112 薬師の弟子 バーサーカーの少女
「僕の居た棟の責任者はかなり人道的な人だった……ん、デス」
と、言いながら、僕はスオウさんが倒れていた壁際に視線を投げかけた。
どうやら、スオウさんは氷の塊には埋もれていないようだ。
倒れ伏す紺色の髪が、時折、風にゆれている。
「レイニー?」
「あの人……死んじゃったんデスか?」
僕の指さす先を確認したリーリスさんは、少しバツが悪そうに背中で一纏めにしているミルクティー色の髪を掻いた。
「ああ。アイツ、結構、強かったから……手加減できなかったっス。アイツと何かあったんスか?」
「いえ、あの人、この中では結構まともで……僕、あの人のおかげで……いえ、なんでもないデス」
言葉の途中で僕が口ごもる。
そんな事をリーリスさんに伝えても、せっかく全力で僕を助けに来てくれたリーリスさんを困惑させてしまうだけだ。
ふと目をそらすと、どっどっど、と遠くから茶色の何かがこちらに駆けて来るのが瞳に映った。
まだ【千里眼】の効果があるため、その茶色の塊が、オズヌさんだということはこの距離からでも十分判断できる。
「あ……オズヌさんが、すぐそこまで来ていいマスね」
ちょっとわざとらしかったかもしれないが、話をそらせた僕の言葉に、リーリスさんも長い耳をぴくぴくさせて、音の方向を振り向く。
その時だった。
「きゃーーっ!!」
数人の女の子達の悲鳴が聞こえた。
どうやら、この惨状を目にして衝撃を受けているに違いない。
「こ、これはいったい……どうして!?」
瞳に涙をためて怯える少女達を慰めるように、ロレンさんが彼女たちに声をかけた。
「おお、ここに捕らえられて居た方々ですかな? ご安心いただいて構わないですぞ! もう、皆様方を虐げる奴らはおりませんぞ。全員、ワタクシとリーリス殿で倒しましたからな!」
「「!!」」
「はっはっh『ごきゃめきゅっっ!!』ぶぉぉぉぉっ!?」
高笑いを途中で叩き潰すダイナミックストレ―トな拳が、ロレンさんの顔面に炸裂した。
もんどりうってぶっ倒れる変態紳士……いや、変態少女。
一撃で完全ノックアウト状態だ。
「え? な、何が……?」
見れば、滂沱の涙を流しながらリーリスさんを睨みつける猫耳の美女。
え? シェーダ……さ、ん?
「……貴女達が、先生を……先生を……っ! ……さない……絶対にッ!! 許さないッ!!!」
ダンっ!! シェーダさんが大地を蹴る。
と、驚異の跳躍力でリーリスさんに肉薄する。
「レイニー、伏せるっス!!」
ばきっ!!
僕を庇うように自身の背中側に下ろすと、リーリスさんは一歩前に出て、シェーダさんの長い脚から繰り出された蹴りを受け止める。
「……っ重」
リーリスさんが小さく呻く。
「はアァァァァァァァァァッ!!」
シュパン! シュバババババババっ!!
「わ!? ちょ!? ぐっ!」
武闘家の闘気をまき散らし、連撃パンチと蹴りを、バク転・側転を絡めてのアクロバティックな攻撃に、防戦一方のリーリスさん。
つーか、シェーダさん強ぇぇぇっ!!
「ハァッ!!」
バキィッ!!
「ッ!! リーリスさんっ!!」
連撃を受けきれず一瞬よろめいた所に、シェーダさんのハイキックが炸裂した。
ドカッ!!
「ぐぅっ……!!」
リーリスさんが、吹っ飛ばされ、建物の壁にぶつかる。
「シェーダさん! やめてくだサイっ!」
「ハァァ……」
しかし、僕の言葉など耳に入らないのか、再び闘気をその身に纏い始めるシェーダさん。
リーリスさんの方は、そこまで深刻なダメージではなさそうだが、それでも額から血を流し、幽鬼のようにふらりと立ち上がる。
片や慣れない女性の身体、さっき僕があんな話をしてしまったせいでシェーダさんに手を出しづらい心境のリーリスさん。
片や、スオウさんの仇とばかりに殺気全開、とめどなく涙を流しながらも、もはや動きのキレが凄腕の暗殺者のそれであるシェーダさん。
……明らかに分が悪い。
「……死ねッ!!」
ダンッ!!
シェーダさんのしなやかな肢体がとどめの一撃を放つ。
バキッ!!
「おいおい、一体何がどうなってるんだ?」
「オズヌさん!!」
間一髪。猫耳美女の鋭いこぶしが、リーリスさんを粉砕する直前。
その鋭い一撃を受け止めるビックもふもふキーウィ鳥!!
目にもとまらぬ速さで、シェーダさんの拳を真剣白刃取りのごとく、その長いくちばしで、かぷり、とくわえている。
「……くっ、セイッ! タァッ!!」
シェーダさんが、咥え取られた拳をひねるように引き抜くと同時に回転し、遠心力を乗せたハイキックをオズヌさんの額めがけて蹴り上げる。
バシッ!
そのカモシカのような彼女の美脚を、恐竜のような前足をぐぐっと上げて受け止めるオズヌさん。
すっげ! キーウィってあんな身体やわらかいんだ!?
まんまるふこふ姿だと、何だかちょっとこユーモラスにも見えなくもないが、今はとっても渋くてカッコいいです、オズヌさん!!
「邪魔をするなら、貴方も先生の仇ですわッ!!」




