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53 薬屋の弟子 水際対策に引っかかる


(にゃはは~、レイニーの言う通り、直接この袋に【引き寄せ】たから、俺は触れてないっスよ!)


 流石! リーリスさん!

 そのうえで、【引き寄せ】た、奇麗なお水でかさぶたを引き剥がした義足と両手を洗い、ついでにうがいも……ごぼぼぼぼぼ、ぺっ!


(レイニー、これだけ集まったっスけど、どうするっスか? 他の群れを探すとなると、別の餌場か、例の岩塩の出る所まで移動するから……2,3日はかかると思うっスけど……)


 うーん、どうしよう? ここから2,3日って事は、戻るのにさらにその倍かかるって事だよね?


 感染力の強い感染症対策は1日の遅れが命取りになりかねない。


(量は少ないんデスけど、早くダリスに戻った方が良いと思いマス)


(ん、わかったっス)


 まだまだお天道様はお空の真上である。

 これから全力で戻れば、ダリスまで帰れるかもしれない。


「ロレンさん、ロレンさん、起きれるっスか?」


「……てぃき~、てぃき~……おくしゅり……れすよ~……むにゅむにゅ……」


 あ、ダメだ。完全に超熟睡中。

 幸せそうに寝言をほざきつつ、よだれを垂らしている。

 

「仕方ないっスね」


 そういうと、リーリスさんは、まだ夢の世界にいるロレンさんを寝袋ごと時空袋に突っ込んだ。

……じ、時空袋からロレンさんの生首だけが出てる状態なんけど……


「い、良いんデスかね……コレ……」


「全部入れちゃうと中で荷物に埋まって窒息しちゃうことがあるからダメっスけど、こうやって……寝袋状態で袋の上に身体を固定して……よし、これで顔さえ出しておけば大丈夫っス!」


 ちなみに、物が何も入っていない場合には、荷物に押しつぶされて窒息する心配もないので、顔まで全部入れちゃっても短い時間なら平気だそうだ。

 冒険者のように、多くのアイテムを所持している場合に、重傷者などを運ぶときは、このスタイルが多いのだとか。

 

「じゃ、急いで帰りましょう! リーリスさん」


「そっスね~……えーと、だったら、レイニーも小鳥に変身して貰っても良いっスか?」


「へ?」




 そんな訳で、僕は今、小鳥姿でリーリスさんの胸ポケットに入っているぴよ。


 まー、そりゃ、そうだよねぇ……

 ガチで急ぐなら、義足の僕がちょろちょろとリーリスさんの後を追うのは効率が悪すぎる。


 このポケット、下に僕の服とかハンカチとかを入れてくれてあるので、座り心地はしっかりしているし、ちょこん、とクチバシをポケットの縁に乗っけると外も見えるし。

 案外、乗り心地が良い。


 リーリスさん……本来はこんなに足が速い人だったんだ……流石、エルフ族。

 足場の悪い湿原も、なみなみにうねった木の根入り組んだ所も、ひょいひょいっと一足飛びに進んでいる。まるで、森とダンスを踊っているみたい。


 そっかぁ……ここに来る時は足場が悪くて歩き辛い湿原だな~と思ったけど、むしろ僕が歩けるようなルートを選んでゆっくりと進んでくれていたのね……


 何だろう? この、嬉しいんだけど切なくて、切ないけど嬉しい……絶妙マーブルなマイ・ハートゥ。

 

 いやいや!

 僕だって、ちゃんと飛べるようになればついていけるもん! ……たぶん。


「むにゅむにゅ……もうたべられないですぞ~……すー、すー……」


 しかし……ロレンさん、この状況下で良く熟睡できるな!?

 流石に障害物にロレンさんの頭をぶつけるような事はないけど、それでも、ばいん、ばいんに揺れているハズなんだけどなッ!?


 結局、ギリギリ、お日様が西側の山のてっぺんと触れ合う直前に、懐かしいダリスの街の城壁が見えて来た。


「……ふぅ、なんとか間に合いそうっス」


 リーリスさんが若干、汗ばんだ額を拭うと、安心した様に微笑む。


「今日は結構走ったから、お風呂に入って帰りたいっス~」


「お風呂……! 良いデスねぇ~」


 僕は思わずテンションを上げた口調で同意する。


「レイニーは、本当にお風呂好きっスよね」


 変身を解くと衣類を着用し、リーリスさんのポケットから地面に降ろして貰う。


 昨日はキャンプで入浴なんて出来ていないし。

 まぁ、こっちの世界の標準からするとかなりお風呂好きになってしまうのだけれども。

 でも、せめて、3日に1回くらいは入りたくなるじゃない?


