生きてる。」を確認した。


「それは名案なんだけど、元々考えていたこの池の再建計画はあったんじゃないの?」


「え?ああ、それは目下進行中。本当は狐達に化けて貰って、一時的に参拝者急増で乗り切ろうかと思ってたけど、霊力がないんじゃねぇ。どうにもなんないからな。問題外だな。」


いや、元計画もなかなか問題あるぞ。それって神様騙すことじゃないか!やっぱり詐欺師だった。危うく詐欺師の片棒を担ぐとこだった。そして、また狐達を利用するのは可哀想すぎだ。


「まあ、とりあえずわからないけど、そっちは任せるわ。」


「いいぞ。大船に乗った気分でいてくれ!謀略は得意なんでね!」


ということで、いつものダーティーマルの謀略とらやらは、さておき。自分の課題はこの神宿池の龍神伝説の流布!参拝者を激増させて、信仰心を集め、霊力取り戻す!の二つである。

そもそもの話、神宿池の龍神伝説をおさらいしておく。



むかし、むかし。日照りによる飢饉が続き、カミヤの地では食料難に陥っていた。


この事態が神による試練とも考えず、カミヤの人々は己が罪深さ、欲深さを省みる事などなく。ただ赴くままに争い、殺し合いを行っていた。無常にも果てのない争いに、救いを求める一人の少年がいた。少年はカミヤの森には、白蛇の神がいる池があるとの話を聞き、藁をも掴む思いで、カミヤの森を彷徨った。少年は三日三晩探し続けて、ようやく、白蛇様のところへと辿り着く。


「白蛇様。どうかお願いです。争いをお止めください。」


白蛇様に懇願する少年。に対し白蛇様はこう答えます。


「それはできぬ。人は己の罪を忘れ、欲のままに生きている。救う価値などない。」

「確かに、人は愚かにも犯した罪を忘れ、己が欲の為に生きている。だがしかし、人は罪を重ねても、欲を求めても、人を思う心があります。思う心の中にはたくさんの優しさや笑顔が、ございます。私はこの思う心をもつ、人の可能性を信じて頂きたいのです!私がここに今持てるものはこの首飾りと、この命のみでございます。どうか、犯した罪は我が身と引き換えに、欲を求めることをお咎めなら、この首飾りをお持ちください。それにより、どうか、白蛇様のお力でお救いください。」


少年の真摯な姿勢に心を打たれた白蛇様は、子々孫々と白蛇様を祀ることにより、罪を赦し、

首飾りと引き換えに、欲を求める心に対して施しを与えることとした。

白蛇様は自らの力を天へと放つと、自らが龍神となってカミヤの地を覆うほどの雲を作り、雨を降らせた。恵みの雨により、カミヤの地は救われ、

人々は、救いの神を讃えた。



というお話だ。実をいえば、確かに飢饉はここらで起きたのは事実で、それを元に作られた伝説というか、御伽噺ということになっている。

別の伝記では、救いを求めて来た少年は、白蛇に真蒼の水晶をあしらった首飾りを引き換えに、雨乞いをして、それによって雨が降ったということらしい。もちろん、少年は英雄となり、神と、なった。神宿池の森の下にはその神となった少年を祀る天雲神社が残っている。

もちろん、そこの神職はその少年の末裔だ。


と神宿池と白蛇様の龍神伝説の関係はあらかた、説明した。なぜ、こんなことをしているかって?

それは何を隠そうと、SNS拡散大作戦により、手っ取り早く信仰心を集めよう!って作戦の一つなのだ。

テストを終えたこの満身創痍の体に鞭を打ち、この一週間、必死に龍ヶ峰市の図書館に通い詰め、水沼町の関連の書籍をあたり、郷土史から風俗まで、伝説に関連しそうなものを引っ張りだしてはメモをする。という所業を学校から帰ってからやっていたのだ!

その苦労を誰も知る由もない‥ヒドイ。ピエン。




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