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47 薬屋の弟子 キャンプを満喫する


「……それより、リーリスさんが夕ごはんのおかずを獲りに行っているんデスし、焚き火の準備をお願いしマスよ……」


 性的な魔物については、リーリスさんに相談しよう……

 元々、危険なヤツは居ないと思うっていってたし。


「おお! かしこまりましたぞ!」


 ロレンさんが、意外と手際よく中央部分に簡単に穴を掘り、その周りを石で囲む。

 どうやら、かまどを作ってくれているみたいだ。

 少しへこんだ穴部分に集めて来た薪やら落ち葉やらをまとめて火をつける。

 かまどの横にY字の木の枝を立て始めたからナニかと思ったけど、これ、鍋を吊すための支えなんだね。

 いや、ロレンさんの場合、別の何か珍妙なプレイのための準備かと思うじゃん。

 そんな偏見を抱いてしまった事にちょっと罪悪感。

 ごめんね。ロレンさん。

 そっと、真面目に作業する変態紳士の背に手を合わせる。

 南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏。


「できましたぞ……おや、どうされましたかな? レイニー殿」


「いや、気にしないでくだサイ」


 あ、そーだ。今朝エシル姐さんに貰っていた虫除け、焚いておこう。

 昼間にキーノ汁を作った時は気にならなかったんだけど、夕方に火を焚いていると、まだ結構虫が寄って来る。

 確か、この丸薬一個で、一晩位は十分持つって話だったよな。

 僕は、エシル姐さんに渡された常備薬袋から、虫除けを取り出すと、それをロレンさんに渡した。


「ロレンさん、これ、焚き火の中に放り込んでくだサイ」


「んんん? これは?」


「虫除けデス」


「ワタクシ、蟲に刺されるプレイも好きですが?」


 そりゃ、ロレンさんはそうでしょうけどね!?


「僕は虫に刺されるのが嫌なんデス!!」


「かしこまりましたぞ! 紳士たるもの、女性には優しくしなければなりませんからな!!」

 

 紳士な感じに丸薬を放り込むロレンさん。

 辺りにふんわりと薬の香りが広がる。


「んんん、いい香りですな」


「わぁ~……本当デスね~」


 うーん、この香り。

 何か、お寺な感じのニオイなんだよね~。白檀びゃくだんだっけ? ほら、あの、京都の修学旅行を思い出す香りだ。森の匂いと混ざり合って、個人的に結構好きだな。この薫香くんこう


「ただいまっス~」


 日が沈み辺りに暗闇が迫る頃、リーリスさんが大きな魚3匹とまるまる太ったでっかいカエルをぶら下げて戻って来た。


「おかえりなサイ、リーリスさん!……わっ!?」


「おっとっと……レイニー、気をつけるっスよ」


 リーリスさんに向かって両腕を伸ばしたら、思わずバランスを崩したので、椅子から転げ落ちるところだったでござる。


 すかさず、ふわりと僕を支えてくれるリーリスさんは男前がすぎる。

 くっ……! さっきまで、変態紳士成分をいっぱい浴びてしまったせいなのか、些細な事で心拍数が急上昇。

 リーリスさんが無事に戻って来てくれてよかった!!

 思わず、ぎゅっとその腕に抱き付く。

 はぁ~、癒し補充、癒し補充。


「? レイニー? どうしたっスか?」


「いえ、リーリスさん、ありがとうございマス」


 僕はパッと顔を上げる。


「リーリス殿、おかえりなさいですぞ。おお! アカマダラ魚とアオミズカエルの子どもですな!! これは美味しそうですな!」


 ロレンさんのいうとおり、リーリスさんの持ち帰ってきたお魚の銀色の胴体にはキレイな赤い斑点が浮かんでいる。

 カエルの方は僕の身長くらい有りそうな大きさだけど、まだオタマジャクシのようなしっぽが生えていた。


「にゃはは~……」


 ロレンさんの弾むような声に、リーリスさんは、少し困ったようにはにかむ。


「喜ばせちゃって悪いんスけど実はこいつら、ちょっと癖があって食べづらいんスよ……でも、他に近くには手ごろなのが居なくて……」


 曰く、この魚もカエルの肉も少し臭くて美味しくないらしい。

 あらら、ちょっと残念。


「んんん? アカマダラ魚もアオミズガエルも新鮮な内に的確に処理をすれば美味しいですぞ? アカマダラ魚はエラと内臓を取り出して、腹膜部分を香草塩で洗うと良いですぞ。アオミズガエルは骨から臭みが出るので、絞めたら肉だけさっさと剥がしてしまうのが美味しく食べるコツですな」