「感染症予防の意味でも、身体に着いた悪いウィルスや細菌……じゃなくて、悪い精霊をキレイなお水で洗い流すのは大切なんデス! お水は凄いんデスよ!」


『かさぶた』を手に入れてからというもの、万一に備えて、何度も【引き寄せ】たお水で手洗い・うがいを徹底している。


 そんな話をしながら、城門の所に戻ると、オズヌさんは居なかったものの、部下らしき、ふんわりした仔ウサギのような獣人のお兄さんが対応してくれた。


 いや、そこ、ただのウサギのような獣人で良いじゃん、って思うでしょ?

 違うのよ!! だって、大人のウサギさんも可愛いけど、もっと、こう、毛質が細くて柔らかい感じでふわっふわだし、お耳の長さが大人ウサギさんより短めだし……!

 何か、こう、幼い感があるのよ! 


 お声は結構、爽やかな好青年って感じなんだけど、なにこの、『カワイイ』にステイタス極振りしたような獣人さんは……!


 マスクを付けてなお、左右にてふてふ揺れながら歩く姿が撫でまわしたくなる雰囲気を醸し出している。絵本の中から抜け出たみたいだ……!


「あぁ、はい! リーリスさんとレイニーさんですね。オズヌ隊長から事情は伺っています。……で、それが薬の材料ですか……へ~……」


 仔ウサギのお兄さんは、万一に備えて、しっかりと封をした小袋を興味深そうに眺める。


「こちらは、一旦お預かりします。薬の材料ですが、ある意味危険物でもありますので……」


「はーいっス」


 仔ウサギのお兄さんに小袋を手渡すリーリスさん。


 しっかし、オズヌさんと言い、こちらの仔ウサギさんと言い……この街の衛兵のみなさんって、どうしてこう、まるまる・もふもふ・もちもちしてて視覚情報で癒しを叩きつけてくるのかなー!?

 カンガルーの獣人さんも、タヌキの獣人さんも可愛かったし……

 主であるお姫様の趣味なのかな?


 ふきゅ~? と首をかしげていた仔ウサギさんが、ぴっ! と緊張した様子で小袋を受け取ると、ぽって、ぽってと城壁の中へ戻り、交換とばかりに木札をリーリスさんへと渡した。


「はい、どうぞ。これが入場の許可になります。」


「ありがとっス!」


「あ……あれ?」


 仔ウサギのお兄さんが、リーリスさんが手にした木札の模様が赤色に変色しているのを見て首をかしげる。


「あの、どなたか街へ入れない魔法印をお持ちですか?」


 僕たちは、頷きあうと、時空カバンから首だけ出して爆睡しているロレンさんに目をやる。

 仔ウサギのお兄さんも僕たちの視線を追い、カバンの爆睡生首に目を止めると「あぁ……」と納得したように頷いた。


「では、こちらへ……」


「「はーい」」


 仔ウサギさん獣人の案内で通されたのは城門のすぐ外側に隣接した兵舎のような所の一室だった。

 まだここは街の中には当たらないようだ。

 袋から生首だけ出して、ぐーすぴーしているロレンさんの乳首の印を何とかして貰わないとね。

 ……しかし、これ、僕たちがロレンさんの乳首のアレを剥がしてもらうように準備しなきゃいけないのか?

 なんだこの奇妙な羞恥心……


「はい、こちらでお待ちください。」


 ぱたむ、と扉が閉じられた音が響く。


 通された部屋にはベッドとテーブル、いす等が備え付けられている。

 窓は無く、本来なら真っ暗だろう部屋には、ランタンのような灯りが灯っていた。

 あ……よく見れば、この扉……鉄格子じゃん!?

 この環境、良く言えば留置場、悪く言えば座敷牢。

 

 あれ? よく考えると、どっちも良い意味ではない気がするな。

 だって、衝立《ついたて》で目隠ししてあるとはいえ、お手洗いが部屋の中に存在してるって……ねぇ?


「あのー……これって……」


「す、すいません、一応、ここで1週間くらい過ごしていただいて、発病が確認できなければ、自由に街に入る事はできますので……」


 仔ウサギさんが申し訳なさそうに頭を下げた。


「あ、お食事はきちんとお持ちしますからご安心ください。それに、この小袋は責任をもってソフィの薬屋に届けますので。」


「「えええええっ!?」」


 そのまま、仔ウサギのお兄さんは、ぽって、ぽってと戻って行ってしまった。

 ぐぬぬ……!! カワイイは罠だったのか!?


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