73 【第3章:エピローグ】優しい変態紳士の活かし方
結局、今回の騒ぎについては、僕たちは一切お咎め無し。
あの監査役ご一行は、特別に手配した船で、数日後にそそくさと中央への岐路に着いたのだそうだ。
まぁ、本当に監査役の指示で【傀儡】により、リーリスさんを犯罪者にしたてあげようとした事実が公にされると、立派な犯罪者。
僕の不吉な(?)破滅宣言が、そのまま的中してしまう。
よほど僕の発言に懲りたのか、後ろ暗い事に心当たりが多いのか、かなり不安を煽ったらしい。
……おっさん、そんなにやましい事ばっかりしてたのかよ……
イサラ姫も、ダリスから一方的に出るだけならば、と出航許可を出したらしい。
ちなみに、あの【傀儡】の銀髪猫背男は、実行犯ということで、あの騒ぎ以降、問答無用【祝福】使用禁止の呪具を装着させられたらしい。
中央に帰り着けば外されちゃうと思うけど、ダリスにいる間だけでも、あんな厄介なのを野放しにしておく訳にはいかないもんね。
なお、あの【増殖】工場で外道な作り方を知った金髪男や抗議に来ていた民衆は、秘密を保持し続ける【契約魔法】をダリスと結んだらしい。
ただ、リーリスさんが【傀儡】で操られてちょっとだけ良かったな、と思う事が有った。
それは彼が『操作耐性』をゲットしたことだ。
イサラ姫が言うには、操られている間に、その操作を振り切って抵抗したのがきっかけではないか? とのこと。
おそらく、僕を攻撃しようとした瞬間に【傀儡】の効果を無理矢理打ち消したあの時の経験が生きたのだ。
リーリスさんって、もともとご本人の【祝福】が【引き寄せ】だから、操作系には強い体質だったのかもしれない。
色々な揉め事が重なった結果、例の【増殖】作業だが、ダリスが直接管轄する事となった。
前の世界風にいうと、国営企業に変わった、といったところか。
僕とリーリスさんは、【増殖】作業を指導する権利を手放す代わりに、借金の返済免除と、かなりまとまった金額の報奨金を貰った。
実際、僕たちは、アイディアを出しただけで、作業自体は何もしていないもんね。
【増殖】工場の方は、作業員が増えた事で生産力も上がっており、ひと月足らずで、ダリスの民3万人分の薬の確保に成功。
ダリスでは、一人の患者を出す事も無く、皮膚死病の予防接種が実施された。
おかげで、例の公共事業(?)御柱様の立像の作成は規模を縮小して実施されているらしい。
それでも、食事と安全が保障されている作業のため、それなりに一定の人気があるらしい。
おそらく、冬……いや、来年の春くらいまでには完成するんじゃないか、といわれている。
しかし、他の街では、まだまだ猛威を振るっているし、予防薬を欲しがっている都市はいくつもある。
そのため、【増殖】工場は、今日も絶賛稼働中だ。
デイランさんが、現場責任者の立場で、ダリス親衛隊直属員に出世。
ダッダ君たちのパーティーも、作業員の事務管理業務を担っているらしい。
あ、そうそう。デイランさんからは、めちゃくちゃお礼を言われましたよ。
何でも、そろそろ年齢的に、冒険者の引退を考えていたらしいんだけど、別の仕事がなかなか見つからなかったらしく、渡りに船だったのだとか。
数日前には、ダリスの封鎖政策も解除され、冒険者達は、久しぶりのダンジョン探索を堪能しているようだ。
リーリスさんも、今日はお気に入りのダンジョンへ潜っている。
抜けるような青空が広がる秋の昼さがり。
雑巾を引き裂いたような悲鳴が青い空に響きわたる。
「きゃーッ!!! イヤーッ!!」
「んんん! そのベギャルのような白いおみ足で、ワタクシめの顔を! 急所を! 踏んで欲しいですぞぉぉぉ!!」
全裸亀甲縛りの紳士が、薬屋の床で犬がお腹をみせているようなポーズで荒い息をする。
縋り付かれたマダムが悲鳴を上げて薬屋から逃げ去って行く。
ちなみに、ベギャルとは、大根によく似た白くて太い根菜の一種。ベギャルのようなおみ足は決して褒め言葉ではない。
「あー……ロレンさん、助かりマシた……けど……衣類は着用してくだサイ……」
「レイニー殿、何をおっしゃる! こんなさわやかな秋!! これはもう、鞭やロウソクで攻め立てて貰わないと服など着ていられませんぞ!!」
ロレンさんこそ何を言っている?
「でも、あれはやり過ぎデスよ……」
「んんん! しかし、あのマダムは万引き常習犯! このソフィの薬屋の害にしかなりませんぞ! あの程度の洗礼など、生ぬるい!! 本来は彼女に服従ポーズを決めていただくのを公衆の面前で公開するのが一番効果的なのですがな!」
そりゃ、効果はあるでしょうけど……
僕とロレンさんは、エシル姐さんから頼まれた薬屋の番をしている。
何でこんな事になっているかというと……
「んんん、これも、エシル殿の愛の鞭……もとい、信頼にこたえるためですぞ!」
そう。ロレンさんは、生活基盤をウォーレンの街から、このダリスに移しているのだ。
さらに言うと、住所は、僕たちの部屋の隣。
思いのほか、エシル姐さんとロレンさんは気が合ったらしい。
例の薬作りの時に、ずっと一緒だったもんね。
エシル姐さん曰く「あの変態は新薬の治験に最適だよ」とのこと。
ちなみに、エシル姐さんのいう新薬って、炸裂弾とか、爆薬とかも含まれるからね?
明らかに便利なモルモット扱いなのだが、ロレンさん的にも、多くの耐性を得るチャンスらしくて、かなり、ダリスでの生活を気に入ってくれている。
「いやぁ、次のご褒美では尻の穴の中で炸裂弾を爆発させていただけるらしいですからな! 頑張らねばなりませんな!!」
「内臓器にまで爆破耐性を求めないでくだサイ」
「中身の強靭さは大切ではないですかな?」
大切ですけれども!!
中身ってそういう意味かなぁ!?
あっ……ロレンさんはメンタルも無駄に強靭か……
さわやかな秋空の下、僕は切実に願っていた。
はやく、早く帰って来て……! エシル姐さん! リーリスさん……!! と。
<第2エピソード・完>
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