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52 薬屋の弟子 ワクチンの材料を得る


(この辺りが俺が近づける限界っスね)


 リーリスさんが草葉の影に伏せて、少し向こうでくつろぐサクラ竜の群れを見据える。

 視線の先には2頭の『竜種痘』のサクラ竜の母仔。


(任せてくだサイ!)

 

 僕は、体格の割には豊かに育った胸を張る。

 豊か、というと語弊があるかもしれないけど、日本人の頃、僕のお胸は19歳の段階で、大平原の小さな何とやら。

 実に慎ましやかな代物だったのだ。


 ……別に良いんだよ!!

 AはエンジェルのAだからね!!!

 しかも、トリプルなんだから! 一番天使に近い清らかなお胸なのだよ!!! 洗濯板とか断崖絶壁とかって、馬鹿にしてはいけない!!!


 しかし、こっちの身体はソコソコ発育が良いのである!!

 あんな酷い環境下で生き延びたにしては、しっかり育って来てるのよ!?

 まぁ、それでも12、3歳程度の身体だから、有ってもAカップだとは思うんだけど、元トリプルAの『胸に赤壁せきへきを宿した女』と呼ばれた過去を持つ者からすれば、規格内に潜り込めるAは、憧れのサイズ!! 

 そのうえ、まだまだ未来のある身体ってだけで、大変豊かな気持ちになれるものなのですよ!!

 膨らみかけって素晴らしい!!!


 僕は、その場で小鳥の姿に変身する。


 視界が一気に低くなったけど、この姿なら、サクラ竜も警戒しないはずだ。


「行ってきマス!」


 ちょちょちょ、ぽて、ちょちょちょちょちょ。ぽて、パタパタ、ちょちょちょ。


 もふもふ小鳥が大地を駆ける。

 流石にハクセキレイみたいに速くは走れないけど、最初の頃のズル剥け雛状態から比べたら、かなり成長してるもんね!! それに、ポポムゥさんの義足のおかげで、こっちの身体でも、きちんと歩けるようになって良かった!


 え? サクラ竜に近づく間に2,3回コケてる?

 ははははは! 僕は、過去を振り返らない主義なのでね!!

 バランスをちょっとくらい崩しても、羽をパタパタすると、体勢を立て直せるんだよ! 凄くない?


 サクラ竜たちは、僕の事を全く警戒していない。元気な仔サクラ竜のすぐ近くを通ったんだけど、母竜もゴロン、と横になり草をんでいる。


 さて、目的の『竜種痘』のサクラ竜は……と。


 仔サクラ竜の方は、病気とは言え、結構元気みたいで、他の仔たちと一緒に走り回っている。

 しかし、母竜の方は、群れの中央よりもリーリスさんの近く側で、ゴロンと横になり目を閉じてゆったりと口に含んだ草を反芻はんすうしていた。


 チャーンス!!


 きらりん、と目を光らせ、横になっているサクラ竜に近づき、その身体の上によじ登る。

 おっとっと……急斜面だが、ジャンプと羽の力も借りてわっせわっせと登頂を果たす。鳥の身体だと、足の指が使いやすくて、よじ登るのはヒトの姿よりやりやすいんだよね。体も軽い感じがするし。

 しかし、母竜は、僕の方を見る気もないらしい。

 「ぶふッ」と鼻を鳴らし、耳をパタパタさせると、静かにお口のモグモグを継続している。


 僕は、すでに剥がれかけた『かさぶた』を義足でエイヤ! とばかりに蹴り落す。流石に素手……いや、素クチバシでウイルスべったりの『かさぶた』をつつくのには抵抗がある。

 

「ほ~、ほけきょっ! ほけきょっ! ほけきょっ!!」


 僕は、一仕事終えると、空に向かって大きく3回囀さえずった。

 あ、鳴き声がウグイス風なのは、リーリスさんが、分かりやすくて面白いと言ったからである。

 その瞬間、『かさぶた』がふわり、と宙に浮かぶ。

 そして、そのまま、『かさぶた』は、姿を隠しているリーリスさんの方向へと飛んで行く。


 そうなのだ。

 僕がサクラ竜に近づき『かさぶた』を引き剥がす。

 そして、無事に剥がせた事をホケキョの鳴き声で合図。

 剥がれ落ちた『かさぶた』をリーリスさんが【引き寄せ】の【祝福】で手元の器へと回収する。

 それが、今回のミッションなのだ!!