「おおお!?」「へ!? そうなんスか?」


 意外にも、ロレンさんは調理技能が高いらしい。

 何でも、生まれ育った街の付近でアカマダラ魚もアオミズガエルも良く獲れたとのこと。

 リーリスさんもそれなりに料理は上手いと思うんだけど、淡水系水生生物の処理については、ロレンさんの方が一枚上手のようだ。


「んんん、では、リーリス殿は魚を捌いて貰えますかな? これに合う塩や香草はワタクシのこちらを使ってくだされ。えーと、水は……?」


「水が必要になったら【引き寄せ】るから、言って欲しいっス! へ~、これ、乾燥したルコル草っスね? マァトーンのお肉の臭み消しによく使うヤツっスよね?」


「左様ですぞ! アオミズガエルはこちらで捌きます故、レイニー殿は、キーノを千切ってこの鍋に入れてくだされ」


「はーい!」


 ロレンさんが、カエルを捌く間に、僕はキーノの準備を整える。

 リーリスさんも、器用に魚の内臓を取り出し、魚の腹の中に香草と塩を刷り込み始めた。


「おー……塩が魚の血で赤黒くなって来たっス~」


「その色が出なくなるまで洗うのがコツですぞ」


「ラジャーっス!」


 ロレンさんは手際よく、その鍋に、皮を剥ぎ取られ、ぶつ切りにされ、言われなければ鳥肉にしか見えないカエルのお肉を入れ、軽く炒める。

 残ったカエル肉は煙で燻製するために、焚火の上の方に吊るされている。

 こうすると、数日はお肉が持つんだとか。

 炒められていたカエル肉に十分に油が回った所で、ロレンさんから水を入れて欲しいと指示が飛ぶ。


「【引き寄せ】水!」


 じゅじゅじゅ、ぼぼ、じょぼぼぼぼ……


 熱くなった鍋に綺麗なお水を注ぐ。


「レイニー、アク取りは任せたっス! あと、この竹筒も火が点かないように見てて欲しいっス」


「はい、任されマシた!」


 時折、浮いて来るアクをリーリスさんから渡されたお玉みたいな葉っぱ? ……いや、豆科植物のさやを割ったものかな? わりとしっかりした硬い植物を使い、丁寧にさらい取る。

 林間学校の飯盒炊爨はんごうすいさんを思い出すなぁ……

 その間にリーリスさんとロレンさんは、一度塩で内臓の血を取ったアカマダラ魚を真水で洗い、今度は味付けの塩と香草をふって火にかけている。

 お魚の皮が炎にあぶられて、じびび、ぷじゅじゅ、と踊る。

 ときおり、油が垂れ落ちて、シュジュン! と赤い炭が驚く音が、めっちゃ食欲をそそる。

 お昼が、なんやかんやで焼きキーノしか食べてないから、腹ペコでござる。

 僕のお鍋もいい感じに煮えて来た。

 竹筒からは、白い泡みたいなものが、吹き零れて来たり、多少焦げ目がついたけど、火が点くことはなかった。


「これで完成ですぞ」 


「う~ん、美味しそうっス!」


「わーい!!」


 スープにお味噌のような調味料と、最後にリーリスさんが取って来てくれた三つ葉のような山菜を散らして完成である。

 竹筒をぱこっと割ると、中からピカピカに輝くシャーリ!

