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34 【エピローグ】カビから作る下克上


 結局、リーリスさんの梅毒は、僕の作ったペニシリンを4週間と2日飲んだ所で、完治した。

 あの斑点はもちろん、奇麗さっぱり姿を消し、【鑑定】を使っても、ステイタス異常は出ない。

 なお、この薬(ペニシリン)を、再度、894倍のおカビ様から培養したところ、僕とリーリスさんの二人でも無事に作り出すことが出来た。

 

 リーリスさんが、身をもって効果を証明した結果、エシル姐さんの薬屋でも取り扱って貰っている。

 価格はリポキロの10分の1。

 大銀貨3枚……日本円に換算すると、約3万円。


 それでも、十分良いお値段なんだけど、これより安いと逆に薬として信用されないのだとか。

 原料費を考えると、すさまじい利益率である。


 その内、僕とリーリスさんの取り分が大銀貨2枚。

 半分ずつ分けても一人大銀貨1枚。

 中々立派な収入源だ。

 うはうは。


 一応、サービスで、僕が【鑑定】して必要量を渡している。

 数週間分がまとめて大銀貨3枚なのだから、悪くない買い物のはずだ。


 ただ、『抗菌剤』には注意点があって、キチンと処方された分量、全てを飲み切らないと『耐性菌』が発生してしまい、薬が効かない細菌を生み出してしまう事がある。

 当然、乱用は出来ない。


 それを防ぐために、エシル姐さんから、キッチリ飲み忘れのリスクを説明して貰っている。

 この手の脅し……もとい、副作用や薬の怖さの説明は、僕みたいなチビだと侮られるんだよね。


 その点【嘘発見】を持っているうえに、長らく薬屋を営んでいるエシル姐さんは、信頼感と安定感が違う。

 そのうえ、何か、凄まじい二つ名もお持ちですし?


 作り方については、秘匿にするつもりは無かったので、教えて欲しいと言われた人には説明したが、他の薬屋が同じものを作ろうとした場合『有効なカビ』を見分けるのがほぼ不可能な点がネックであまり広がって行かなかった。


 いや、本気で作りたい人には、894倍のおカビ様を分けてあげたんだよ?

 あ、あのおカビ様は、旬の果物を継ぎ足す事で、薬屋の部屋の片隅で脈々とご生存あそばされていらっしゃいます。

 つーか、ぶっちゃけ、僕やリーリスさんより温度調整とかの面で、待遇が良くなってますからね?


 でも、そのタネであるおカビ様の継続育成に失敗して別のカビや細菌を混入させちゃったりする例が多数発生。


 安定した薬作りをするのには、カビを見分けるための【鑑定】が必要、という事が分かっただけだった。

 そうだよな。……僕だけ電子顕微鏡を持ってるようなもんだもんな。

 そんな訳で、この新薬『ペニシリン』は、ほとんどウチの専売特許状態である。

 元々高かった『ソフィの薬屋』の評判だが、その価値はさらにうなぎのぼりだ。



 ……カララン。


 薬屋の扉が開く音がした。


「いらっしゃいマセ~」


「あら~? 今日もお弟子さんなのね? エシル姐さんは居るかしら?」


「あ、ハイ、エシル姐さ~ん!」


 まったりと原材料の区分けをしながら店番をしていた僕は、奥で作業中のエシル姐さんに声をかける。


「おや、ウィーリン、どうしたんだい? 今日は雰囲気が違うね」


 そう、このお姉さん、以前「梅毒」が第2期まで進行していた娼婦のお姉さんだ。

 いつも、色っぽい煽情的な衣装を身に纏っていたのに、今日は地味で質素な色合いの服装。

 季節がもう夏真っ盛りだから、流石に薄着ではあるものの、胸やお尻を強調した派手な感じは無い。


「うふふ。実は、先週で借金を返し終わって、娼婦を卒業したの!」


「おや! よかったじゃないか。おめでとう、ウィーリン」


 ふんわりと微笑んだお姉さんは、娼婦の時より、よっぽど色っぽい。


「それでね、わたし、ここで『ペニシリン』を買って飲んでいたでしょ?」


 そうなのだ。

 こちらのお姉さん、エシル姐さんのお勧めで、ペニシリンを購入してくれたお客様の一人でもあったのだ。

 今、彼女を【鑑定】しても、ステイタス異常は、無い。


「そうしたらね、娼館を卒業する時に『リポキロ』を貰ったんだけど、お前は飲む必要がないって言われて……」


「なるほど、それを売りに来たって訳かい?」


「うふふ。そうなの。……ダメかしら?」


 お姉さんはいたずらっぽくウインクをする。


「なに言ってるんだい。『リポキロ』は貴重品だし、新生活には何よりお金が必要なもんさ」


 エシル姐さんは、そういうと小金貨をいくつか、奇麗な紙に包んでお姉さんに渡す。

 気のせいかな? 3枚より多い気がするんだけど……ま、良いよね。


「『ペニシリン』は魔力回路系の疾患には効かないし、『リポキロ』はそっちにも強いからね。助かるよ」


 ……カララン。

 

 薄い紫色の長い髪を揺らして、真夏の明るい陽射しの中に帰って行く彼女の横顔は、今まで見た中で一番きれいで、僕は、ほっぺたが緩むのが止められなかった。



<第一エピソード:完>




ここまでお読みいただきありがとうございました!

引き続き、次のエピソードをお楽しみください!


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