 一つの『かさぶた』から作れる薬の量はそんなに多くない。

 確か、元の世界のワクチンの作り方だと、牛痘を一度、別のおサルさん等に感染させ、そのおサルさんから取れた膿を使って、さらにもう一度牛に感染させ、その膿をかき取り薄い消毒液で4~5倍に薄めたもののはずだ。

 

 こっちの世界での作り方はエシル姐さんに確認すれば良いだろうけど、どのみち、『かさぶた』は、取れるだけ取った方が良い。


 僕は、ちょん、ちょん、と次の疱瘡ほうそうの元へと近づき、義足を使って『かさぶた』を引き剥がす。

 お、膿も良い感じにくっついてくれてますな。よしよし。

 ん? なにやらちょっとでかいノミのような昆虫が傷口近くに居たので、ついでにぷちっと義足で踏みつぶした。

 確か、牛とかの動物が、背中に小鳥を乗せても怒らないのって、こういう昆虫を食べてくれるからだったような……?

 前世の曖昧な記憶だが、感謝の気持ちを込めて、ノミは潰すようにしよう。流石に食べる訳にはいかないからな。

 

 しかし、サクラ竜が『竜種痘』で致命的な状態にならない、というのは確かなようだ。 背中に2か所、乳房に3か所、前足に1か所の合計6か所くらいしか疱瘡ほうそうが見当たらない。

 むしろ、ノミの数の方が多いくらいだ。

 めっちゃ潰したぞ、ノミ!

 僕がノミを根こそぎ踏み潰した頃、他の仔達と一緒に遊びまわっていた仔サクラ竜が、疲れたみたいで、こっちに戻って来たぞ!


 よーし、こっち来~い、怖くないからね~。


 母竜の傍に座って、ちょこん、とあごを母の身体に預ける。

 ぱちくり、と大きな瞳が僕の視線とがっちり交わった。


 「もぅっ?」


 おかあさん、小さい生き物が背中に乗っているよ、と言わんばかりに好奇の声を上げる仔サクラ竜。

 だが、一向に僕に興味を示さない母竜。

 僕が危険なものではない、というのが母竜の態度でわかったのだろう。

 仔サクラ竜もしばらく待っていると、僕に対する興味を無くし、大人しくウトウトし始めたので、母竜の背中伝いに仔竜の背に進む。


 ふふふ。本当に子牛みたいで可愛いな。

 あ、毛質がやっぱり柔らかい。


 なお、仔サクラ竜の方はさらに病状が軽く、背に2ヵ所、頭に2か所の合計4か所程度しか疱疹ほうそうが見当たらない。


 よかったな、お前。もうちょっと逃げるのが遅かったらザビドラゴンに食べられていたんだぞ?


 仔サクラ竜は、僕たちのおかけで九死に一生を得たことなど認識すらしていないらしい。

 ふんす、と鼻を鳴らして大きな欠伸をしている。


 ……平和なヤツめ。


 結局、計画はかなりスムーズに進行して、全ての『かさぶた』を回収する事ができた。


 量は少ないけど、一応、これで、街へ帰ったら『ワクチン』が作れる!!


 僕が出来る全ての仕事を終えると、ぱたたたたっ!

 仔サクラ竜の背中から文字通り飛び降りる。

 飛行……とはとても呼べないんだけど、落下速度が少~し遅くなる程度には、なっていると思うんだ!


 着地のコツは、こう、尾羽……お尻の部分を、グイっと足元に引き寄せて、両腕の羽は地面近くの空気を叩きつけるようにすると、ふわっと上手く……


ぺしょっ!


……し、失敗したのは見られてないよね?

そのまま、ちょちょちょ、とリーリスさんに向かって歩を進めると、途中で気づいたリーリスさんが僕を【引き寄せ】てくれました。


(レイニー、大丈夫だったっスか?)


(僕は問題ないデス! それより、リーリスさん、あの、ワクチンの材料は……)


 僕の言葉に、リーリスさんは小さな革袋を広げ、ぺかぁっ! と笑みを浮かべる。

 その袋をのぞき込めば、サクラ竜の身体から引きはがした『かさぶた』が収められていた。


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