 これ、ダリス周辺では、普通はそのまま雑炊にすることが多いんだけど、僕がお願いして、エシル姐さんに丁寧に石臼でいてもらったものなのだ。

 シャーリはこうすると、めっちゃ白米に近い味になる。

 おまけに、とぎ汁はこっちの白米に近いやつから採った方がおカビ様の培養速度が上がるのだ!

 そんな特製シャーリを洗い、竹のような植物に半分くらい詰め込んで、水をたっぷり入れて焚火の傍に置いておけば、このとおり!!

 ピッカピカの炊き立てごはんができるのだー!!

 うふふ~。これが完成し、初めてこの世界で白米を頬張ほおばった日は、思わず泣いたね。感動で。


「じゃ、食べるっスよ! あ、ロレンさん、一人で全部食べちゃダメっスよ!」


「かしこまりましたぞ!」


「わーい! いっただっきマース!」「いただきますぞ」


 夕ご飯は、絶品でした。


 アカマダラ魚の塩加減も、油の乗り方も最の高。

 皮はパリィっと香ばしく、白身はジューシーでふわっふわ!! 塩加減も絶妙。

 臭み? ナニソレオイシイノ状態!

 むしろちょっと強めの香草によく合っている。良い感じに魚の風味が増していて、かすかに竹の良い香りが移った白米がこれ以上ないくらい進む、進む。

 さらに、キーノ汁に入れられたカエル肉があの短期間でホロホロ! 

 多分、手際よく骨と筋を取り除いていただいたおかげだと思う。


「これがあのアカマダラ魚とアオミズガエルっスか!? うわぁ、いつもと全然違うっス!」

 

 リーリスさんも驚きと喜びが混ざり合った声でロレンさんの下処理を絶賛する。


 このカエル肉、ホロホロなんだけど、噛めば噛むほど、出るうま味!!……そこに、あの風味豊かなキノコが加わる訳ですよ?

 しかも、味付けは日本人が泣いて喜ぶお味噌風。

 美味しくない訳がない!!!

 体の芯の芯までぽっかぽか!! あー、両生類って何でこんなに良い出汁が出るんだろう?

 へ? 体の変色? 気にも留めてませんでしたよ。

 

 いつの間にか、辺りは暗闇。

 周りの木々が黒々と影を落とし、木の奥に広がるの空が深い青色に染まる。

 焚火のオレンジが何でこんなに安心できるのかね?

 僕は、リーリスさんの膝の上に座らせてもらい、食事の締めに、温かいココアのような飲み物をいただいている。

 リーリスさんとロレンさんは、そこにさらにウィスキーのようなお酒を注いだものを堪能していた。


「ウィ~……ヒック、いやぁ、ましゃか、こんな外でおしゃけまでいただけるとは思いましぇんでしたぞ~」


 ロレンさん、ちょっと呂律が回っていない。

 見れば、顔も真っ赤で、明かにべろんべろんである。


「にゃははは~、まぁ、今回は元々、キーノを美味しく食べたくて出かけて来たっスからね~。調味料とかお酒とかを普段よりいっぱい持っているんスよ。だけど、ロレンさんもルイスー酒がイケるとは思わなかったっス。中々お酒にも強いんスね~」


「んんん、し、紳士でしゅからな! ……ヒック!!」


 ちなみに、このルイスー酒……ドワーフ族の名産品らしくて、かーなーり、アルコール度数が高い事で有名なのだ。

 味や香りはとても良いらしいのだが、まともに飲める種族ヒトは少ない。

 リーリスさんは、エルフとしては珍しく、これに目がない。

 よくポポムゥさんやオズヌさんと飲んでいるのだが、普通の人間でこれをコップ1杯以上飲めた人を初めて見たぞ。

 まぁ……冷静に考えると、ロレンさんも普通の人間とは呼べないか。


「明日は、ラーラの森に入るから、今日は早めに休むっスよ」


「うにゅにゅにゅ、お、おことばに甘えましゅじょ……」


 ロレンさんは、ちょっとふらつく足取りで、自分のハンモックに潜り込む。

 中にはエシル姐さんからの差し入れであるふっこふこの寝袋を渡しているから、暖かいはずだ。


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