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44 薬屋の弟子 ワクチンの希望


「ど、どうしたっスか?」


「バター、デス!! あの、焼きキーノに乗っけて食べた白くて、しょっぱくて、トロッと蕩けるあれ! あれの材料のお乳を出す生き物って何デスか!?」


「あぁ、アレっすか? それはサクラ竜っスね」


「サクラ……リュウ、デスか?」


 聞けば、サクラ竜とは、草食性でおとなしく、群れで生活する動物である。

 角の部分が『ラーラ』と呼ばれる木みたいな感じの花が咲いている事から『咲くラーラ』が訛って、サクラ竜と呼ばれるそうだ。

 かなり臆病で、食物連鎖ではあまり上の方ではないため警戒心が強く、人が近づくのは至難の業なのだとか。

 ただし、比較的、獣人けものびと……特に鳥系の変幻種に対しては何故か警戒心がほとんどないため、ミルクを絞って来る事もできるのだとか。


「僕……竜って、母乳を出さない生き物なのかと思ってマシた」


 うん、だって、元の世界では竜や龍って爬虫類系のイメージが強いもんな。


「へ? そんな事ないっスよ。竜って要は魔力量が一定量以上の生き物の総称っス。人間でも、エルフでも、魔力量がある一定を超えると龍族って呼ばれるんスよ。他にも色々特徴はあるっスけど……細かい所は、ポポムゥが詳しいっス。で、それが、ヒトだと龍族、ヒト以外だと竜っス」


 へー? そういう定義なのね。


 僕たちが鑑定を終わらせて話し込んでいる間に、オズヌさんと兵士さん達が炎の魔法で例のご遺体を火葬されていたのが一区切りついたらしい。

 彼らも、亡くなった方から7m以上は離れた遠くから炎を放っていたが、その炎も小さくなり、跡には真っ黒に焦げた大地とほとんど炭化して人だった事すら分からない塊が残っているだけだった。


「どうだ? 何か手がかりは掴めそうか?」


「ハイ……実は」


 僕は、さっき見た内容について、オズヌさんにも情報を共有をする。


「……と、いう訳なんデス。出来ればエシル姐さんにも確認を取りたいんデスけど……」


そして、あわよくばダリスのお家に帰りたいです。


「なるほど、サクラ竜から『わくちん』……って名前の予防薬な。……確かに『竜種痘』に感染した奇異鳥キーウィ族は皮膚死病ヴァリオラに罹りにくいから、一理あるのかもしれん」


「え!? そうなんデスか? じゃ、オズヌさんも……?」


「ああ、ガキの頃はよくサクラ竜の乳を搾ったりしてたぞ。獣人けものびとの方が皮膚死病ヴァリオラには多少強いからな。だから、閉鎖している兵士たちも全員獣人なんだ」


おお、なるほど! それは心強い証言ですよ!


「本職のエシル姐さんに確認を取りたいのは分かるが……街に入れる訳にはいかないんだ。スマンな」


 おっと、残念。

 まぁ、仕方がないか……天然痘だもんなぁ……


「だが、エシル姐さんに連絡を取る事は出来るぞ?」


「「へ?」」


 オズヌさんは、何やら懐から鳥の形をしたレターセットのようなものを取り出す。


「オズヌさん、それは何デスか?」


「これは『トリレタ』と言ってな、特定の人に緊急で連絡を取るための魔道具なんだ。ほら、リーリス、お前さんもエシル姐さんに帰れなくなった事とか聞きたい事を伝えろよ」


リーリスさんにも同じ用紙と筆記用具を渡すオズヌさん。


「兄貴、ありがとっス!」


 この「トリレタ」は専用の用紙に情報を記入し、宛先を指定すれば、あとは勝手に宛先まで飛んで行くタイプの魔道具だ。

 元の世界だと「メール」に相当するものかな?


 僕がそんな事を考えている間に、オズヌさんはオズヌさんで、何やら報告があるらしく、さっと自分の主であるお姫様へトリレタを記している。

 それが書き終わると、ただの鳥を模した形の紙だったはずのトリレタが、本物の様にパタパタと羽ばたいて宙に浮き始める。

 こうやってお姫様(あてさき)まで飛んで行くのだそうだ。

 

 あれ? これ、もしかして雨の日は使えないヤツ?

 

 「防水されているから、小雨くらいなら問題ないぞ。……流石に暴風雨だと無理だが」


 とのこと。なるほどね。


 「これで良いっスかね~?」

 

 オズヌさんがトリレタを飛ばし終わった頃、リーリスさんもエシル姐さん宛のトリレタを書き終えたみたいだ。

 興味本位で、ひょいっとリーリスさんの書いたトリレタを覗き込む。


『姐さんへ

 今日帰れなくなってごめんなさい。

 ダリスの南にロレンさんという服を着ない病気の人が居て、感染すると困るので町に帰れないとオズヌの兄貴が言っています。

 かしこ』


 待って!! リーリスさんッ!!!

 意味が分からないよ!?


 これだとロレンさんが『服を着ない病気』みたいじゃん!

 ……いや、ある意味、正確な描写である気もするけども!!


 でも、そうじゃなくて皮膚死病ヴァリオラの事を書かないと!!

 かしこ、なんて書いている場合じゃないよ!?


「ちょ、ちょっと、待ってくだサイ!」


 僕は、リーリスさんの手紙に追記をさせてもらう。

 うーん、残っている余白が小さいから詳細は書ききれないな……


 『追伸

 ・魔物に襲われていたロレン氏を救出。彼は皮膚死病ヴァリオラ感染の可能性有。

 ・感染予備軍と濃厚接触の為、ダリスへの帰宅不可。

 ・『竜種痘』に感染した獣人は皮膚死病ヴァリオラに感染しない?

 ・『竜種痘』の元があれば皮膚死病ヴァリオラの予防薬を作れる?』


 こ、これで伝わるかなぁ?


 不安を抱えつつも、エシル姐さんへのトリレタも無事飛んで行く。

 しばらくすると、返信らしきトリレタが戻って来た。

 

 早速エシル姐さんからのトリレタを開く。


『・リーリスへ

 南の森入口に野営セットを準備しといてやるから使いな。リーリスの服を多めに入れておいたよ。あと、よく分からないけど、今日は帰って来られないってことは良く解ったよ。

 ちなみに、アタシの姿を見ても近寄るんじゃないよ。

 ・レイニーへ

 『竜種痘』に感染した場合、皮膚死病ヴァリオラに感染しづらいって話は聞いたことがあるよ。

 鳥系の変幻種の間では、集落に『竜種痘』患者が出ると、子供に感染うつしてもらいに行くらしいよ。

 予防薬には、竜種痘の瘡蓋かさぶたか、膿が必要だけど、それがあるなら作れるよ。

 エシル・ソフィ』


 よし!! 確認は取れた!!!

 しかもエシル姐さん、マジ女神!!

 日帰りのつもりだったので、装備品は行楽の為に山へハイキングに行く程度の荷物しか所持していないのだ。

 これは本当に助かります。


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